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2011年07月21日

2型糖尿病に関わるグルコース輸送体「GLUT4」機能を解明 理化学研究所

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医療の進歩
 理化学研究所は、2型糖尿病に関わるグルコース輸送体「GLUT4」上の特定の糖鎖が、インスリンに応答して血糖値を保つために重要な役割を果たしていることを突き止めた。2型糖尿病の新たな治療法の開発や、発症のメカニズムの解明につながる研究成果。

 ブドウ糖(グルコース)は、細胞のエネルギー源となる重要な栄養素。血液中のグルコース濃度は、さまざまなホルモンの働きによって、通常は一定になるように調節されているが、この恒常性を維持するメカニズムが働かなくなり、血液中のグルコースが細胞内に正常に取り込まれないと高血糖になる。

 インスリンに応答して血糖値を保つために重要な役割を果たしているのが、グルコースを体内に運ぶ働きをする蛋白(グルコース輸送体)である「GLUT4」。GLUT4が正常に機能しないと2型糖尿病の発症につながると考えられている。

 インスリンの刺激のない状態では、GLUT4は細胞内の小胞に蓄積されているが、細胞膜にある受容体にインスリンが結合すると刺激が起こり、GLUT4が細胞膜へ移動し、血液中のグルコースを細胞内に取り込む。

 一方、蛋白質や糖脂質が複雑に組み合われてつくられ、細胞内の情報伝達などに関わっているのが糖鎖。細胞膜にある膜蛋白質のほとんどは糖鎖が付加されており、この糖鎖が細胞内でさまざまな生理的現象を引き起こす鍵のような役割を果たしている。

 GLUT4には糖鎖の一種である「N型糖鎖」が付加されている。N型糖鎖は、古くなったり壊れている蛋白質を判別し分解する品質管理や、蛋白質の保護したり細胞内へ取り込む働きをする。血中のグルコースを細胞内に取り込むメカニズムに関わっていることは、従来の研究でも分かっていたが、インスリンに反応して引き起こされる細胞内の情報伝達は複雑で、その仕組みには不明な点も多い。

 そこで理化学研究所の研究チームは、GLUT4の性質にN型糖鎖が及ぼす影響をあきらかにするため、緑色蛍光蛋白質(GFP)を融合させたGLUT4と、その糖鎖が欠損した変異体をつくり、ヒト細胞を用いて実験した。GFPは下村脩博士が1960年にオワンクラゲから発見した蛍光蛋白質で、細胞内で特定の蛋白質を発光させることができる。下村博士はこの発見によって、2008年にノーベル化学賞を授与された。

 その結果、N型糖鎖が付加したGLUT4は安定化するが、付加しない変異体は不安定で分解されることが分かった。さらに研究者らは、GLUT4が細胞膜に移動してくる様子を顕微鏡で観察した。正常なGLUT4はインスリンに応答して細胞膜へ移動したが、変異体はインスリンに応答しないことを突き止めた。

 次に、正常なGLUT4のある細胞を用い、阻害剤で糖鎖構造を変化させたところ、インスリンに応答しなくなった。正常なN型糖鎖が付加されたGLUT4は、いったん小胞に移動、蓄積され、インスリンの刺激に応じて細胞膜に移動するが、糖鎖構造を変えたり欠失したGLUT4は、小胞の経路を通らずに直接細胞膜へ移動するため、インスリンに応答しないことが判明した。

 研究者らは「GLUT4のインスリン応答による細胞膜への移行に、N型糖鎖が必要であることがあきらかになった。GLUT4に付加したN型糖鎖は、正しい経路をたどるための‘目印’となっている」と述べている。

 研究成果は、米科学雑誌「The Journal of Biological Chemistry」オンライン版に7月14日付けで発表された。

グルコース輸送体GLUT4のインスリンに応答した細胞膜への移行
2型糖尿病に関わるグルコース輸送体「GLUT4」上の糖鎖の機能を解明(理化学研究所 2011年7月19日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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