糖尿病 男の悩み ―糖尿病と性機能低下―

2006年04月01日

1. 男の人生の活力と性

B. 男の性を支える生理現象は夜間睡眠時勃起

a. 性には二つの意味がある

 ところで、ひと口に“性”と言っても、詳しく分析すると二つの因子に分けられます。

 基本的には、男女の生物的な skin ship、性的な心と身体のコミュニケーションをもつということですが、もう一つその奥には、それを可能にする基礎的な生理的な性機能と性的心理情操の存在と保持が求められるわけです。その基礎的な生き物としての能力・活性あってこその性とも言えるでしょう。“いくつになっても、男と女”であるためには、性的要素をなくし、中性化した個人であってはなりません。

 “高齢者は悟りを開きあまり人生を達観し、性を離脱すべし”というわが国の古き活力のない思想・悟り・哲学には、私はあまり組したくはありません。21世紀に医学の目標は、20世紀の“いかに生命を延長するか”という難しかった命題から進んで、今や“高いQOLとそれを支える生き物としての性”を可能な限り維持するというさらに新しい命題であると、強調しておきたいと思います。これは単に私だけの意見ではなく、国際的な医学界全体意見であると信じております。

 そこでまず、個体中の性、我々のテーマである男性の性について検討してみましょう。

 その個人の性の本能・情動を動かすのは、性本能中枢であり、それの具体的な表現である生理機能および心理こそが、生き物 固体としての性、人間生活の基本的な支え・基盤とも言えることになります。その性の活性を失って中性化してしまうことは、生き物としてのあり方を忘れてしまう、かなり重大な問題点とも言えます。

b. 男における朝立ちの定義

 ところで、各人がそれぞれ自分らの性を具体的に認識するのは、もちろ、性の形態からでしょうが、機能的な動く生き物としての性の自認は、やはり生理機能からではないでしょうか。誰でもが、それを最もわかりやすく、また自然に男として女としての自らを自覚し、生き物としての活力ある生存を意識し得る最も生物学的な身体生理的表現としては、女性では月経があろうし、男性で自ら男を自覚するは早朝勃起・朝立ち(図7)であると言えます。

図7

 現在の教養文化の中で、洋服を着たロボットのように育てられて、忙しく社会生活しているほとんどの男性方にとっては、“勃起”などは秘すべき事象であり、あえて言挙げすべきことではないと思っていることでしょう。ここで急に“男のサイン”として“朝立ち”が重要であり、そんなに“男としての重要な生物学的表現”として尊重すべきであるなどと言われても、恐らく戸惑うかもしれません。

 しかし生き物として、どんな美女でも月経があるように、教養高い聖者でも、スマートなエリ−ト方でも、男ならそれが必ずあるべき生物学的生理現象なのです。

 “勃起”と言えば、エロッチクな性行為そのもののようにしか理解・誤認している方がほとんどなのではないでしょうか? 男なら必ず経験している早朝勃起・朝立ちは、朝目覚め時に気付く、睡眠中に繰り返している夜間睡眠時勃起現象の最後の勃起なのです。

c. 朝立ちは最後の夜間睡眠時勃起

 睡眠には図8示すように、ノンレム睡眠期とレム睡眠期とがありますが、レム睡眠期に、睡眠により身体活動が完全に機能停止しないように、副交感神経中枢が興奮して、各種内臓機能を動かしているのです。そのときには眼球が動いたり、また寝返りしたり、夢も見ているのです。その断続して起こる夜中の副交感神経興奮に連動して、内臓の外的表現である陰茎も、当然勃起現象を頻回に繰り返しているのです。

図8

図9

 図9に示すように、男性としての当然な生理現象として、夜間睡眠時間中、合計するとかなりの時間、陰茎勃起が起きていることになるのです。睡眠中なので、ほとんどの男性は自分ではそれを気付かないでいるだけなのです。

 その夜間睡眠時勃起現象は、特に性的に興奮するわけでなくて、全て自然な男の脳の生物学的生理反応・副交感神経興奮の結果として発現するのです(なおほとんど目立たず、気付かれないのですが、同じ機序で、女性の陰核も、やはり同様の、軽度の夜間睡眠時勃起をしているのです)。

 女性側での目立つ性的生理現象は、やはり脳による別な性中枢の機序の生物学的生理現象の反応の結果として、定期的な排卵現象が起こり、その結果として、極めて自覚しやすいエピソードとしての子宮による月経と言えます。性の生理現象として男女を比較する場合、世の男性方には、夜間睡眠時勃起を女性の月経並の、極めて重要な生き物としての男性生理機能表現であることをはっきりと認識していただきたいと思っております。

 とにかく、図10に見られるように、繰り返して起こる夜間睡眠時中の勃起の合計時間は、20歳代男性では睡眠中の5〜4割にもなります。そして60歳代でさえも、なお睡眠時間中の平均2割にもなっているのです。そんな男の生理を知らないで男をやっているのは、“奇麗ごと好みのロボット化した人間”の自己認識といっては言い過ぎでしょうか? また勃起を単なるエロチックな生理反応とのみ理解しているのも、いわゆる成人週刊誌かぶれの方と言はざるを得ません。

 最後のレム睡眠時(図9)の夜間睡眠時勃起中に目覚めると、世に言う“朝立ち”早朝勃起として自覚するのです。“朝立ちは小便までの命かな”などと、尿が溜まることと関係するようなことを言う川柳などは、男性医学の知識のない方の洒落に過ぎません。それなら男性、昼間もしばしば勃起していなくてはなりません。とても、たまったもんではありませんね。

図10

d. 夜間睡眠時勃起は男の素振り

 夜間睡眠時勃起はたとえて言えば、野球の選手もバッターボックスに立つときだけバットを振るのでなく、常に素振りをしているのと同じようなエピソードではないでしょうか。野球の選手たる者、また男たる者、常に素振りしていて準備怠りないのが当然のことではないでしょうか。

 ただ野球選手がバッターボックスにたってバットを振るかどうかは、あくまで野球の試合の流れの中で、監督に呼ばれるどうかで決まるだけのことでしょう。それと同様に、男たるもの、日常生活の流れの中で、性交渉することになり、バットをしっかり振れるよう、それに備えていつも素振りして、生理的に準備怠りないでいるのであると理解していただければと、思っております。いかがでしょうか?。バッターボックスに立ってバットを振るのは、単にあくまでパートナーとの交流試合の状況次第にすぎないということで、男たるもの“男の素振り”は自然な生理現象なのです。

 そこで、筆者はよく、男たるもの夜中に素振りしていることが当然であり、またそのことをしっかり自覚すべきであると説明いております。女性もいつでも妊娠できるように、定期的な生物学的自然現象としての排卵・月経反応があるのと、全く同様の“生物 人間生理の原則”と考えていただければ、よく理解し、また納得できるではないでしょうか?

 この、男の特徴である夜間睡眠時勃起機能は、女性の月経と異なり、男性更年期後もかなり年長になっても、多くの方がその機能を保持しているという生理機能のものなのです。それは男女の更年期における性ホルモン分泌状況の差によるのです。

 その男女の生理の差については、後章で詳しく説明しますが、朝立ち・夜間睡眠時勃起現象は、心理的な男らしさを支え、その維持に深く関わっており、自分ではそれほど自覚はしなくとも、男の生物性・性意識の根源ともなっているのです。これが男の生理と言えます。

 要するに、朝立ち・夜間睡眠時勃起現象は男の脳の性機能の身体表現、言うならば《性中枢→副交感神経中枢》の自然な男の基本的な生理機能であるとを理解しておかなければなりません。

e. 朝立ちは何歳まであるのか?

 そして、世の男性が、その自らの早朝勃起を気付く頻度を、年齢別にまとめると、図11の如くになります。60歳前半まではほとんどの人が、それなりに自覚があり、70歳後半でも4人中3人は一応自覚を持っているのです。

図11

 この男性的生理機能を支えているものは、主として男性ホルモンであり、その男性ホルモンの脳内活性作用の結果として、その“男の性の生理”が表現されていると言えます。加齢によるその男性ホルモンの下降に連れて、その機能が徐々に低下してゆくのですが、男性ホルモンとの関係については後で詳しく説明することにします。

 もう一つ、男として大きな問題は、その生理現象が、生活環境のストレスや心理的な影響によってかなり敏感に乱れることがあるのです。

図12

 図12示しましたが、“性は脳なり”と言われるように、夜間睡眠勃起現象は、視床下部の性中枢と副交感神経中枢との連携で起きているのです。その中枢がかなり精神的・心理的ストレスによる影響で機能低下を起こし、朝立ち早期喪失を起こしてくるのです。

 男の生理はきわめて複雑微妙であると言えます。女性もいろいろな心理的ストレスや体調などで、よく月経に乱れが生じますが、男性側も女性よりストレスに生理的に弱いこともあり、その機能はより乱れがちなのです。しかもその乱れ方も、個人差の幅が大きく、そのため男の性問題は、非常に繊細微妙なものであり、問題が多岐にわたると言えるのです。

f. 勃起能は男の心の支え

 もちろん女性において、月経が女の性のすべてではないと同じように、男性でもその夜間睡眠時勃起現象が男の性のすべてとは言いませんが、心理的また生物活性の点から見て、“生き物・男性の基本”であることであることは間違いありません。あまり言われてはおりませんが、さまざまな医学的・心理学的研究から、その男性の夜間睡眠時勃起現象という生物学的活性が、男性的欲求・意欲のみでなく、日常の生物的活力も含めた“すべての男らしさ・活性”と非常に密接な相関性が高く、男の根源的要素となっているのです。

 その夜間睡眠時勃起現象がなくなれば、当然、性機能障害・性生活の減退となってくるわけです。図13は琉球大学精神心理学の石津宏教授の報告ですが、勃起能と男らしさ(Male gender role index)とがかなり密接な相関があることが証明されております。

図13

 この性的興奮時の勃起能と夜間睡眠時勃起現象とは当然パラレルに相関するわけですので、あまり自分ではそれと認識はしないにしろ、“男の性的活性”と“男らしさ”とはこのようにかなり深い密接な関係があるものなのです。性機能は“心の中の男性性”にも非常に強い影響を持つことが明らかにされております。“心身の連動”は男として基本的に大切なことと言えます。

 とにかく朝立ち・夜間睡眠時勃起現象の男性深層心理の上で非常に重要であることは、それが若いのに早く病的になくなっている方が治療により復活した際の、自然な“心理的な生き生きさ”の回復を見ていると、臨床上常に感じていることです。

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