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2010年09月07日

iPS細胞で作った膵臓がインスリンを分泌 再生医療の実現へ第一歩

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医療の進歩
 体のあらゆる組織や臓器になる能力のある「iPS細胞(多能性幹細胞)」を用いて、マウスの体内にラットの膵臓をつくることに、東京大学医科学研究所の研究グループが成功した。インスリンを分泌し臓器として正常に機能することも確かめた。「糖尿病などの再生医療の実現に向けた第一歩」としている。
ラットのiPS細胞使いマウス体内に膵臓
 東京大学医科学研究所の中内啓光教授らの研究グループはラットのiPS細胞(多能性幹細胞)から、膵臓をつくりだすことに成功した。この研究は米科学誌「Cell」に9月3日に発表された。

 糖尿病などの臓器不全症の治療として移植療法が行われているが、臓器のドナー不足や生体適合性などの課題がある。今後、再生医療の研究が進歩すれば、移植可能な臓器を患者自身の細胞からつくる治療法を実用化できる可能性がある。

 動物の受精卵は、細胞分裂を繰り返して、それぞれの臓器をつくる細胞に変化する。研究では、膵臓ができないようにした雌のKO(ノックアウト)マウスの受精卵に、正常なラットのiPS細胞を組みこみ、別の雌のマウスの子宮に入れた。その結果、生まれてきたマウスはラットのiPS細胞から成長した膵臓をもっており、発育後は膵臓からインスリンが分泌され血糖値が正常に保たれており、膵臓が機能していることがわかった。

 つくられた膵臓がiPS細胞に由来するものかを確かめるため、あらかじめ目印として組み込んでいた蛋白質が、一様に細胞に含まれていることも確かめた。また、iPS細胞由来の膵臓から単離した膵島を、糖尿病マウスに移植して、血糖を正常化させることにも成功し、膵島移植のドナーとして利用できることも示された。

 特定の組織が欠損したマウスの胚盤胞にiPS細胞を注入して、生まれてくるマウスで欠損組織をiPS細胞由来の細胞で置き換える方法は「胚盤胞補完法」と呼ばれる。これまでに、ES細胞(胚性幹細胞)を使ったマウスでの成功例などが報告されているが、マウスとラットのように種を超えてiPS細胞から立体的な臓器をつくったのは初めてだという。

期待される再生医療の実現
 糖尿病性腎症は慢性腎不全の原因の第1位で、糖尿病の増加にともない慢性腎不全患者も増加している。日本透析医学会の調査によると、慢性腎不全で透析療法を受けている患者数は約28万人に上る。透析療法は患者にとって深刻な負担になるだけでなく、年間総額が1兆円を超える治療費が財政をひっ迫させている。

 有効な治療として腎移植が考えられるが、日本臓器移植ネットワークによると、2010年8月時点で移植待機者は約1万2000人で、国内で移植療法を受けるのは難しくなっている。

 そこで期待されているのが、移植可能な臓器を患者自身の細胞からつくりだす再生医療の実現だ。生体内のすべての細胞に分化ができる多能性幹細胞を利用する方法が有望と考えられている。

 研究者らは今回の研究成果について「臓器再生という再生医療の最終的な目的を実現するための最初のステップ。“自分の多能性幹細胞”から生体外で望みの細胞をつくる道が開ければ、糖尿病などのさまざまな疾患の治療に応用できる可能性がある」と述べている。

iPS細胞(多能性幹細胞)から臓器をつくり血糖が正常化
多能性幹細胞を用いてマウスの体内でラットの膵臓を作製することに成功(科学技術振興機構
Generation of Rat Pancreas in Mouse by Interspecific Blastocyst Injection of Pluripotent Stem Cells
Cell, Volume 142, Issue 5, 787-799, 3 September 2010
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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