糖尿病ネットワーク 糖尿病患者さんと医療スタッフのための情報サイト
糖尿病ネットワーク
 
糖尿病セミナー
運動療法のコツ(2)合併症のある人の運動
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
  阿部隆三先生

 糖尿病の運動療法の基礎的なことがらは、このコーナーの「運動療法のコツ(1) 基礎」で取り上げていますので、必要に応じてご参照ください。


より注意しながら運動を続けましょう

 運動療法は糖尿病の治療に欠かせません。しかし、合併症がある人がむやみに運動すると、身体の状態を悪化させてしまうことがあります。だからといって、合併症があればじっとしていなければいけないというわけではなく、適切な運動を続けることで、全身にさまざまなよい影響が現れてきます。主治医とよく相談して、注意しながら運動療法を進めていきましょう。

メディカルチェック
 

必ず医師のチェックを受けましょう

 運動療法を始めるにあたっては、必ず医師のメディカルチェックを受けます。これは、合併症がない人でも同じことで、メディカルチェックによって、その人の体力に合った運動の強さを決めたり、隠れているかもしれない合併症やほかの病気をみつけることができます。合併症がある場合、メディカルチェックがより重要になります。運動しながらの心電図・血圧測定、運動後の尿蛋白の測定などの検査によって、どの程度の運動なら問題ないのかを確認します。
こんなときは運動しない
 ひとつでもあてはまれば、その日の運動は休みます。


血糖値が250mg/dL以上で尿ケトン体陽性
収縮期血圧が180mmHg以上
脈拍が1分間に100以上
体調が悪い(熱があったり、頭痛・腹痛がする、下痢をしている、睡眠不足など)

 よく、合併症が出始めていると診断された途端に真剣に治療に取り組むようになり、メディカルチェックを受けずにいきなり、糖尿病の一般的な解説書に書かれているような運動を始めたり、医師に指示されている以上の運動をする人がいます。しかし、それによって眼底出血や心臓発作を起こしたり、腎症の進行を早めてしまうことがあります。運動療法は、必ず医師の指示に従って進めてください。

合併症ごとの注意事項

 実際に運動をするときは、どんな注意が必要なのでしょう。

網膜症がある場合

〈注意すること〉 眼底出血、硝子体出血。
〈原因〉 運動中の血圧上昇・血流増加に、網膜の血管が耐えられなくなって出血します。
〈運動の進め方〉 軽度の単純網膜症なら、運動を制限する必要はありませんが、単純網膜症でも重度の場合(点状出血が活発に変化したり、黄斑浮腫があるとき)や増殖前網膜症の場合、血圧に影響の少ない軽い運動のみにします。息を止めて力んだり、頭を下げたり強く振るような運動もよくありません。
 増殖網膜症の場合は、積極的な運動療法はしません。ただし、日常生活活動を制限する必要はありませんし、眼科の治療を受けて網膜症の進行が止まれば、運動療法を再開することができます。
 網膜症がある場合の運動療法は、糖尿病の主治医と眼科医に十分相談して進めていきましょう。なお、低血糖をきっかけに眼底出血が起きることもあるので、運動中・後の血糖管理に気をつけてください。

腎症がある場合

〈注意すること〉 腎症の悪化。脳や心臓の血管の障害。網膜症の進行。
〈原因〉 運動中の血圧上昇や血流の変化が、腎臓の血管に負担をかけ、腎症の進行が加速されます。腎症の悪化により血圧はさらに上昇し、網膜症や心臓病の悪化、あるいは脳血管障害を起こす可能性が高くなります。
〈運動の進め方〉 微量アルブミン尿期で血糖コントロールがよい状態が続いていれば、通常の運動で問題ありません。蛋白尿が間欠的にみられるようになると、運動によって尿中の蛋白が増えないことを検査で確認しながら運動強度を決めます。蛋白尿が持続的にみられるようになると、血糖コントロールを目的とした運動療法は行いません。ただこの場合も、動かずにじっとしていたほうがよいのではなく、検査で腎臓やその他の臓器の機能を確かめながら慎重に運動療法を進めていくことで、血糖低下以外の運動効果を引き出すことができます。
 また近年、腎症が進行して人工透析を受ける人が増えていますが、そういう患者さんも軽い運動を続けると、骨量の減少を防ぐことができ、身体の活動レベルも高まり、生活範囲が広がるなど、効果は少なくありません。

神経障害がある場合

〈注意すること〉 足の壊疽〈えそ〉。不整脈・心不全などの危険。無自覚性低血糖。
〈原因〉 知覚が低下していることで、足の怪我に気付かず治療が遅れます。また、自律神経の障害で、心臓の働きを適切にコントロールできず運動によって不整脈や心不全が起きたり、運動中・後に血糖値が低くなっても自覚症状が現れず急に低血糖の意識障害を起こしたりします。
〈運動の進め方〉 足の壊疽は、日頃の足の手入れを習慣的に行うことで予防できます。毎日、寝る前に足に怪我がないか確認しましょう。足の裏などを自分で確認できなければ、周囲の人に見てもらいましょう。怪我やタコなどをみつけたら、すぐに病院で処置してもらってください。
 自律神経障害が軽度の場合は、軽い運動なら構いませんが、中等度以上に進行している場合、慎重に進めていかなければいけません。脈拍や血圧から運動の強度を推し量ることは危険です。少しでもきついと思ったり違和感を感じるような運動は、中止してください。また、無自覚性低血糖を起こさないため、運動中・後の血糖管理に気をつけましょう。
 神経障害の影響が手足のしびれだけの場合は、運動療法を制限する必要はありませんが、運動が苦痛なようであれば、症状が回復してからにします。

その他の合併症がある場合

 糖尿病の人には高血圧や狭心症、心筋梗塞などの合併症がある場合も多いので、そういった人も必ず医師の指示を守ることが大切です。基本的には、血圧や脈拍が上がり過ぎて心臓・血管系に負担となる運動は控えます。心臓の病気が起きたり悪化していても、神経障害のために本人は気付かないこともあるので、十分注意してください。
 また、糖尿病の人は、骨がもろくなっている人が多いので(骨粗鬆症〈こつそしょうしょう〉)、骨折や関節の障害に注意してください。肥満している人も同様に、膝や足首の関節を痛めないため、ある程度減量してから運動します。水泳などの下半身に体重のかからない運動がよいでしょう。

こんな運動がお薦めです

 軽度の合併症がある場合の運動は、血圧や脈拍への影響が少ない軽い運動が基本になります(表の黄色の部分の運動)。どんな運動をどの程度の頻度で行うかは、その人の体力、合併症の程度、全身の状態によって、オーダーメードのメニューが組まれます。主治医の指示に従ってください。一般的には、早めの歩行あるいは自転車を中心とした、軽めの全身運動がよいとされます。
こんな症状が現れたら
 運動中に次のような症状が現れたら、すぐに運動を中止して主治医に報告してください。

動悸がしたり、脈が乱れる
胸が痛む、締めつけられる
関節や筋肉に強い痛みが走る
気分が悪くなる
目がかすむ
めまいがする
いつもと様子が違う(疲れ方が異常など)
低血糖症状

 足を怪我している場合には、座った状態でできる運動(上半身の筋力トレーニングなど)でも、体力の低下を防いだり、筋肉が増えることによる血糖コントロールの改善も期待できます。また、目が悪い人では、転倒を防ぐため、自転車エルゴメーターやトレッドミルを利用すると、安全に運動できます。
 合併症がより進行している場合、さらに慎重さが求められます(表の赤色の部分の運動)。例えばゆっくりとした散歩などがよいでしょう。脈拍に変化が現れない程度の歩き方でも、継続していけば体力の低下を抑えられますし、ストレス解消に十分効果が上がります。

合併症病期・病態適した運動・留意点
網膜症なしふつうの運動
単純網膜症軽度
重度軽い運動(歩行・自転車など)
増殖前網膜症安定している
不安定(進行している)さらに慎重に
増殖網膜症
腎 症なしふつうの運動
微量アルブミン尿運動しても変わらない
運動により増加する軽い運動(歩行・自転車など)
蛋白尿間欠的にみられるが、運動しても変わらない
間欠的にみられ、運動により増加するさらに慎重に
持続的にみられる
腎不全
神経障害なしふつうの運動
しびれや痛み運動に支障がない
運動で症状が悪化する症状が回復してから
知覚の低下・まひ足の手入れを習慣的に
自律神経障害軽度軽い運動
中等度以上さらに慎重に

血糖低下以外の効果も大切です

 合併症がある人の運動療法は、軽度の運動を注意深く進めていく必要があるために、血糖コントロールということに限ってみれば、急激な効果は期待できない面もあります。しかし、運動療法の目的は、運動の直接的な血糖降下作用だけではありません。ここで、運動療法の効果を確認しておきましょう。

  • 運動療法の効果

    (1) 運動により体内のブドウ糖を消費し、血糖値が下がる
    (2) 筋肉細胞のインスリンに対する感受性が高まり、血糖コントロールが良好になる
    (3) 血圧が低下する
    (4) 血液の循環が良くなる
    (5) 脂肪を消費したり燃焼しやすい体質になり、動脈硬化の進行を防止する
    (6) 心臓や肺の機能を高めたり、脳・心臓血管の病気を予防・改善する
    (7) 体重が減少する
    (8) 足腰が強くなり骨量減少や老化を予防する
    (9) ストレスが解消され気分が晴れやかになる
    (10)体力がついて身体の動きが楽になり、日常生活が快適になる(QOLの改善)

     運動には、このようなメリットがあり、合併症があっても多くの効果を得られます。それらの効果の結果、運動量を少しずつ増やすことができれば、さらに大きな効果が生まれます。寝たきりになるのを防いだり、生命予後(寿命)にもよい影響を与えます。血糖コントロールについては、急激な効果を期待するのではなく、1年あるいは2年といった長い目でみれば、必ずよい影響が現れます。

    運動による低血糖・高血糖
     運動により低血糖を起こしたり、逆に血糖値が上昇することがあります。
     運動と血糖値は、表のような関係にあります。血液中のインスリン量が正常なら、筋肉が消費した量と同じ量のブドウ糖が肝臓で作られ、血糖値は正常範囲内の変動に収まります。
     ところがインスリン療法をしている人が、血液中のインスリン量が多過ぎる状態で運動すると、筋肉で消費したブドウ糖に見合う量のブドウ糖が作り出されず、低血糖を起こします。これは、インスリンが肝臓のグリコーゲン分解・ブドウ糖生成を抑制する作用をもっていることと関係しています。逆に血液中のインスリンが少ないと(高血糖状態)、筋肉であまりブドウ糖が消費されません。ところが肝臓は運動量に合わせてブドウ糖を作るため、血糖値がさらに上がってしまいます。
     運動と血糖値のこういった関連を理解して、安全に運動療法を続けていってください。
      ※グリコーゲン分解・ブドウ糖生成
       食べたものに含まれる糖分は、消化・吸収されてブドウ糖となり肝臓に送られます。肝臓はブドウ糖をグリコーゲンに作りかえて保存しておきます。身体活動により筋肉でブドウ糖が消費されると、肝臓はグリコーゲンを分解し、再びブドウ糖として血液中に放出します。

    運動と血糖値の関係
    血液中のインスリンの量筋肉のブドウ糖の消費肝臓で作られるブドウ糖の量血糖値の変化
    正 常↓↓(多く消費する) ↑↑(多く作られる) → (変化なし)
    多 い↓↓(多く消費する) ↑(あまり作られない) ↓(低血糖)
    少ない↓(あまり消費しない) ↑↑(多く作られる) ↑(高血糖)

    必ず定期的な検査を

     運動が合併症に悪影響を及ぼしていないか、運動の強度が適切かどうかといったことを確認するために、定期的に検査を受けることが大切です。検査の際には医師に、普段どの程度の運動をどのくらいの頻度で行っているのかを伝えてください。
     運動療法を開始して3カ月ほど経過してから受けた検査で病状が悪化していれば、それは運動療法のマイナス面の影響と考えられますので、運動メニューの変更が必要です。
     また、血圧や血糖値の上昇など、運動を始める前にはなかった変化が現れたら、運動を中止してすぐに主治医に相談してください。

    まとめ

  • 合併症がある場合、運動療法が逆効果になることがある
  • 必ず医師の指示を受けて適度の運動強度・量を守る
  • 定期的な検査を欠かさない
  • 異常を感じたら運動を中止し、主治医に相談する
  • 運動療法の意味・目的を広くとらえ、適切な範囲内の運動を気長に続けることが大事
  • 運動の継続によって、糖尿病の治療に限らず、ほかの病気の予防・改善、老化防止などに多くの効果が生まれる
    Copyright ©1996-2018 Soshinsha. 掲載記事・図表の無断転用を禁じます。