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2018年05月17日

夏の夜は「心筋梗塞」の増加に注意 日照時間によって発症に差

 「心筋梗塞」の発症と時刻における日照時間は関連しており、夏は夜間に急性心筋梗塞の発症数がその他の季節と比べて増加することが、京都府立医科大学などが世界7ヵ国と共同で行った調査で明らかになった。
「心筋梗塞」の自覚症状を知っておくことが大切
 「心筋梗塞」は、心臓に血液を運ぶ冠動脈が血栓によって詰まってしまうことで引き起こされる、突然死を引き起こす深刻な疾患だ。

 動脈硬化がかなり進行して、心筋梗塞の危険性が高まっているときに、次のような自覚症状が現れることがある。▼胸痛、▼息切れ、▼動悸、▼全身の倦怠感、▼手足のむくみ、▼湿疹などが主な症状だ。これらの症状があったら、できるだけ速やかに医療機関を受診することが大切だ。

 特に胸痛が10〜20分以上続く場合や、痛みが非常に激しい場合は、心筋梗塞を起こしている可能性がある。

 ただし、神経障害があると、症状がない(感覚がない)まま、心筋虚血が引き起こされることがある。糖尿病の3大合併症のひとつである神経障害は、血糖コントロールが不良の状態が続くと引き起こされる。

 心臓の冠動脈が細くなって血液の流れが悪くなると、通常は胸痛が起こって異常に気づく。しかし、神経障害があると、自覚症状が乏しい場合があり、病気が心筋梗塞にまで進展してはじめて自覚症状を生じることがあるので、とりわけ注意が必要となる。

 心筋梗塞を起こす最大の原因は「動脈硬化」だ。心筋梗塞を防ぐには、動脈硬化になりやすい危険因子を改善する必要がある。具体的には、▼食べ過ぎ、▼運動不足、▼喫煙などの生活習慣を改善し、▼高血圧、▼糖尿病、▼脂質異常症、▼肥満などがあれば治療することが大切だ。

 これらに加え、夏は夜間の心筋梗塞が増えるという研究が発表された。心筋梗塞の危険因子があると指摘された人は、とくに夏の夜間の自覚症状に気を付ける必要がある。

関連情報
夏の夜間に急増する急性心筋梗塞 日照時間が関与
 「ST上昇型急性心筋梗塞」(STEMI)は、動脈硬化で狭窄した冠動脈が血栓によって閉塞することによって生じる。STEMIは世界の主要死因のひとつとなっている。

 急性心筋梗塞は、一般的に発症数が日中に多く、冬に増加するという季節変動パターンがあることから、概日リズムと影響していると考えられている。

 季節により急性心筋梗塞の発症数に増減があるのは、環境や天候などの要因が発症機序に関与しているからだという報告があるものの、季節により変化する概日リズムがどのように影響するかはよく分かっていない。

 そこで、京都府立医科大学などの国際共同研究グループは、地球の南北両半球の合計7ヵ国(日本、イタリア、英国、フィンランド、中国、シンガポール、オーストラリア)で2004年〜2014年にかけて発症した急性心筋梗塞2,270症例を対象に、発症が夏に変動するかどうかを検証した。

 その結果、急性心筋梗塞の発症時刻と日照時間が密接に関与しており、急性心筋梗塞の発症例は、特に夏は他の季節と比べて日中(6〜18時)に減少し、夜間(18〜6時)にシフトして増加することが判明した。
日照時間で発症に差 ビタミンDの合成が影響か
 夏には他の季節と比べて日中の急性心筋梗塞の発症数が減少し、夜間にシフトして増える「サマーシフト」という現象がみられる。

 フィンランドや英国では夏とその他の季節における差がその他の国々と比べて小さく、これは北極に近付くほどサマーシフトが消失するからだと考えられる。

 シンガポールでは、日中と夜間の急性心筋梗塞数の差と環境や天候などの要因との相関について解析したところ、日照時間と強い負の相関を示すことが分かった。

 これらから、天候(雨雲)を考慮に入れた日照時間が急性心筋梗塞の発症時刻に影響を与えるということが明らかになった。

 さらに、日照によるビタミンDの合成量が急性心筋梗塞の発症に関与している可能性が示された。過去の研究では、ビタミンD欠乏症は心筋梗塞の発症リスクを上昇させることが示されている。

 ビタミンDの合成は日照に依存しているため、研究グループはビタミンDと日中と夜間の急性心筋梗塞数の差との相関を調べた。皮膚で作られたビタミンDは肝臓で代謝されて25(OH)Dとなる。

 同じ緯度に位置しているスウェーデンとフィンランドで、25(OH)Dと急性心筋梗塞数を調べたところ、日中と夜間の急性心筋梗塞数の差は負の相関を示した。この結果は、日照時間が長くなりビタミンDの合成が増加すると、日中と夜間の急性心筋梗塞数の差が減少することを意味している。
時間帯に応じた救急医療システムの確立を
 今回の研究で、特に夏は他の季節と比べて、夜間の急性心筋梗塞発症数が増加し、日照によるビタミンDの合成が急性心筋梗塞の発症に関与していることが示された。

 研究グループは、「季節や時間帯に応じた急性心筋梗塞に対応する救急医療システムの確立や、ビタミンDを標的とした心筋梗塞予防薬や診断マーカーの開発につながる」とまとめている。

 この研究は、京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学の西真宏大学氏ら世界7ヵ国による国際共同研究グループが行ったもので、科学雑誌「Journal of the American Heart Association」オンライン版に発表された。
京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学
'Summer shift': a potential effect of sunshine on the time onset of ST-elevation acute myocardial infarction(Journal of the American Heart Association 2018年4月7日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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