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2011年03月03日

筋肉の新しい糖取り込み調節メカニズムを解明 東大研究グループ

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医療の進歩
 肥満になると血管内皮細胞のインスリン作用が低下し、筋肉の毛細血管が十分に拡張しなくなるため、インスリンが筋肉に届きにくくなり、ブドウ糖を取り込みにくくなることを、東京大学の門脇孝教授らの研究グループが突き止めた。血管内皮細胞のインスリン作用を正常化する新たな治療法を開発すれば、筋肉でのブドウ糖の取り込みを改善できるようになるという。

 この研究は、東京大学大学院医学系研究科/医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の門脇 孝教授、窪田直人特任准教授、国立健康・栄養研究所の窪田哲也研究員らの研究グループによって行われた。研究成果は米国の医学誌「Cell Metabolism」3月号に発表された。
筋肉でのブドウ糖の利用を促せば、血糖コントロールは改善する
 運動の効果は大きく2つある。(1)運動を行うことでブドウ糖や脂肪酸の利用が促され、血糖が低下する、(2)運動を習慣として続けると、インスリン抵抗性が改善し、血糖値が安定するようになる。その他にも、運動には内臓脂肪を減らしたり、健康的な体重にコントロールしたり、食事でのエネルギー摂取と消費のバランスを整えるといった効果も期待できる。

 しかし、運動を続けるためには体力を高める必要がある。患者によっては運動を続けられず、思うように運動療法の効果を得られない場合がある。また、低血糖や合併症の危険性がともない運動ができない場合もある。そこで運動療法の効果を向上するための新たな治療法の開発研究が進められている。

 ヒトの体でブドウを取り込むもっとも大きい臓器は筋肉だ。筋肉でのブドウ糖の取り込みは、血糖コントロール全体に大きな影響がもたらす。

 健康な人では、食後に血糖値が上がるとインスリンが追加して分泌され、インスリンは血液を通じて筋肉にが届けられるが、肥満のある人では、筋肉でのインスリンによるブドウ糖取り込みが低下することが知られている。インスリンが毛細血管の血管内皮細胞を通過し筋肉に届くメカニズムのどこかで障害が起こるからだと考えられている。

肥満にともなう筋肉の糖取り込み障害のメカニズムを解明
 研究グループは、このメカニズムを解明するために、インスリンによって活性化され血管を拡張する作用のある酵素(eNOS)に働きかけるインスリン受容体基質2「IRS2」に着目した。

 IRS2をもたないマウスを使い実験したところ、食後にインスリンが分泌されてもeNOSが活性化されず、通常のマウスと比べて筋肉に届くインスリンの量が半分程度に減っていることが分かった。IRS2が欠損しているために、食後インスリンが分泌されても、毛細血管の拡張や筋肉へのインスリン移行が正常に起こらないために、インスリンによるブドウ糖取り込みが低下してしまうからだという。

 また、慢性閉塞性動脈硬化症などの治療に用いられる「プロスタグランジンI2アナログ」を投与し治療をこころみた。この薬剤は、血管を拡張しeNOS活性化を正常化する作用がある。IRS2欠損マウスに投与したところ、筋肉へのインスリン移行が回復し、ブドウ糖の取り込みが改善された。

 さらに、普通のマウスに脂肪分の多い餌を8週間与えて肥満状態にしたところ、IRS2が健康なマウスの2割程度に低下し、筋肉でのインスリンの取り込みが低下していることが分かった。同じようにプロスタグランジンを投与すると、インスリンによる酵素の活性化が正常化し、血管が拡張したりインスリンの取り込みが改善した。

 研究者らは、「肥満に伴う筋肉の糖取り込み障害のメカニズムがあきらかになれば、新しいコンセプトに基づく2型糖尿病治療法の開発につながる」と述べている。

 「肥満者では、血管内皮細胞のIRS2の発現が低下しており、食後にインスリンが分泌されても血管内皮細胞のeNOSが十分に活性化されず、毛細血管の拡張や筋肉へのインスリン移行が正常に起こらないために、インスリンによる糖取り込みが低下すると考えられる。血管内皮細胞のインスリンシグナルを改善する薬剤が、血管内皮細胞をターゲットとした新しい糖尿病治療法につながる」としている。

筋肉における糖取り込み調整のメカニズム
筋肉における新しい糖取り込み調節機構の解明(東京大学医学部付属病院、2011年3月2日)
Impaired Insulin Signaling in Endothelial Cells Reduces Insulin-Induced Glucose Uptake by Skeletal Muscle
Cell Metabolism, Volume 13, Issue 3, 294-307, 2 March 2011
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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