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2012年06月08日

災害時の糖尿病診療 毎日の備えが災害・緊急時にも有効

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第55回日本糖尿病学会年次学術集会(JDS2012)

 5月に横浜で開催された第55回日本糖尿病学会(JDS2012)では、東日本大震災からの「復興支援」がテーマにすえられた。初日には緊急シンポジウム「災害時の糖尿病医療」が開催された。

患者が治療内容を把握していると治療継続が容易に
 2011年3月11日に発生した東日本大震災は岩手、宮城、福島を中心に大きな被害をもたらした。避難者の中の糖尿病患者数は最大約1.6万人に及んだと推計されている。

 東日本大震災の発生時の日本糖尿病学会の対応は素早かった。東日本大震災の発生から2日後の5月13日には、日本糖尿病学会事務局内に対策本部を設置し、各県の被害状況や医療機関の稼働状況、インスリンなど医薬品の流通状況を調査した。さらに被災地である岩手県、宮城県、福島県、茨城県で患者を対象としたインスリン相談窓口を開設するなど、積極的な対策を行った。

 WHOは糖尿病など慢性疾患を抱える患者の災害時における緊急度を3段階に分けている。1型糖尿病患者(インスリン投与)は透析患者などと同じもっとも緊急性の高いグループ1に分類し、2型糖尿病患者は次に緊急性の高いグループ2に分類している。

 日本糖尿病学会は、東日本大震災が糖尿病に及ぼした影響について調査する調査研究班を組織した。岩手県493施設の医師を対象としたアンケートの結果によると、震災後、外来診療は2.7±5.3日(平均±標準偏差)後から開始され、27.6±13日後には通常の外来診療に戻った。

 震災前、災害医療研修を受けた経験のある医師は46%、独自の災害マニュアルをもっていた医療機関は40%だった。医薬品や医療機器の備蓄をしていた医療機関はインスリン43%、経□血糖降下薬53%、血糖自己測定器60%で、震災発生の直後に医薬品の搬送と供給が行われたが、補充は不十分だったとみられている。

 震災直後から1週間後までの超急性期では、多くの患者がインスリン注射の一式を津波で流されたり、食料が不足し、治療の中断を余儀なくされたことで高血糖昏睡が多発した。災害発生時の医薬品の早期の供給は大きな課題となっている。

 食品がなくても平時と同量のインスリンを注射したり、血糖降下薬を内服したことによる低血糖昏睡も発生していた。シンポジウムでは「緊急時には糖尿病ケトアシドーシスや低血糖といった急性合併症を予防するために、インスリン製剤を速やかに供給すること、また、患者自身にインスリン注射を中断することは危険であるという認識をもってもらうが重要」との意見が出された。

 患者対象の調査では、災害に備えた教育用パンフレットなどが準備されており、糖尿病教室などでその内容を聞いたことがあると答えた患者もいたが、多くの患者は災害時の対応について教育は受けていない、あるいは覚えていないと回答した。

 地震や津波などの災害はいつかは起こる。東日本大震災では、薬を持ち出せなかった場合でも被災直後から治療がどうにか継続できた患者の多くは、ふだんから薬やインスリンは一ヵ所にまとめて置くとか、お薬手帳や健康保険証などは身近に置いておくなど対策していた。お薬手帳を持ち出せたり、患者本人や家族が薬やインスリンの名前を覚えており、医療スタッフに伝えられた患者も治療継続率は高かった。

 特に津波披害に遭い治療継続できなかった患者は、とにかく逃げるのに精一杯で、支援医療チームや仮設診療所などから薬を処方してもらうときに、糖尿病薬やインスリンの名前を覚えていなかったり思い出せなかった人が多かったという。

 治療薬の名前を言えなくても、自分の糖尿病の状態や処方されている薬の効用を説明できれば、対応する医療者が処方につながる情報を引き出し、治療を継続できるようになる。「震災後の影響を少なくするに、物資の備えを十分に行うことに加え、ふだんの療養指導で患者自身に糖尿病や治療に関する知識をしっかりもってもらうことが重要」との見解が示された。

第55回日本糖尿病学会年次学術集会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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