糖尿病 男の悩み ―糖尿病と性機能低下―

2007年07月01日

3. 糖尿病における性機能低下

d. 性欲の変動

 図4、図5は、札幌医大関連施設症例(S群)と虎の門病院症例(T群)の性欲および勃起得点の症例ごとの分布をプロットした図です。両群の症例数の差があるため、両群の差をあまり厳格には論じられませんが、神経障害の有無で症例分類を行いつつ検討しても、S群の方がT群に比べて、得点が下方10%以下までにも低下している症例割合が多いことがわかります。

図4 糖尿病男性における「性欲」の得点推移―札幌医大関連施設 症例―

図5 糖尿病男性における「性欲」の得点推移―虎の門病院 症例―

 図4、図5は、性欲得点分布です。

 一般的には、性欲については、次に述べる「勃起」の問題とは異なり、糖尿病病でもほとんど影響は無いかのように言われてもいます。しかし、このTおよびS両群ともに、ことに神経障害のある症例群では、性欲もかなり低下している例が目立っています。

 これには、神経障害が発症するほど血管障害が進んでいる症例では、睾丸障害性の内分泌機能低下による遊離テストステロン低下もかなりある可能性も高いと考えられます。今回検討の症例群では、具体的にそれを測定されていませんが、事実、遊離テストステロンの低下が確認され、そのような生理内分泌学的背景から性欲・性機能低下をきたしている症例が、最近かなり見られるようになってきました。

 さらに問題を複雑にしているものに、心理的な問題が加味されてくることです。糖尿病症例には、「ある健康保険組合員調査でうつ病罹患率が健常の1.2に対して、糖尿病で2.6と2倍以上高い」と報告されているように、健常男性の2倍以上のうつ病有病率であるとされていることや、それほどまで進まなくても糖尿病発症から生まれる心理的不安やストレスなどもの影響があり、心因性 性機能低下例がかなりあるものと推定されます。

 それら種々な要因が積み重なって、性欲低下も高頻度に発症してくると言えます。

参 考

 性機能質問用紙の回答を因子分析しますと、「性欲」の項と「早朝勃起」の項とは次に述べる勃起能関連の「陰茎硬度」「勃起時間」の項とは、別の因子として分かれます。それは「性欲」と「早朝勃起」がより基本的な男性の生理機能の指標であることが示されております。

 さらに注目すべきは「性交頻度」はまた別の因子に入り、ここでは省きましたが、女性パートナーの「性への理解度」「協力度」と同じグループの因子に、当然のことながら分かれております。

 性にまつわる因子は、このように三つの大きな因子に分かれていることを、ご理解ください。

e. 重要な早朝勃起のチェック

 糖尿病症例の性機能低下を論ずる場合、一般的に忘れられておりますが、男の基本的な生理として非常に重要な問題点があります。すぐ“性交頻度”がどうかなどという前に、まず基本的な男の生理を考えてみてください。女性の月経問題と同じなのです。

 それは早朝勃起自覚問題なのです。全く女性の月経に相当すると言ってよい、重要な男性生理の基本なのです。それにもかかわらず、臨床医が質問もしないし、それを検査することすら知らない医師がほとんどなのには驚かされます。

 早朝勃起とは、夜間睡眠時勃起現象(NPT:Nocturnal Penile Tumescence。最近は睡眠関連勃起:Sleep -related erection〈SRE〉 と呼ぶようになってきています)により、睡眠時最後のレム睡眠時に起きた勃起を、目覚め時に自認するものです。この睡眠関連勃起については、この「男の悩み」シリーズの「男の人生の活力と性」の「B. 男の性を支える生理現象は夜間睡眠時勃起」の項に詳しく説明しておきましたので、ぜひ呼んでいただきたいと思います。

 中高年女性を治療する際、月経の状態を聞くのは医師として必須のことになっているのは説明するまでもないことですが、それと同様に男性症例を診療する際、“早朝勃起”をチェックすることは、男としての症例を診ているならば必須のことなのです。筆者は早朝勃起について質問しないような医師は、患者さんを生き物・男として思っていない“信用できない医師”と言ってよいと思っています。前にもよく説明しましたが、睡眠時勃起・早朝勃起は性交渉などと関連のない、エロチックな要素の全くない、男の基本的な生理現象であることを認識すべきなのです。睡眠時勃起・早朝勃起がなくなってくることは、基本的に男としての生理全体になにかが起きていることを示唆しているのです。

 早朝勃起を聞くだけでは本人の注目度や関心度などから、かなり不確かな点が多いので、睡眠時中のNPTの存在を臨床医学の立場からすると、正しく検査・診断する必要があります。そのためには、簡便法があります。図6のような Erectiometer(可動式ペニスベルト)を就寝前、ペニス根部に装着し、睡眠中にどの程度ペニスが膨張勃起するかをチェックすることができるのです。これは、一見面倒くさい、大変な検査のように、内科系の医師方や患者さんは思われるかもしれませんが、極めて簡単な検査で、極めて安易に誰でもすぐできる検査なのです。

図6 ペニスバンド

 臨床的には、まず早朝勃起自覚の確認である早朝勃起をしっかり確認チェックし、それが気付かれないというならば、必ず Erectiometer 検査をすべきです。中高年男性診療時チェックにおいて重要なポイントです。早朝勃起を気付いている症例でも、それがどの程度のものであるかも、この検査でわかるので、男性症例では必須の検査ではないでしょうか?

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