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2008年10月22日

難しい医療用語を患者に分かりやすく言い換え 国立国語研究所

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 病院や診療所で医療者の話す言葉や、診断書や示されたカルテなどに書かれた医療用語について、患者が理解しやすいように言い換えを検討していた独立行政法人「国立国語研究所」は、57語の言い換え案をまとめ中間報告として公表した。
 中間報告に対する意見を公募し、来春に医療現場向けの手引書を刊行する予定

 病状や治療法などについて、医療者が十分に説明をし、患者がそれを理解し納得した上で医療を選択することが求められるが、高度に専門化の進んだ医療の現場では、患者にとって使われる言葉を正しく理解するのが容易でない場合がある。研究所が2004年に実施した調査では、患者の8割以上が、医師が患者に対して行う説明の言葉の中に、分かりやすく言い換えたり、説明を加えたりしてほしいと回答した。

国立国語研究所が提案した語の一覧から(一部抜粋)
インスリン
まずこれだけは
 「膵臓で作られ、血糖を低下させるホルモン」
少し詳しく
 「膵臓で作られるホルモンで、血液中のブドウ糖をエネルギーとして利用する際に必要です。この量が足りなくなったり、働きが低下してくると、糖尿病になります。」
時間をかけてじっくりと
 「胃の後ろ側にある膵臓で作られるホルモンで、血液中のブドウ糖を細胞に取り入れ、エネルギーを産み出す働きを促進します。血糖値を低下させるので、糖尿病の治療にも用いられます。治療に用いるインスリンは、飲むものではなく注射をします。」
こんな誤解がある
 インスリンによる糖尿病治療を始めると一生続けなければならない、という誤解が非常に多い。インスリンによる治療を始めても、これを使用しないで飲み薬に変えることもできることなどを伝えたい。
 インスリン治療を始めるようになったら糖尿病は重症で、もう先は短いといった誤解がある。インスリン治療を始めるかどうかは、重症かどうかということではなく、病気のタイプや患者の状態などを総合して判断すべきことを伝えたい。
患者の不安の軽減を
 インスリンによる糖尿病治療を導入する患者は不安が大きく、インスリン治療に抵抗を感じる人も多い。一連の治療の経過や今後の見通しを詳しく説明し、現在がどの段階に位置しているのかを明確に伝えたい。そうすることで、インスリンに対する誤解や心配を軽減するのに効果がある。
「病院の言葉」を分かりやすくする提案(中間報告)より
 そこで研究所では昨年秋以降、インターネット上で、医師650人、看護師735人、薬剤師260人を対象に医療者がよく使う言葉、患者に理解してもらうのが必要な言葉など医療用語の重要度をアンケート。また、全国の一般成人4276人を対象に医療用語の認知度も調べた。医師、看護師、薬剤師も交えた「病院の言葉」委員会を設置し、重要ながらも認知度や理解度が低い57の医療用語をピックアップした。

 言葉が分かりにくい原因は、言葉そのものになじみがない、言葉の表す意味や内容が専門的で難解、患者の理解が不確かであったり別の意味と混同している、受診する患者は不安定な心理状態にあることなど。分かりにくさを軽減していくために、「日常語で言い換える」「明確に説明する」「重要で新しい概念を普及させる」といった工夫を提唱している

 また、言い換えや説明の具体例を、短く簡潔なものから詳細なものまで3種類を用意し、医療者が個々の診療にかけられる時間や、1回1回の診療場面でその言葉がどれだけ重要であるかによって、説明例を選択できるように配慮した。研究所では、「同じ言葉でも、相手や場面によって、適切な言い換えや説明の方法は異なる。患者の理解力や病状、心理状態などを見極め、そのときそのときにもっともふさわしい工夫を行うことが大切」としている。

 提案した語では、例えばメタボリックシンドロームを「内臓の脂肪がたまることにより、様々な病気を引き起こす状態 内臓脂肪症候群 代謝症候群」とし、少し詳しい説明として「内臓の脂肪がたまることにより、様々な病気が引き起こされる状態です。引き起こされる危険がある病気は、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病などです。また、心筋梗塞や脳梗塞のおそれもあります。」としている。

 メタボリックシンドロームに対する誤解として「医学的な基準があることを知っている人も、腹回りの測定値で決まるという誤解がとても多い。」などを指摘している。

「病院の言葉」を分かりやすくする工夫の類型
「病院の言葉」を分かりやすくする提案(中間報告)(独立行政法人国立国語研究所)
  ・類型別五十音順一覧
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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