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2014年10月20日

ひとつかみの「くるみ」が健康の切り札 研究が進む「くるみ」の魅力

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食事療法
シンポジウム「エビデンスに基づく栄養学:くるみと健康に関する研究」を開催

 JPタワー ホール&カンファレンス(東京)で開催された第36回日本臨床栄養学会総会・第35回日本臨床栄養協会総会で2014年10月4日、特別シンポジウム「エビデンスに基づく栄養学:くるみと健康に関する研究」が、カリフォルニア くるみ協会の企画により開催されました。

 くるみの効果をめぐる研究は幅広く行われており、片手ひとつかみほど(28グラム)のくるみが、コレステロール低下や抗炎症作用以外にも重大な健康効果を示すことが証明されています。カリフォルニアくるみ協会は1日に片手ひとつかみほどのくるみを食べることを推奨しています。
ひとつかみ“くるみ”にアルファリノレン酸が2.5グラム含まれる
 ナッツ類の中でオメガ3(n-3系)脂肪酸がもっとも多く含まれるくるみは、アメリカ、スペイン、中国、日本、オーストラリア、ニュージーランドなど世界各国で行われた過去の研究によって、心臓の健康指標の改善にきわめて有効な手段となることが示されています(※1)。

 くるみは栄養密度の高い食品で、多価不飽和脂肪酸が総脂肪18グラム中13グラムを占めています。くるみはオメガ3(n-3系)脂肪酸であるアルファリノレン酸(ALA)のすぐれた供給源で、1オンス(28グラム)中に2.5グラム含まれており、これはナッツ類で2番目に含有量の多いものの5倍以上に相当します。

“くるみ”が心疾患リスクを抑制
 米ペンシルベニア州立大学栄養科学部のペニー・クリス=エサートン氏は「くるみはさまざまな心血管効果を引き出す」と題し講演し、「心疾患のリスクの抑制に、くるみが重大な役割を果たすことを示す研究結果は増え続けており、心臓に対するくるみの効果としては、コレステロール低下、炎症抑制、動脈機能改善などがあります。くるみを多く取り入れた食事は冠動脈性心疾患の複数のリスク因子に有益に作用します」と述べました。

 アメリカ人女性を対象とした大規模コホート研究である看護師保健調査(NHS)およびNHS IIにおいて、毎週2サービングまたはそれ以上(1サービングは28グラム)のくるみを摂取すると、2型糖尿病の発症リスクが21%、BMI(体格指数)の影響をした後では15%、それぞれ抑制されることが明らかになりました(※2)。糖尿病を予防・改善するために、くるみのようなホールフード(加工・精製の度合が低い、丸ごと食べられる食品)を摂取することの重要性が強く示唆されました

 また、くるみが心血管疾患の主要リスク因子であるLDLコレステロールや血圧を下げることを確かめた研究も報告されています。また、くるみは血管内皮機能を改善し、酸化ストレスと炎症マーカーを抑制し、コレステロールの排出を促進することが知られています(※3)。食事にくるみを取り入れることが心臓の健康に役立つというアドバイスの正しさは、多くの研究で裏づけられています。

“くるみ”を取り入れた食事スタイル 心臓病や脳卒中を予防
 スペインのバルセロナ大学オスピタル・クリニックのエミリオ・ロス氏は「PREDIMED試験:心血管リスク削減の状況を変える」と題し講演し、「炎症反応によるダメージが繰り返されるとやがて動脈硬化の原因となり、これが心臓疾患につながると考えられます。最新の研究でくるみの摂取により血管機能が改善されることが判明しました」(※4)と述べました。

 スペインで行われた心血管疾患と地中海食に関する大規模な臨床試験「PREDIMED」により、くるみなどのナッツ類を食べる習慣が、心血管疾患とがんのリスク減少との関連性が高いという研究結果が発表されました。PREDIMEDは、心血管系疾患の一次予防における地中海食の効果を調べることを目的とした研究で、スペインの7地域で16の研究グループによって行われました。

 くるみを中心としたナッツ類を加えた地中海食群では、低脂肪食に関する指導を行った対照群と比べ、心血管系疾患(心筋梗塞、脳卒中、心血管系死亡)のリスクが30%抑制され、脳卒中に限るとリスクが49%抑制されました。くるみを積極的に食べる地中海食に心臓病、脳卒中などの心血管疾患に対する予防効果があることはこれまでに行われた複数の研究結果によって報告されていますが、「PREDIMED」の結果によりあらためてその関連性が示されました(※5)。

日本人の“くるみ”の摂取と生活習慣病との関連を調査
 国立循環器病研究センター予防検診部医長の小久保喜弘氏は「日本の心疾患、メタボリックシンドロームの状況 日本の食事パターンについて」と題して講演しました。日本人を対象とした疫学研究により、動脈硬化や冠動脈性心疾患を予防するために、禁煙、節酒、運動習慣、バランスのとれた食生活などの生活習慣が効果的であることが確かめられています(※6)。特に喫煙に関しては、禁煙後数年で心疾患の発症リスクが低下することから、年齢に関係なく禁煙することが大切となります。食生活では、魚と大豆、野菜、果物、乳製品をバランスよく摂取すること、ナトリウム摂取量を減らすことが循環器疾患を予防するために大切となります。

 「くるみや魚などのオメガ3(n-3系)脂肪酸が含まれる食品には、動脈硬化を改善したり心血管疾患などを予防する作用があることが確かめられています。一方で日本人を対象としたくるみに関する研究は少なく、くるみをどのように摂取したら良いかが課題になっています。今後は日本人のくるみの摂取と生活習慣病との関連を調査する必要があります」と、小久保氏は述べました。

 コネチカット大学分子細胞生物学准教授のチャールズ・ジャルディーナ氏は「がん予防に向けた食事勧告の根拠となるエビデンス」と題し講演し、くるみを1日2オンス(56グラム)食べると前立腺がんの発生と進行を防ぐことを示した研究を紹介しました。テキサス大学保健科学センターサンアントニオの研究者らによる研究で、くるみを加えない食事を与えられた対照群マウスでは前立腺がんの腫瘍の発生率が44%だったのに対し、くるみを加えた食事を与えられた実験群マウスでは18%に抑えらました。がんの発生したマウスにおいても、くるみ食群の腫瘍の平均サイズは対照食群と比べて4分の1になりました(※7)。

 くるみには抗酸化物質であるポリフェノールも豊富に含まれ、ポリフェノールはLDL(悪玉コレステロール)をに対して、血管にプラークが形成させるのを防ぎ、アテローム性動脈硬化の予防に効果的に働くのに加えて、細胞膜にダメージを与えるフリーラジカルを抑え、がんの原因になる作用を中和する作用があると考えられています。くるみは、ナッツ類で最も抗酸化物質の含有量が多く、また質の高い抗酸化物質が組み合わさり含まれています(※8)。

“くるみ”の良質な栄養で満腹感を得られやすい
 シンポジウムの最後にQ&Aとディスカッションが行われました。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部名誉教授のジョエル・サイモン氏は「くるみは脂肪分が多く含まれるので、食べ続けると体重が増えるのではないかという懸念が少なからず見受けられます」と指摘し、これに対して「過去に行われた多くの横断的研究で、くるみを含むナッツ類を食べると、むしろ体重は減ることが明らかになっています(※9)。くるみにはアルファリノレン酸、抗酸化物質、植物ステロール、ビタミン、ミネラルなど健康上のベネフィットをたらす重要な栄養素が豊富に含まれます。くるみを食べると満腹感を得られやすいので、次の食事のエネルギー摂取量は減るのでないかと考えられます」という回答が得られました。

 同じく座長を務めた茨城キリスト教大学名誉教授およびエミリオ森口クリニック院長の板倉弘重氏は、「日本ではがんや心臓病とともに、脳卒中が3大死因の1つを占めています。脳卒中は寝たきりをもたらす主要な原因でもあり、その予防は重要です。多くの臨床試験で、くるみの摂取が心疾患に加えて脳卒中の予防にも効果のあることが報告されています。健康維持のためにくるみの利用を考えて良いと思います」とまとめました。

カリフォルニア くるみ協会

カリフォルニア くるみ協会(CWC)とは
 カリフォルニア くるみ協会 California Walnut Commission (CWC)は、カリフォルニア州のくるみ生産者と加工・販売業者を代表する機関で、カリフォルニア州農務局の管轄のもとに各種調査・研究、輸出相手国での啓蒙活動を行う非営利団体です。対日活動は1986年にスタートし、その主な役割は日本におけるカリフォルニア産くるみの需要拡大を目的とする宣伝、PR、販売促進、調査などを企画実施することにあります。海外では日本のほか、カリフォルニア産くるみの主要マーケットであるドイツ、スペイン、中国、韓国、インド、トルコに代表事務所を置き、良質なカリフォルニア産くるみを広めるためのさまざまなマーケティング活動が行われています。なお、商品の仕入・販売や価格設定には一切関与しておりません。

(※1) Latest Research Shows Heart Health Benefits Of Walnuts In The German Diet
http://www.walnuts.org/news/latest-research-shows-heart-health-benefits-of-walnuts-in-the-german-diet/
(※2)Walnut Consumption Is Associated with Lower Risk of Type 2 Diabetes in Women. Journal of Nutrition, 143(4): 512-518, 2013.
http://jn.nutrition.org/content/143/4/512.full
(※3)Walnuts Decrease Risk of Cardiovascular Disease: A Summary of Efficacy and Biologic Mechanisms. Journal of Nutrition, jn.113.182907, 2014.
http://jn.nutrition.org/content/early/2014/02/05/jn.113.182907
(※4)A Walnut Diet Improves Endothelial Function in Hypercholesterolemic Subjects. Circulation, 109: 1609-1614, 2004.
http://circ.ahajournals.org/content/109/13/1609.full
(※5)http://www.walnuts.org/health-and-walnuts/health-research-initiatives/the-mediterranean-diet-predimed/
(※6)日本の疫学研究の最近の話題 JPHC:動脈硬化と生活習慣. The Lipid, 22(1): 26-37, 2011.
(※7)Walnuts are top nut for heart-healthy antioxidants
http://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/newsreleases/2011/march/walnuts-are-top-nut-for-heart-healthy-antioxidants.html
(※8)A Walnut-Enriched Diet Reduces the Growth of LNCaP Human Prostate Cancer Xenografts in Nude Mice. Cancer Investigation, 31(6): 365-373, 2013.
http://informahealthcare.com/doi/abs/10.3109/07357907.2013.800095
(※9)Long-term associations of nut consumption with body weight and obesity. American Journal of Clinical Nutrition, 100(Supplement 1): 408S-411S, 2014.
http://ajcn.nutrition.org/content/100/Supplement_1/408S.abstract
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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