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糖尿病セミナー
小児の糖尿病(2)日常生活Q&A
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
三木裕子先生

     このページは、1型糖尿病の子どもやご家族が疑問を抱くことの多い事柄を、Q&Aで三木先生に答えていただく形式でまとめたものです。小児の糖尿病の全般的なことについては、このコーナーの「小児の糖尿病(1)―基礎―」で解説していますので、必要に応じてご参照ください。

    三木裕子みきゆうこ先生プロフィール
     1957年生まれ。12歳のときに1型糖尿病を発病し、そのときに抱いた「将来は医師になる」という夢をかなえ、東京大学医学部附属病院で小児科医として勤務。29歳で結婚。発病から糖尿病を受容できるまでの期間が長かったこともあり(自称・劣等生患者)、網膜症を発症、レーザー治療を受けたこともあるが、その後コントロールを改善、35歳のときに元気な男の子を出産。その後も、医師として、そして同じ病気の患者として、糖尿病の子どもたちに接してきました。2005年、糖尿病とは異なる病気のため、惜しくも逝去されました。この小冊子の編集にあたって三木先生は、読者のみなさんへ、「よく『糖尿病だからといって、できないことはなにもない』といいますが、本当にそうだと思います。中学生になったらやってみたいこと、高校時代にかなえたい夢、将来こんな大人になりたい、結婚、出産…。どれも糖尿病を理由にあきらめなければいけないことではないはずです」と、メッセージされています。


    Q1
    私が1型糖尿病になったのは、なにが悪かったのですか?
     なにも悪くありません。1型糖尿病は食べすぎなどの生活習慣とは関係なく発病します。糖尿病がどうして発病したのかを知ることは、病気の理解を深めるためにもよいことですが、「なにが悪いのか」と考えても、何も生まれてきません。
    Q2
    先日、うちの子が糖尿病と診断されました。親としては、何から始めればよいのか教えてください。
     治療や生活面については他のテキスト類を参考にしていただくとして、ここでは気持ちの持ち方についてアドバイスします。
     保護者の方が陥りやすいのが「うちの子はなんて可哀相、なんて不幸なんだ」という心情です。ところが実際は低年齢で発症した場合、本当に大変なのは、食事やインスリン注射を管理する保護者なのです。本人は大抵それほど大変だと思っていません。私もそうでしたし、診察中に子どもに「何か大変なことある?」と聞いても、「何が?」と逆に聞き返されます。
     周囲から可哀相がられてばかりだと、子ども自身も「自分は可哀相なんだ」と思い込むようになり、それはあまりよいことではありません。保護者の方は、「一番大変なのは自分なんだ」ぐらいに考えて、過保護、過干渉にならないように注意が必要です。兄弟がいるのであれば、糖尿病でない子と分け隔てなく接するようにしてください。
     また、糖尿病のコントロールには、糖尿病であることを受容することが一番大切です。小児糖尿病の場合、まず、親が子どもの病気を受容できるかどうか、それがキーポイントになります。
    Q3
    糖尿病だからやってはいけないこととは、どんなことですか?
     ありません。スポーツにしても、オリンピックを目指して1日3〜4時間スイミングをしている子もいますし、トライアスロンをやる人もいます。ただ、どんな場合にも、自分の血糖値を自分で管理すること(低血糖の処置など)ができなければ、やっていいこともできなくなります。
    Q4
    なぜ、血糖コントロールの良い子と良くない子の差が生じるのですか?
     病気を受容できていない、病気であることを無視して生きようとしている子どもほど、コントロールがよくありません。しかし、こういう子も多くは何かがきっかけで、自分に糖尿病があることを認めたとき、コントロールが改善します。
     悪い見本が私自身で、本当の意味で受容できたのは30歳を過ぎ、網膜症が進行していると診断されたときでした。それまでは、自分も糖尿病でない人と一緒だと思いたいので、血糖測定もせず、1週間ほとんど眠らずに働くような生活をしていました。しかし、私のような劣等生患者はそう多くはありません。
     ひとつの出来事をきっかけに、コントロールが改善した例を挙げます。発病して6年間HbA1c10%前後が続く中学生の女の子がいました。彼女は高校受験のとき、面接で自分の病気のことを話したそうです。その結果見事に合格し、病気のある自分に自信を持つようなり、それからは素晴らしいコントロールになりました。多分、彼女の中で糖尿病に対するイメージが、マイナスからプラスに変わったのでしょう。マイナス思考を変えるには、言葉としては適切でないかもしれませんが、「病気を味方にして利用する」考え方も、必要だと思います。
    Q5
    子どもの糖尿病の食事療法で、大人の食事療法と異なる点はありますか?
     子どもは成長しているということです。栄養は十分に摂らなければいけません。摂取カロリーは〔1,000+年齢×100〕を目安に、体格にあわせて決めますが、成長にあわせて増えていきます。一旦摂取カロリーを決めると、2年ぐらいそのまま気付かずに過ぎてしまうといったことが意外に多いようですので、できれば保護者の方が、ときどき主治医に確認するのがよいのかもしれません。厳しい食事制限は不要です。必ず後にしわ寄せ(摂食障害など)が生じます。
    Q6
    食事は決まった時間に食べないといけませんか?
     1時間ぐらい前後するのは問題ありません。毎日きっちり同じ時間に3食摂るのは、実際には難しいことです。例えば、学校が休みの日にはいつもより寝坊したいものです。それをいつもどおり起きて、注射と食事をしてからまた寝るといった無理をしたとしても、そういう不自然な行動は長くは続かないでしょう。ただし、食事時間の変化による血糖値の変動が激しい子は、その対策を考えてください。
    Q7
    朝、時間がなくて朝食抜きになってしまうことがあるのですが…
     原則的に、注射をする以上、食べなくてはいけません。しかし最近の調査では、中高生の半数以上が朝食を抜いているということです。もし、どうしても遅刻寸前の時間にしか起きられないのなら、おにぎりかなにかを作っておいてもらい、家で注射して、学校に着いたらそれを食べるようにします。ただ、超速効型インスリンを使用している場合や、速効型インスリンでも学校まで30分以上かかる場合、朝の血糖値が低い場合は、低血糖の心配があるのですすめられません。4回法(朝昼夕と就寝前に注射する方法)なら、朝のインスリンは打たずに行き、学校に着いてから注射して食べる方法もあります。
    Q8
    誕生日やクリスマスパーティーでもケーキはがまんしないとだめですか?
     そんなことはありません。1年に1回の特別な日に、特別なことをしたいと思うのは当然なことです。ただ、ケーキを食べれば血糖値は上がりますので、あらかじめ速効型や超速効型のインスリンを少し多めに打つなどの工夫は必要です。
     最近、厳しい食事制限をしてきた思春期以降の患者さんに、摂食障害の人が多いことがクローズアップされています。これは、子供のころから「これはだめ、あれもだめ」と制限を続けていた反動のひとつです。すべてを規制するのではなく、どうしても食べたいのならインスリンを追加して食べるという、柔軟な考え方もときには必要です。ただし、その場合は主治医に相談してください。
    Q9
    夜食は必ず食べさせたほうがよいのですか?
     過去に夜中に低血糖で痙攣を起こしたことがあれば、寝る前に血糖値を確認して、夜食を摂る必要があるか、そのまま寝かせても大丈夫か判断してください。血糖値がいくつ以上なら大丈夫という基準はありません。低血糖を起こさずに、しかも朝の血糖値が一番よくなる方法を、みなさん試行錯誤してみつけています。
     夜食には、血糖値をすぐに上昇させる糖分の多いものよりも、ゆっくり血糖値を上げる炭水化物(ごはんやもち)、たんぱく質や脂質が多いものがよいでしょう。そのほうが、血糖値を上げ過ぎることなく、明け方まで長時間維持できます。例えば小さなピザのようなものです。
     また、昼間の運動量が多いと、夜中に低血糖を起こす確率が高くなります。運動による血糖降下作用は、運動直後だけではないためです。ふだんは低血糖だと目が覚める子も、運動で疲労こんぱいしていると目が覚めないこともあるので、激しい運動をした日の夜は、注意が必要です。
    Q10
    うちの子の場合、血糖値が突然高くなったり、逆に急に下がることがよくあります。なにが原因なんでしょうか?
     子どもは大人よりずっと体格が小さく筋肉が少ないので、血糖値は少量のインスリンやわずかな食事・運動量の変化にも敏感に反応します。また、お子さんのインスリンの分泌が全くなければ、発病後間もない時期の、インスリンが少しは分泌されている時期に比べて、血糖値は変動しやすくなります。とくに身体の小さな子どもでは、1単位刻みのペン型注射器では血糖コントロールがうまくいかないこともあります。その場合は0.5単位刻みで調節できるペン型注射器やシリンジを使用し、インスリンを微量調節する必要があります。主治医と相談してください。
    Q11
    インスリン注射のときに、インスリンが漏れてしまったらどうすればいいですか?
     これは大人でもよくあることですが、1回のインスリン量が少ない子どもの場合は、血糖値への影響が大きいので注意が必要です。漏れた量を正確に把握することはできませんから、すぐにもう一度注射するのではなく、しばらく血糖値の変動に気をつけ、必要なら血糖測定をし、いつもより高いようであれば、追加してインスリンを注射します。
    Q12
    塾がある日の食事・インスリンは、どう調節すればよいでしょうか?
     夕食が極端に遅くなるのはよくありません。4回法の場合は、塾の前に食べる量にあわせてインスリン(いつもの3分の2を食べるなら3分の2の量のインスリン)を注射して、帰宅後また食べる量にあわせてインスリンを打つとよいでしょう。夕食を食べるには早すぎる時間に塾が始まる場合は、インスリン注射はせずに、軽くおやつぐらいを食べて、帰ってきてから注射して食事をします。
     ただし、塾までの距離や時間帯などにより対応は千差万別ですので、必ず主治医に相談して決めてください。この質問に限らずすべてに共通していえることですが、糖尿病の治療の中の細かい部分には、「全員こうすべきだ」という一定の方法はありません。
    Q13
    最近インスリンの使用量が急に増えてきました。糖尿病が悪化しているのでしょうか?
     小児期には身体の成長とともに、必要なインスリン量は増えていきます。インスリンは、ブドウ糖を体内に取り入れるのと同時に、身体の成長のためにも欠かせないホルモンですから、とくに思春期の子どもなら、インスリンの必要量が急速に増加しても、それは病気が悪化しているわけではありません。
    Q14
    インスリンを増やすと太ると聞きましたが、本当ですか?
     インスリンが太らせるのではなく、インスリンを増やして食べる量を増やすから太るのです。インスリンを減らし、必要な量を注射しなければ、高血糖が続きブドウ糖は利用されないのでやせてきます。しかしそれはいうまでもなく、コントロールが悪い状態、病気でやせている状態です。健康的な成長のために、十分な栄養摂取と必要なだけのインスリンを注射することが大切です。
    Q15
    血糖測定は1日何回すればよいのですか?
    「1日何回」という規則はありません。小さい子は、お母さんが1日3〜4回測っているケースもありますが、大きくなってくると平均2回ぐらいのようです。
     血糖測定で注意することは、測定値に振り回されないことです。よく、高血糖だとわかったとたんに落ち込んだり怒り出す子がいます。それでは、せっかく良いコントロールを続けるためにしている血糖測定が、役に立ちません。大切なのは血糖値が高すぎるとわかった後の対応と、そうなった原因を探して、明日からのコントロールに役立てることです。また、血糖値を測ること自体が目的となってしまい、記録用紙にビッシリと記入するのも意味のないことです。
     逆にこまめに測らなければいけないのは、具合の悪いときや、症状がはっきりしないのに低血糖だと思ったとき。低血糖と思って補食を繰り返していて、確かに補食で具合は良くなるけど、あるときちゃんと測ってみたら、それほど低い血糖値ではなかった、というのは、血糖コントロールの悪い人にはよくあることです。
    Q16
    低血糖を覚えさせる方法を教えてください。
     小学校の低学年ぐらいまでは、低血糖を自覚できない子どもは結構います。でも、なんとなく変だという感覚は、子ども自身もわかっているようです。親がそばで見ていて、明らかに低血糖なのに本人が気付いていないときには、「あっ、これは低血糖だね」と声をかけて甘い物をあげてください。子どもが“何かおかしい”というようなときには、血糖値を測定してみてください。小さい子は高血糖のときにも「お腹が空いた」と言うことがよくあります。
     このようにして、徐々に自分の低血糖の症状がわかるようになります。低血糖がわからないと、生活にかなり制限が加わってしまうので、早く自覚できるようになりましょう。
    Q17
    運動療法は何歳から始めればよいですか?
     子どもの場合、いわゆる“運動療法”は、基本的には必要ありません。小学生ぐらいまでは、幼稚園や学校で遊ぶだけで十分で、「1日○歩歩きなさい」などの指示は不要です。逆に、運動や遊びを制限する必要もありません。ただし、雨の日など外で遊べない日には血糖値が上がりますので、インスリン量を増やすことも考慮します。また、中学生ぐらいになって、家でゲームに熱中しているような子には、少し外に出歩くようにすすめてください。
    Q18
    実は、親に黙ってよく間食をしています。また、血糖の測定値が高いと、低めに記入してしまいます。いけないとはわかっていても、やめられません。
     私もそうでしたので、そうする気持ちはよくわかります。今考えると、「なんでそんなことを…」と思いますが、親には叱られたくないし、多分、医師の前では“いい子”でいたかったのでしょう。ただ、こうしたことは、治療にとってマイナスであることは間違いありません。間食がどうしても我慢できなければ、それがストレスになるより、インスリンを若干増やして食べたほうがよいこともあります。自分だけで悩んでいないで、お母さんや病院の先生に相談するようにしましょう。“うそ”をつき通すには、うそを積み重ねなければいけなくなります。
     また、保護者の方で自分の子もそうしているのではないかと思い当たるのなら、血糖値が高いときに叱ったり、がっかりした表情をしていないか振り返ってみてください。子どもはそういう親の様子を目にするのが辛くて隠すのですから。隠れて食べていることがわかったときにも叱るのではなく、隠す必要はないことを時間をかけて説明してあげてください。そして必要なら、主治医と相談して食べる量を増やしてあげてください。
    Q19
    思春期に入ってから、親の言うことを全然ききません。コントロールもよくないようで、このままでは合併症が心配です。
     思春期は、社会的に自立した大人へと成長するひとつの過程だと考えてください。多少荒れても、親はじっと見守っている時期が必要だと、私は思います。もちろん生命に関わるような状況のときは、しっかりと助言してもらわなければいけません。それ以外は、距離をおいて見ている姿勢が大切です。糖尿病でなくても、親の言うことを聞かない時期はあるのですから。
     ひとつだけ注意したいことは、小さいときに発病したのなら、思春期に入るまでに糖尿病の再教育(インスリン注射がなぜ必要か、合併症の怖さなど)を十分しておくことです。幼少期に発病すると、最初に聞いたうろ覚えの知識のまま大きくなってしまうことも少なくありません。理解力にあわせ、少しずつ知識を身に付けていくようにします。
     あとは、「やらなくて将来困るのはあなた自身なのよ」ぐらいに思うのがちょうどよいかもしれません。「血糖測ったの?」「ちゃんと注射したの?」と言い続ければ、子どもはもっと反抗的になります。仮にコントロールが目茶苦茶で、半年ぐらいHbA1cが10%ぐらいだったとしても、その期間だけであれば、重度の合併症にはまずなりません。あまり干渉し過ぎると、子どもは自分のためでなく、親のためにコントロールするという気になり、自立した社会性を持てなくなるのが心配です。
    Q20
    幼稚園や学校の友達・先生に糖尿病のことを正しく知ってもらう方法を教えてください。
     糖尿病であることをあいまいにしたまま通園・通学するのは、食事や低血糖の心配などの心理的な負担が大きくなり、よくありません。自分で説明できない年齢であれば保護者が、自分で説明できるのであれば本人が、学校の先生や友達にしっかり伝えておきましょう。最近では小児糖尿病関連の本がいろいろ出ていますので、それを持っていくのもよいでしょう。中途半端な説明が一番いけません。元気でいるためにはインスリン注射は絶対に必要なこと、低血糖が起きる可能性は常にあることなどを、正確に伝えましょう。それにはまず、説明をする人自身が糖尿病を正しく理解していなければいけません。
    Q21
    将来プロのサッカー選手になりたいのですが、無理でしょうか?
     スポーツの分野で活躍している1型糖尿病の患者さんはたくさんいます。プロ野球ではかつて巨人軍にガリクソン投手がいました。最近では、エアロビクスの世界大会で優勝した日本の高校生がいます。
     サッカーはスポーツの中でもかなり激しいですね。低血糖は避けることはできません。でも、自分の血糖値を自分で管理できるようになれば、ワールドカップに出場できるようなサッカー選手になることも、決して夢ではありません。

    高校生・大学生になって1型糖尿病を発病すると、

     小児期を過ぎ、ある程度大人になってから1型糖尿病を発病した患者さんをみていると、子どもたちとは別の大変さがあるようです。
     まず、保護者に面倒をみてもらう年齢でないので、最初から自分一人で勉強し、すべてを管理していかなければいけない大変さがあります。そして、発病するまでの糖尿病ではなかった期間が、小児期に発病した人より長く存在することも、病気を受容する妨げとなります。さらに、ちょうど自分の夢や希望が具体的になってくる時期でもあります。
     一般には小さいころに発病するほど苦労が多いように受けとりがちですが、こういう人たちの大変さを理解することも、同じ患者として必要なのかもしれません。
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