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2016年06月28日

「人工膵臓」がさらに進化 血糖コントロールを最適化するための挑戦

第76回米国糖尿病学会(ADA2016)
 米国を中心に開発が進められている「人工膵臓」は、1型糖尿病の血糖値を自動的に読み込んで、インスリンを投与を自動化したシステムだ。
 「人工膵臓」では最先端のアルゴリズムによって、インスリンポンプから投与するインスリン量を自動的にコントロールする。そのアルゴリズムを開発する研究は進歩しており、より血糖コントロールを安定化するシステムが開発されたと発表された。
血糖変動を予測しインスリン量を調整するシステムが有望
 血糖値は常に変動しており、食事、身体活動、睡眠、ストレス、ホルモン代謝など、さまざまな要因の影響を受けている。インスリン分泌が失われている1型糖尿病患者の血糖値を一定に保つのは容易ではない。しかし、身に付けるだけで血糖コントロールを最適化する「人工膵臓」の開発は進歩している。

 世界中の研究者が「人工膵臓」で投与するインスリン量をコントロールするアルゴリズムの開発に挑戦しており、最近では2つの主要なコントロール方法が有望とされいる。

 その2つとは「予測コントロールモデル」(MPC)と「比例積分デリバティブ」(PID)だ。どちらがより良い血糖コントロールをもたらすか、研究者の間で議論されている。

 MPCシステムでは、血糖が多数のステップで変動するのを見越して、体が必要とするインスリン量を予測して投与する。もとになっているのは、過去の血糖変動を記録したアルゴリズムデータだ。

 一方で、PIDシステムでは、皮下にセンサを装着し連続的にグルコース濃度の変動を測定し、それをもとにデバイスが自動的にインスリン投与量を調整する。例えてみると、家庭用サーモスタットが温度を調整するように反応的だ。

 ハーバード大学エンジニアリング・応用科学部とウィリアム サンソム糖尿病センターの研究チームが、臨床コンディションで2つの管理法をはじめてランダムクロスオーバー比較試験で比較する臨床試験を行った。その結果、MPCの方がPIDよりも優れているという結論を導き出した。
「人工膵臓」の開発プロジェクトの最新の成果
はじめてのランダムクロスオーバー比較試験を実施
 最新の「人工膵臓」の臨床試験の結果は、ハーバード大学エンジニアリング・応用科学部のフランク ドイル氏やエーヤル ダッソー氏らによって、米国糖尿病学会で発表された。

 ハーバード大学エンジニアリング・応用科学部とウィリアム サンソム糖尿病センターの研究チームが、臨床コンディションで2つの管理法をはじめてランダムクロスオーバー比較試験で比較する試験を行った。

 試験には成人の1型糖尿病患者30人が参加した。参加者を無作為にPID群とMPC群に振り分けて第1ラウンドを行い、第2ラウンドではそれぞれ別のシステムに取り替えた。

 食事内容をあらかじめ公表するプログラムと公表しないプログラムを組合せ、食事時のインスリンの追加投入を忘れた場合や、インスリン抵抗性がある場合、夜間に低血糖が起こる場合などをシュミレートした。5分毎にリアルタイムの血糖値がモニターされた。

 その結果、プログラムによる血糖コントロールが有効に機能し、血糖値が目標の範囲内におさまった時間帯は、MPCでは74%だったが、PIDでは64%だった。平均血糖値もMPCの方がPIDよりも低くコントロールできた。
1型糖尿病の最良の血糖コントロールを得られるシステム
 「血糖変動の最高値と最低値を予測し、適切なインスリン投与を行うMPCの方が、より良い成績を得ることができた」と、ダッソー氏は述べている。「MPCは低血糖が起きる前に予測しインスリン投与量を自動的にコントロールし柔軟な対応ができる。未来に期待できるのはMPCの方だ」としている。

 「数百人の患者のデータを得て、MPCのアルゴリズムは急速に進歩している。データを増えればそれだけ精度が向上し、より洗練されたアルゴリズムのバージョンを得られる。まだ開発途中だが、多くの患者の血糖変動に対応できる強力なアルゴリズムだ」と、ドイル氏は言う。

 人工膵臓の開発の次のステップは、ストレスや運動時、体重の増減など、長時間の変動に対応できるシステムを作ることだ。最終的な目的は、患者の負担を最小限にとどめ、最良の血糖コントロールを得られるシステムを完成させることだという。

 「糖尿病は患者の自己管理が必要とされる疾患だが、自動化された信頼できるシステムが実現すれば、1型糖尿病患者の負担を大きく軽減できる。我々はゴールの達成を信じ、患者が糖尿病の治療に費やす時間をより少なくできるよう改善を重ねていく」と、ダッソー氏は述べている。

第76回米国糖尿病学会(ADA2016)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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