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2010年06月17日

インスリン分解酵素(IDE)阻害剤の開発に向け大きく前進 米メイヨークリニック

 インスリンが分解されるのを防ぐ新たな糖尿病治療法の開発に向けた、強力な足がかりとなる研究成果を、米メイヨークリニック支部(フロリダ州)の研究チームが発表した。
インスリンを肝臓や細胞で分解酵素が壊している
 膵臓のβ細胞から分泌されたインスリンは、肝臓で半分がインスリン分解酵素(IDE)により分解され、細胞でも分解される。開発が進められているのは、微小な分子の働きでIDEがインスリンを分解するのを抑制する治療法。

 体内でインスリンを長くとどめることができれば、それだけ血液中のブドウ糖が細胞内にとりこまれるようになり血糖値は下がる。「これまでにない新しい作用機序をもつ糖尿病治療薬を開発できるだろう」と研究者は述べている。この研究は、オンライン科学誌「PLoS ONE」5月号に発表された。

 「糖尿病は世界的に増加しており、有病数は2億人を超えている。新しい糖尿病の治療法が求められている」とメイヨークリニック神経科学部のMalcolm Leissring博士は言う。

 蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)であるIDEは、蛋白質のペプチド結合を切断しより小さな部分へと分解する働きをする。開発されたのはこの分解酵素の働きを抑える阻害因子。「インスリンはとても重要なホルモンだ。IDEのインスリンへの作用を考えると、これまでにIDE阻害剤が開発されていないのは驚くべきことだ」とLeissring博士は言う。

 IDEは60年以上前にすでに発見されていた。1950年代にはIDE阻害剤を発見することが、糖尿病研究の主要なゴールとなっていた。これまでにIDE阻害剤を見出しインスリンの血糖降下作用が高まることを動物実験で確かめた研究も出ている。しかし、IDE阻害剤の組成は完成していない。

「パックマン」のようなかたちをしたインスリン分解酵素
 調査チームは、まず最新の精密な技術を用いてIDE阻害剤を発見しようとした。ハーバード大学のLaboratory of Drug Discovery in Neurodegeneration(LDDN)の実験室で、ロボットを使用し何十万もの化学化合物をテストした。しかし結果は思わしくなかった。

 「最新の手法を用いても結果は出なかった。皮肉なことに、突破口を開いたのは古くさい方法だった」。1950年に開発された技術を含む旧式のアプローチにより、ペプチド連鎖(可能な何兆というアミノ酸の組合せ)から、IDE阻害剤がかたちづくられた。有望なペプチド連鎖を含む化合物が生成され、「Ii1」(IDE阻害因子1)と名付けられた。

 「Ii1はこれまでに開発されたIDE阻害剤より100万倍も効き目があるが、薬剤として使用するためにはさらに研究が必要だ」とLeissring博士は言う。

 薬剤の開発のゴールに向けた重要なステップとして、Leissring博士らはIDEを作るために、Ii1を結合し3次元の結晶構造を生成するのに成功した。この結晶構造により、体内でより安定する阻害剤の開発が促進されるという。

 IDEの構造は他のどの蛋白質分解酵素とも異なり、よく知られたビデオゲームである「パックマン」のように、蝶番のある貝殻のような形をしているという。この結晶構造では、Ii1ペプチドは貝殻をつなぐ磁石の掛け金のように働く。「口が開かないように磁石を使用した小銭入れのようなものを想像してほしい。Ii1は磁石の掛け金のように、IDEのふたつの部分をつなぎ合わせている」とLeissring博士は言う。

 IDEの作用を阻害できれば、インスリンはより長いあいだ、体内にとどまることになる。「膵臓でつくられたインスリンの半分は、通常はただちに肝臓で壊されてしまう。なぜそうなるのかは誰にも分かっていないが、インスリンが血流で多くなりすぎないようにする方法かもしれない」。

 IDE阻害剤は、インスリンの初期の分解の比率を遅くする。「インスリンが細胞に届けられると、通常はIDEによって急速に破壊される。驚くことに、研究ではIDE阻害剤が、血流からブドウ糖を取り込む“目的地”である細胞でも、インスリンが壊されるのを防ぐ働きをすることも確かめられた」。

 「インスリンが細胞に届けられると、通常は多くがただちにIDEによって壊れれてしまうが、IDE阻害剤によりそのプロセスを止めることができれは、インスリンが細胞内でより長くとどまるようになる。そうなると、インスリンがより効率的に機能するようになる」。

 IDE阻害剤は糖尿病以外の病気の治療にも有益かもしれないと、研究者らは示唆している。「インスリンは驚くほど広範囲で重要なプロセスに関連している。IDE阻害剤をより多様な用途に役立てられるかもしれない。基礎研究用ツールとしても大変に価値のあるものだ」とLeissring博士は述べている。

Mayo-led Research Team Develop Agents That Keep Insulin Working Longer(メイヨークリニック、2010年5月7日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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