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2010年04月23日

糖尿病のスクリーニング検査 お得なのは早い時期から続けること

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 2型糖尿病の発症をみつけるためのスクリーニング検査は、30〜45歳の間に始め3〜5年ごとに定期的に続けるともっとも費用対効果が高いという研究が、米国糖尿病学会(ADA)の研究者らによって発表された。

 糖尿病は早期段階では自覚症状に乏しいので、発症から何年も経て初めて診断を受ける人が多い。米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の糖尿病有病数は約2600万人で、2700万人が2型糖尿病を発症する危険の高い糖尿病予備群だという。

 検査で糖尿病や糖尿病合併症を早期に発見し、適切な治療を受けることが、患者の負担を減らしQOL(生活の質)を向上させると研究者らは指摘している。定期的な検査は医療費を抑えるためにも有利であり、「少なくとも45歳になったら検査を受けはじめた方が良い」と述べている。

定期的に検査を受けると効果が高い
合併症は糖尿病患者にとって大きな不利益となる。QOL(生活の質)が低下するだけでなく、医療費の負担も増する。
もっともお得なのは、検査と治療を受けて、合併症を予防すること。
 糖尿病は自覚症状が少ない病気で、検査で異常を指摘されて初めて糖尿病であることに気付くことも多い。そのため糖尿病のスクリーニング検査を定期的に受け、早期発見・治療するのが良いと言われている。しかし、働き盛りの年代の人であると、検査を毎年受けるのは難しい場合がある。日本では特定健診が実施されているが、「仕事が忙しい」などの理由で健診を受けない人がいる。

 この研究は、医学誌「ランセット」のオンライン版に3月30日付けで発表されたもので、2型糖尿病に関して費用対効果がもっとも高いスクリーニング検査の戦略を練ることを目的に行われた。

 研究者らは、糖尿病の既往歴のない30歳の米国人32万以上のデータをシミュレーション用のサンプルに、「アルキメデス・モデル」という解析モデルを用いて、8つの異なるスクリーニングを行った場合に、スクリーニング検査を行わなかった場合に比べどれだけ違うかを調べた。

 スクリーニング検査を開始した年齢や頻度などを変え、患者が糖尿病のために医師による検査を受けたり、高血圧症などの他の病気の検査の一部として受けた場合など、それぞれ条件を変えて2型糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、その他の細小血管合併症を発症する可能性を予想した。

 スクリーニング検査は、1回限り受けるよりも、一定の期間をおいて何度も受けた方が効果が高くなる。研究では、どれくらいの期間をおいて検査を受けるともっとも高い効果を得られるかも予測した。

 医療では、病気をもっている人を、なるべく健康な状態に近付けることを目標に治療が行われている。研究では、治療を行うことでQOL(生活の質)がどれだけ向上したかを調べるため、「QALY(質調整生存年)」という指標が用いられた。

 QALYでは、QOLを効用値として用い、それに年数をかけあわせて計算する。完全に健康な状態で1年間、生活できているという理想的な状態を基準としており、これに近付けようとしてQOLを高め、加えて良好な期間が長く続くとQALY値は高くなる。

早い時期から検査を受けると恩恵を得られる
 解析した結果、どのようなやり方であっても、スクリーニング検査を受けることで心筋梗塞や糖尿病合併症の発症は減り、QOLが高くなる傾向がみられた。50歳を超えていても、検査を受けた方がQALY値は高くなり、死亡率も低下することが分かった。

 しかし、検査を開始する年齢や頻度によって、結果に大きな差が出てきた。検査を45歳で開始し毎年続けた場合のQALY値は149だが、検査が3年ごとに間延びすると値は128に低下する。さらに、60歳で開始し3年ごとに受けた場合は、もっとも少なくなり93にとどまる。効果が最大になるのは、30歳から検査を始め3年ごとに繰り返した場合で、この場合のQALY値は171になる。

 医療費の点でも同じ傾向がみられ、QALY値が低いと医療費も高くなることが分かった。費やされる医療費は、45歳時に検査を開始し毎年続けた場合はQALY当たり1万5509ドルだが、60歳時に開始し3年ごとに受けた場合は2万5738ドルに跳ね上がる。やはり30歳から検査を始め3年ごとに繰り返した場合が1万512ドルと、もっとも低く抑えられる。

 さらに、30歳から3年ごとにスクリーニング検査を受けた場合は生存年数を6.3年延長できるが、45歳から3年ごとに検査を受けた場合の延長年数は5.33年間と短くなる。

 米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の糖尿病有病数は約2600万人で、2700万人が糖尿病を発症する危険の高い耐糖能異常(IGT)だ。ユトレヒト大学医療センターのGuy Rutten博士は研究について、「糖尿病のスクリーニング検査を、高血圧や脂質異常の検査に組み合わせるべきだとする研究も発表されている。今回の研究は、今後の糖尿病の治療ガイドラインにとっても有用な成果となる」と述べている。

Age at initiation and frequency of screening to detect type 2 diabetes: a cost-effectiveness analysis
The Lancet, Published Online March 30, 2010 DOI:10.1016/S0140-6736(09)62162-0

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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