血糖自己測定30年
インスリン注射と血糖自己測定25年
1978年、出揃った世界の血糖自己測定報告
 昭和40年から糖尿病臨床と取り組むようになって10年を経た頃、診療している1型糖尿病の予後が極めて悲惨なものであることを実感させられていた。当時のインスリン注射療法はレンテインスリン(現在の中間型インスリンに相当)の1日1回投与が中心で、在宅治療に際しては尿糖測定がすすめられていた。しかし、多くの症例が数年の経過で合併症を来たし、1型糖尿病の治療はお手上げともいえる状態であった。
Dexter の登場
 このような中で、アメリカのマイルス社(エームス事業部)により dry chemistry system による簡易血糖測定法が開発された。ここで用いられた試験紙はデキストロスティックスと名づけられ、色調を測定する専用の分光輝度計としてエームス リフレクタンスメーターが考案された。かなり大型だったこの機器は1974年小型化され、Dexter(デキスター)として発売(13万8000円)され、これが簡易血糖測定を実用化させるに至った。
尿糖から血糖への始動
 この頃、大学の糖尿病専門外来には若年発症糖尿病症例が、すでに80名を超えていた。これら若年者の糖尿病管理の質を高める上で、「尿糖から血糖へ」という自己管理法の変換についてデキスターは、その可能性を強く感じさせてくれた。

 1976年4月、8名の若年発症糖尿病症例に血糖自己測定(SMBG)を取り入れる試験的研究がスタートした。このスタートを可能にしてくれたのは、デキスターの販売元の学術担当部長の英断によるデキスター/デキストロスティックスシステムの無償提供、そして患者自身の手になる自己採血の工夫、さらには知的レベルの高かった若年患者の絶大な協力によるものだったといえる。
試験研究(pilot study)のスタート
 表1は、各症例の臨床像を示したものである。高校在学中の男子1名を除き、その他は全て大学卒であった。発症年齢は9〜28歳と、いずれも若年発症症例で罹病期間は3〜19年、平均10.5年であった。

 血糖自己測定は個別に指導し、検査手技の安定を確認した後、在宅のまま当初は毎日、その後は隔日に空腹時血糖と必要に応じて食間、または食後にも測定させた。この間、尿糖ならびに尿ケトン体の検査は従来通り早朝と就寝前に毎日実施させた。

表1 症例の臨床像
症 例 年齢/性別 身長 (cm) 体重 (kg) 発症年齢 罹病年数 学歴・職業
H. U.
A. M.
R. K.
N. S.
N. O.
M. S.
Y. K.
K. O.
18/男
20/女
24/女
24/男
26/男
27/女
39/男
46/男
173
156
148
165
167
153
163
158
47
60
44
46
59
53
48
42
15
12
9
13
14
22
28
27
3
8
15
11
12
5
11
19
高 校 生
大卒・家事手伝い
大卒・仏文学研究
大 学 生
大卒・教師
大卒・主婦
大卒・会社員
大卒・教師

 表2は、血糖自己測定開始後の空腹時血糖値の推移を示している。糖尿病のコントロール状態は、poor (P)、fair (F)、good (G)に分けて、その結果も示してある。この成績は、1977年日本糖尿病学会総会では誌上発表とされたが、同年第13回欧州糖尿病学会では「糖尿病患者教育に関するシンポジューム」の指定演題となり、大反響を生んだのであった。

表2 血糖自己測定開始後における空腹時血糖値の推移
症 例 空 腹 時 血 糖 値 (mg/dL) 糖尿病のコントロール状態
2 4 6 8 10 12カ月後
H. U.
A. M.
R. K.
N. S.
N. O.
M. S.
Y. K.
K. O.
158±43
196±62
386±127
315±50
159±49
119±13
108±14
210±54
205±37
145±45
330±96
214±65
154±18
135±37
115±13
196±86
127±42
151±50
324±89
226±66
149±23
85±10
125±13
145±70
120±36
155±48
311±54
201±59
153±24
95±9
103±23
114±49
118±33
131±42
234±111
228±58
162±39
162±39
 77±13
 70±16
113±23
106±33
177±127
280±52
143±22
120±24
 87±20
118±28
118±25
117±28
181±51

149±14
 96±15
 90±16
106±45
F → G
P → G
P → P
P →  
F → F
G → G
G → G
P → G
1978年、国際的な認知へ
 このシンポジュームでは、イギリスのタタサールらのグループからも同様な趣旨の発表があり、その成績も含め1978年、表3に示すごとく血糖自己測定に関する各国からの報告がそれぞれの専門誌に掲載され、世界中が SMBG を認知する年となった。今、それから25年を経たというわけである。

表3 欧米誌に発表された5論文
 1. Ikeda Y et al : Diabetologia 15 : 91-93, 1978
 2. Sönksen PH et al : Lancet 1 : 729-732, 1978
 3. Walford S et al : Lancet 1 : 732-735, 1978
 4. Danowski TS et al : Diabetes Care 1 : 27-33, 1978
 5. Skyler JS et al : Diabetes Care 1 : 150-157, 1978

2003年07月


※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。

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