第7回・第8回・第9回:5種類の計測機器で糖尿病患者さんを1週間モニタリング「食後高血糖に対する尿糖チェックの有用性研究」症例報告

まとめ
「血糖と尿糖の相関性、尿糖チェックのこれから」

「尿糖自己測定」は実際どうなのかを検証してみよう!と、今までにない試みに挑戦し、尿糖自己測定の効果的な活用法について考察してきました。今回はまとめの最終回です。

Q. まず、今回の尿糖実証実験について、全体的なご感想をお願いいたします。

加藤 光敏 先生(以下、Dr. 加藤): まず率直にとても面白かったです。食事内容や運動の有無によって血糖値はどう変動するのか、そして血糖値と尿糖値の相関はどう表れるのか?頭の中で想像していたことを数値化し、ビジュアルで明らかにすることができました。これを見た医療従事者は、患者さんの血糖・尿糖の動きを1つのイメージとして理解しやすくなったのではと感じています。

Q. 本研究で、尿糖チェックの有用性について、どのようにお感じになりましたか?

Dr. 加藤:ご存知のように、血糖値は測定したその時点の数値ですが、尿糖は前の排尿から次の排尿まで時間幅での変化を見ることができます。いわゆる、“点ではなく面”です。

 尿糖測定を活用することで、様々なことがチェックできます。食後の血糖値が170〜180mg/dLを超えると血管にストレスがかかり血管を傷めることがわかっていますが、尿糖の出る閾値も170〜180mg/dL前後なので、尿糖が出ていなければ血管も大丈夫であろうという指標になります。

 また、HbA1cは正常より少し高い程度、空腹時は正常だが食後高くなるIGT(境界型)の方。DECODE studyでも知られていますが、食後高血糖というのは心血管系イベントリスクに関係していますので、食後の血糖チェックの代わりとして尿糖チェックを行い、意識を持つことにも活用できます。

Q. 糖尿病患者さんにとってはいかがですか?

Dr. 加藤:尿糖を出さないことが、血糖コントロールのチェック、目標になるということです。尿糖チェックは、尿糖の出ない時間をできるだけ長くすることは、食前後の血糖値170〜180mg/dL以内という目安になります。そのなかで、血糖値が高い人は、朝一番だけでも尿糖が出ないよう努力してみてください。そして、もし空腹時に尿糖が出ている状態であれば、血糖値がかなり高値であることを認識しなくてはなりません。

 その意味においては、尿糖チェックは軽症の糖尿病患者さんに適しています。しかも血糖コントロールがある程度よくなった人には有意義なチェック法と言えるでしょう。

Q. 貴院では、尿糖チェックはどのような患者さんに行っていますか?

Dr. 加藤:当院では、どんな患者さんにも体重測定などと同じように初診時は尿検査を必須で行っています。しかし、ふつうの医療機関では必ずしも実施していないことが多いかもしれません。

 先日、ある講演で劇症1型糖尿病症例を経験したという開業医さんの発表を伺う機会がありました。その先生曰く、劇症1型は通常の診察では見逃してしまう可能性があるので、気をつけなくてはならないというお話でした。ご本人も糖尿病だと思っていませんから「風邪っぽい」と言い、先生も「風邪ですね」と家に帰したら意識レベルが落ちて救急で運ばれる。当院では、風邪だと言う人でも初診には必ず尿検査を行ってもらいます。「体調をみるので尿検査をしてきてください」と。もし劇症1型を発症していれば血糖値が400〜500mg/dLにもなっているわけですから、尿検査で必ず尿糖が見つかります。

Q. 尿検査は重要なんですね。

 恩師の阿部正和先生(元・東京慈恵会医科大学学長)も「尿検査は診察のうち」と仰っていましたが、尿検査は非常に重要なのです。

 ここでは尿糖の話ですが、たんぱく尿を見るのも大切です。例えば、血糖値が悪い時、タンパク尿も++で来たけれど、その後、食事療法で血糖値を下げたらマイナスになったという患者さんがいました。++が出たことで「腎臓を注意しなくてはならない」という警鐘になったわけです。もし初診で尿検査をしていなかったら、気付かなかったことです。

 やはり、尿検査は体調を見るのにとても大切であるということを私は強調したいです。未治療の1型糖尿病や急激な体重減少の場合は尿中ケトンが陽性、または尿にケトン体が出ています。

Q. 日常診療では、どのような活用法がありますか?

Dr. 加藤:また、初診だけでなく、血糖コントロールが落ち着かない初期の診療では、毎回行うべきだと思っています。毎回でないとしても3か月に1回とか、最初は複数回。あとは様子を見て行えばよい。腎臓の悪い方は、塩分摂取に気をつけているか、降圧薬をきちんと飲んでいるか?などをチェックしながら原則毎回、尿検査を続ける必要があります。

 大事なのは、主治医や看護師が尿検査の結果を患者さんに知らせ、体の状態を気づかせてあげること。「今日はタンパク尿が++出ていましたよ」とか、「朝は食べてきましたか?尿糖が今日は+++出てました」などと言われれば、患者さんも「あれ?まずいぞ!昨日は運動してなかったな」とか振り返るきっかけになるわけです。それからもう1つ大切なのは、医療機関でそれを教えてあげるのも重要ですが、自分でチェックしてみるということも大事ですね。

 尿糖チェックが有用であると考えられるのは、初診では全員、軽症の糖尿病患者、IGTの人も対象だと思います。インスリン療法を行っていない2型糖尿病の人はSMBG代わりに朝食後だけでもチェックしてみること。

Q.尿試験紙とデジタル尿糖計は、どう使い分けたらよいでしょうか。

Dr. 加藤:尿試験紙はコストが最大の魅力です。使い方も簡便でトイレに流せるタイプもあるので、尿糖チェックを行うならまずは尿試験紙がお勧めです。デジタル尿糖計は数値がわかるので、しっかりコントロールしたい人にお勧め。最近発売された5,000mg/dLまで測定できるプロフェッショナル版も人気とのこと。これはどう活用するかがカギになりそうですね。

SGLT2阻害薬と尿糖について

Q.尿糖を排出することで血糖値をさげるという新薬SGLT2阻害薬の登場で、「尿糖」というキーワードが改めて注目されています。この薬の服用で、尿糖チェックが役に立つことはありますか?

Dr. 加藤:通常の尿糖チェックは、尿糖排出量が100mg/dLを超えると検出されます。しかし、この薬を服用すると尿糖量は4,000mg/dLなど、ケタ違いの量が出てくるのです。尿試験紙や尿糖計は2,000mg/dLまでしか測れませんから、量というよりも排出の有無を確認するということは可能でしょう。空腹時に測定したら++++だったのが、薬を飲み忘れたら++に減ってしまったとかという感じに。

 この薬を飲むと最初のうちは尿糖の出が良いのですが、その後下がってくる傾向があるんです。HbA1cの改善と関係するのかも、まだ明らかにされていません。だいたい4〜6か月で排出が少なくなる感じが出てきて、半年〜1年になるとさらに少なくなります。あと、尿糖と腎機能eGFRを比較すると、eGFRが下がっている人は尿糖の出が悪いようです。

Q.飲み続けていると尿糖が出なくなってくるのは、どういう意味だと思われますか?

Dr. 加藤:少なくなってくるからといって、ゼロになるわけではありません。たぶん、薬に対する順応性が出てくるのではないかなと感じます。SGLT2と1がありますが、1が吸収するようになる。ふだん使っているSGLT1は能力の一部しか使っていませんが、どんどん使うのでフル回転になります。でも阻害を続けているとレセプターが増えるかはデータはまだありません。そんなことを言ったら1,2の非選択性はどうかという話になりますが、こちらも明確なデータはありません。でも1がかなり関係している可能性があるのではないかという気がします。

Q. 欧米ではどのように使われているんですか?

Dr. 加藤:アメリカ疾病学会の治療アルゴニズムでは、まずメトホルミンがあって、次には一律にあったところをDPP4阻害薬よりもSGLT2阻害薬が先になっています。昨年出たADA/EASDのRecommendationでは同列になっていますけどね。

 なぜかというと、体重を減らすことで、インスリン抵抗性がとれることがはっきりしているから。DPP4阻害薬はインスリン抵抗性を弱めるけれど決定的ではありません。ですから、まずSGLT2阻害薬を使ってとりあえず体重を減らし、感受性が高まったらDPP4阻害薬を使うと効果が上がるという考え方です。最後の一手で使うのではなく、まずはメタボの人に使って体重を落とす。そして、DPP4阻害薬やメトホルミンを後から入れていくと効果的だと考えています。

Q.体重が減ることでいろいろなものがよくなると言いますね。

Dr. 加藤:この薬を飲むと、大体2〜3カ月で体重が3キロ位減ります。メタボの人にとって体重を減らすことは、中性脂肪、尿酸、血圧、血糖を下げるのでいいこと尽くしなんです。いろいろ総合すると、この薬はメタボにいいことは確か。日本でもそういう使い方にこれから変わってくるんじゃないかと思います。

Q.加藤 則子 先生は、先日の第59回日本糖尿病学会学術集会で、尿糖に関係する研究発表を行ったそうですね。

加藤 則子 先生:はい、いま話題のSGLT2阻害薬服用時の糖質摂取量と血糖・尿糖変動に関する研究です。糖質摂取量と血糖・尿糖値の上昇が相関するとともに、糖質摂取量が少ない場合はケトン尿が出ていることが確かめられています。全体で見ると、糖質をしっかり摂っている人のほうがSGLT2阻害薬の効果が高かったです。

 ただ、患者さんの中には、「これだけ食べても体重が増えない薬!なんて良い薬だろう!」と、運動もせず食べに走ってしまう人がいるので、SGLT2阻害薬による減量中に、筋肉量についても観察してみました。週2回以上運動をしている人は、体重が減少しても筋肉量が落ちていませんでした。また、運動した人としていない人を2群に分けて比較したところ、運動していない人は体重も筋肉量も減ったけれど、運動している人は体重は減っても筋肉量はキープされていました。ご飯もおかずバランス良く食べて、運動も行っている人にSGLT2阻害薬はよく効く薬であると言えます。

総 評

宇都宮 一典 先生(東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授)

 今回の実証実験は、様々な角度からデータを収集するという今までにない試みであり、グラフ化により、生活の内容が血糖変動に反映されていることがわかる、とても興味深い結果となりました。食事や運動の内容によってどう変わるのか、データは正直です。気づいた変化について、ご本人に聞いてみるとそこはきちんと理由がある。良い意味で予測を裏切らない結果です。血糖と尿糖はきれいに相関しており、日常生活の振り返りとして、尿糖自己測定の有用性を示していると言えるでしょう。

編集後記

 尿試験紙、デジタル尿糖計、血糖自己測定(SMBG)、CGM(持続血糖測定)、体重計、歩数計、活動量計と、様々な機器を駆使して、糖尿病患者さんの生活をモニタリング。日常生活のどのようなシーンで血糖値が上がり、尿糖が出るのかを分析するという特別実証実験でしたが、いかがでしたでしょうか。

 当連載にとどまらず、日本糖尿病学会学術集会などでも発表いただき、多くの発見と新たな可能性の光を探ることができました。

 この研究にご協力いただいた被験者の皆さまをはじめ、加藤内科クリニック・加藤光敏院長、則子先生、何度もヒアリングの機会をいただいた看護師さんや栄養士さんに、この場を借りて心より御礼申し上げます。

目 次

(2015年11月 公開)