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2010年08月19日

経口投与インスリンの開発 血糖降下作用を確認

 インスリンを飲み薬として経口投与し、効率良く腸管から吸収させる手法を開発している日本の研究チームが、経口インスリンを用いると血中などのインスリン濃度が高くなり血糖値が下がることを最新の検査法で確かめたと発表した。

 糖尿病は、インスリンの作用が不足することで高血糖の状態が続き、その結果さまざまな合併症が引き起こされる病気。糖尿病の人は合併症を予防するために、健康的な食生活と適度な運動に加えて、多くの場合で不足したインスリンを投与して補う必要がある。

 血糖値を下げるホルモンであるインスリンは消化されやすく、ペプチドでできているため消化管から血液中に吸収されにくい。そのため、インスリンの経口投与は難しく、現在のところは注射によって治療を行う必要がある。

 インスリン製剤や注射器具は改良が重ねられ、インスリン注射をとりまく環境は大きく改善されているが、患者によってはインスリン自己注射を苦痛と感じる人もいる。そのため糖尿病の医療では、飲み薬として経口投与できるインスリンの開発が目標のひとつになっている。

 星薬科大学の森下真莉子准教授と理化学研究所分子イメージング科学研究センターの研究チームは、インスリンを効率良く腸管から吸収させるための研究を共同で行っている。インスリンの経口投与を実用化するために、確実・安全に体に吸収させる技術開発が必要となるが、体にどれくらいインスリンがとりこまれたかを定量的に調べるのが難しいという課題がある。

 そこで研究チームは、最新の検査法である陽電子断層撮像法(PET)を用いる手法を開発し、インスリンが腸管から吸収され各臓器へ分布していくことを解析するのに世界で初めて成功した。PETは特殊な検査薬を注射して体内から出てくる信号を体の外で捉えコンピュータ処理によって画像化する技術で、レントゲンなどの検査では発見しにくい初期のがん細胞の発見などに用いられている。

 インスリンを膜透過性ペプチド(CPP)と呼ばれるペプチドに付加することで、消化管から吸収され血液中や肝臓、腎臓にとりこまれるようになる。研究チームがPET画像解析を行った結果、消化管から吸収されたインスリンは瞬時に肝臓を通過し、腎臓に集積することを確認した。それにともないインスリンの効果があらわれ、血糖降下作用が認められた。

 研究チームは研究成果について「効率の良い薬物送達システムを開発するのための強力なツールとなり、経口投与できるインスリン製剤の開発の礎となるものだ」と述べている。この研究は、国際薬物送達学会が発行する科学誌「Journal of Controlled Release」に8月17日付で発表された。

理化学研究所 分子イメージング科学研究センター
Molecular imaging analysis of intestinal insulin absorption boosted by cell-penetrating peptides by using positron emission tomography

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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