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2019年06月12日

1型糖尿病の発症を免疫療法で抑える 臨床で世界初の成功

第79回米国糖尿病学会年次学術集会
 1型糖尿病のリスクの高い人の発症を、免疫システムを標的とする薬により抑制する試験結果を、米国のイェール大学が発表した。研究は、米国立衛生研究所(NIH)が助成し、国際若年性糖尿病財団(JDRF)の支援を受け実施されている。この研究により、免疫療法により1型糖尿病の進行を2年以上遅らせられる可能性がはじめて示された。
β細胞の破壊を抑える治療法を開発
 米国のイェール大学医学部の免疫・内分泌学部のケヴァン ヘラルド教授は、自己免疫によるβ細胞の破壊を抑える薬「テプリズマブ(teplizumab)」を用いた無作為プラセボ対照試験である「1型糖尿病TrialNet」研究を主導している。

 このほど、免疫システムを標的とする「テプリズマブ」により、1型糖尿病リスクの高い人の発症を抑制できることを、研究で明らかにした。研究成果は、医学誌「ニュー イングランド メディカル ジャーナル(NEJM)」に掲載され、サンフランシスコで6月に開催された第79回米国糖尿病学会年次学術集会で発表された。

 1型糖尿病は、自己免疫によりインスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されることで発症する。米国の有病者数は100万人以上で、現在のところ根治する方法がなく、患者は血糖コントロールを維持するためにインスリン注射を毎日行っている。

 「TrialNet」研究は2011年に開始され、まだ1型糖尿病を発症していないが将来的に発症する可能性が高い8〜49歳の男女76人が参加している。

 参加者の全員が、1型糖尿病の発症リスクが高いと判定されていた。親、兄弟姉妹、叔母・叔父・従妹などの近親者に1型糖尿病患者がいて、過去に行われた「TrialNet予防経路研究」に参加し、糖尿病に関連する自己抗体についてのスクリーニング検査を受けていた。

関連情報
1型糖尿病の発症を遅らせることにはじめて成功
 参加者の半分は「テプリズマブ」の14日間の静脈内投与を受け、残りの半分はプラセボの投与を受けた。1型糖尿病を発症するまで、試験を通じて耐糖能を調べる検査を受けた。

 その結果、期間中に1型糖尿病の発症へ進行した割合は、プラセボ群で72%だったのに対し、「テプリズマブ」による治療を受けた群では43%に抑えられていた。1型糖尿病を発症するまでの期間の中央値は、プラセボ群で24ヵ月だったが、「テプリズマブ」群では48ヵ月だった。

 「テプリズマブ」は、「モノクローナル」抗体と呼ばれる、細胞表面の目印となる抗体をピンポイントで狙い撃ちする薬物の一種。「モノクローナル」とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンで、「テプリズマブ」はその抗体の特定の分子を識別して結合し、結合するのはCD3と呼ばれるT細胞上にある分子だ。

 キラーT細胞上は、本来は害を及ぼすバクテリアやウィルスなどを破壊し体を守っている。抗体がバクテリアやウィルスの表面に付着して、キラーT細胞にその存在を知らせている。しかし、1型糖尿病ではβ細胞が自身を攻撃対象とする抗体の一種を産生してしまう。「テプリズマブ」はこうした抗体を無効化し、T細胞の活性を弱める働きをする。

 「この免疫療法を行うことで、1型糖尿病の臨床的発症を遅らせることができることが、はじめて実証されました」と、ヘラルド教授は言う。
1型糖尿病の発症を遅らせる薬を開発
イェール大学が公開しているビデオ
より多くのβ細胞を保護する治療法を開発
 1型糖尿病と診断されたばかりの患者では、免疫システムはβ細胞を完全に破壊しておらず、β細胞の最大20%はまだ生存している。1型糖尿病と診断された時点で免疫療法を行えば、より多くのβ細胞を保護できる。インスリンを産生するβ細胞が多ければ、血糖コントロールを行いやすくなり、深刻な合併症から守ることができると考えられている。将来に、生存しているβ細胞を増やす治療法が開発される可能性もある。

 「今回の試験では、参加者は10代および若年成人が大多数を占めていました。これらのリスクの高い患者の1型糖尿病への進行を遅らせることは重要です」と、ヘラルド教授は指摘する。

 一般的に1型糖尿病の発症リスクは年齢を重ねるとともに減少する。小児の患者の多くで、1型糖尿病の発症と、発育の非常に重要な時期が重なる。発症を1年間、2年間、7年間と遅らせることができれば、脆弱な発育時期に危険にさらされるのを防ぐことができる。「1型糖尿病の発症を遅らせることには大きな意義があります」と、ヘラルド教授は言う。

 現在までのところ「テプリズマブ」は免疫システムの攻撃を遅らせることはできるが、完全に止めることはできない。研究チームは、試験に参加した人を追跡して調査する予定で、1型糖尿病を発症した人で治療がどのような利点をもたらすかを調べる予定だ。発症しなかった人では、免疫システムにどのような変化が起きているかを解明する計画をたてている。

 免疫システムを標的とする治療の効果を高め、1型糖尿病の発症を防ぐ治療法の開発に取り組むとしている。

Immunotherapy delays type 1 diabetes in people at high risk(イェール大学 2019年6月9日)
An Anti-CD3 Antibody, Teplizumab, in Relatives at Risk for Type 1 Diabetes(ニュー イングランド メディカル ジャーナル 2019年6月9日)
New drug is shown to slow Type 1 diabetes and delay diagnosis(英国糖尿病学会 2019年6月8日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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