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2019年06月18日
加工食品に含まれる添加物が糖尿病と肥満のリスクを高める? 世界初の報告
パン、焼き菓子、チーズなどさまざまな加工食品に添加物として含まれる「プロピオン酸」が、肥満や2型糖尿病のリスクを高めるホルモンの血中濃度を上昇させている可能性があることが、米国のハーバード公衆衛生大学院の研究ではじめて明らかになった。
食品添加物は毎年増え続けている
発表された研究は、ヒトを対象としたランダム化プラセボ対照臨床試験と、マウスを用いた動物実験の、それぞれのデータを統合したもの。詳細は科学誌「Science Translational Medicine」オンライン版に掲載された。
プロピオン酸を慢性的に大量に摂取していると、代謝に異常があらわれ、体重増加とインスリン抵抗性が引き起こされるおそれがあると結論された。
手軽な加工食品や調理済み食品の需要は年々増えており、製造コストを抑えたり、消費期限を延ばすために、さまざまな添加物が使われている。最近ではなるべく添加物を使わないようにしようという風潮もあるが、安価でバラエティーに富んだ食品は消費者にも歓迎されるので、食品添加物は毎年増え続ける傾向にある。
一方で、世界の糖尿病有病数は4億人を超える。過去50年間で2型糖尿病と肥満が急増しており、環境的要因と食事スタイルが影響していると考えられている。糖尿病を予防するために各国がさまざまな努力を注いでいるが、糖尿病の有病率は2040年までに40%増加すると予測されている。
「肥満と2型糖尿病の二重の流行に対策するために、食品成分が分子レベルおよび細胞レベルで体の代謝にどのように影響するかを解明する必要があります。簡単だが効果的な方法を開発できる可能性があります」と、ハーバード公衆衛生大学院のギョクハン ホタミシュジョ教授(遺伝代謝学)は言う。
プロピオン酸が血糖値を上げるホルモンの分泌を増やす
研究チームは、食品の調理や保存に使用される添加物が一因となっていると考えて、それら分子を特定する研究を行った。
研究チームは、保存料として加工食品などに広く使われているプロピオン酸に着目。プロピオン酸は、食品のカビが付くのを防ぐ作用のある、天然に存在する短鎖脂肪酸だ。
マウスにプロピオン酸を投与したところ、交感神経系を急速に活性化し、グルカゴン、ノルエピネフリン、および脂肪酸結合タンパク質4(FABP4)と呼ばれる新たに発見された糖新生ホルモンを含むホルモンの急上昇をもたらすことを突き止めた。
これにより、肝臓の細胞からより多くのブドウ糖が産生され、糖尿病の主徴である高血糖が引き起こされることを確認した。
さらに研究チームは、ヒトが通常摂取するのと同等の用量のプロピオン酸であっても、マウスに与え続けると、有意な体重増加とインスリン抵抗性をもたらすことも発見した。
ヒト対象に臨床試験も実施 同様のホルモン効果が
次に、ヒトでの影響を調べるために、14人の健常人を対象に二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施した。
参加者は2つのグループに無作為に分け、1つ目のグループは添加物として1gのプロピオン酸塩を含む食事を摂ってもらい、他のグループにはプラセボを含む食事を摂取してもらった。食前、食後15分以内、その後30分ごとに4時間、それぞれ血液サンプルを採取した。
参加者のプロピオン酸摂取の影響をみたところ、マウスと同様のホルモン効果が観察された。
プロピオン酸を含む食事を摂取したグループでは、食直後にノルエピネフリン、グルカゴン、FABP4が有意に増加することが明らかになった。このことはプロピオン酸が潜在的にヒトの糖尿病および肥満のリスクを高める「代謝かく乱物質(metabolic disruptor)」として作用している可能性を示している。
食品添加物について新たな調査が必要
プロピオン酸は米国食品医薬品局(FDA)によって安全な添加物と認められている。しかし今回の研究は、食品に使用するプロピオン酸について新たな調査が必要で、潜在的には代替物を見つける必要性があることを示しているという。
「過去50年に肥満と2型糖尿病が劇的に増えました。その背景に環境と食事の因子があり、注目すべき因子として加工食品などに含まれる添加物が挙げられます。今回の結果は、そうした1つの可能性を示す有力なエビデンスになるでしょう」と筆頭研究者でイスラエルのテルアビブ大学の准教授でもあるアミール チロシュ氏はコメントしている。
Could a popular food ingredient raise the risk for diabetes and obesity?(ハーバード公衆衛生大学院 2019年4月24日)The short-chain fatty acid propionate increases glucagon and FABP4 production, impairing insulin action in mice and humans(Science Translational Medicine 2019年4月24日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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