糖尿病 男の悩み ―糖尿病と性機能低下―

2007年07月01日

3. 糖尿病における性機能低下

f. 早朝勃起自覚の年齢推移

 早朝勃起自覚が、女性の月経チェックと同等な臨床的意義のあることが、一般臨床で無視されているのは、不思議でなりません。これは、我が国の医学が、男性を女性の同様な生き物と思わず、いかに動く中性ロボットと信じているかを如実に物語っていることと言ってよいでしょう。内科、ことに性機能低下問題の重要な糖尿病内科の診療で、診断時の早期勃起自覚有無を必ずチェックするようになるよう進歩することを期待したいところです。

 今の我が国では女性医学の重要性が騒がれ、女性外来が続々と開かれているのですが、男性問題は全く無視されています。男性専門外来はほとんどないし、糖尿病外来で“男の性”を単にエロチックなこととして無視されているのは、男性無視も甚だしいと言えます。生き物・男性を正しく評価し、診療すべき時が来ているのです。何となく口頭では質問し難いと思われる場合には、初めに紹介した図1の質問紙で一応チェックできるはずです。このステップが、多くの一般糖尿病臨床ですっかり忘れられているのが残念です。“男が男であるかのチェック”をぜひ念頭においた糖尿病担当医師になってください。そして異常の障害所見がわかればさらに詳しく聞くべきでしょう。

 図7は、上述の札幌医大関連施設症例における調査成績(T群は30〜40歳代症例が無いので除く)です。糖尿病症例、特に神経障害のある群では、30歳代からすでに早朝勃起自覚率の低下がみられます。これは臨床上、糖尿病症例で必ず問診チェックすべき点であり、決して忘るべからざる注意点です。「性問題は苦手」などというのは、今や“QOL医学”の時代の第一線の臨床医としては、“欠陥あり”とはっきり言わざるを得ません。

図7 札幌医大関連施設 糖尿病症例群の各年代における早朝勃起自覚低下現象

 しかも神経障害のない群にも、やはりかなり早くから早朝勃起自覚率低下が発現していることも、忘れてはならない臨床上重要な所見です。自覚していないが、隠れた合併症がひそかに起こりつつあることを示唆する所見と言えます。極めて重要な神経障害の内在を示す臨床所見なのです。

 勃起現象出現には、神経系血管系の関与が鍵ですが、勃起障害には micro-angiopathy(細小血管症)による血管障害、それにより発生する神経障害、さらには macro-angiopathy(大血管症)による血管障害が折り重なって発症機序となっています。極めて初期の障害軽度と考えられる micro-angiopathy の段階で、かなり早くから睡眠関連勃起障害、早朝勃起自覚不全が出てくると言ってよいでしょう。言うならば糖尿病各種合併症の中でかなり早期発症の症状として、早朝勃起消失は注目されてよい臨床所見と言えます。

 そのような血管障害は、精巣の男性ホルモン分泌能障害に結びついていることも少なくないのです。一般臨床では、糖尿病症例の血中遊離型テストステロン (free testosterone) 測定は行われていませんが、かなり低下例が多く、それがインスリン抵抗性増進やメタボリック症候群増悪に結びついており、血中テストステロン測定も男性症例では必須と言えます。この点も忘れないでおいてください。

g. “早朝勃起と睡眠関連勃起”は“男性症例の最重要検査項目”!!

 よく、自覚された合併症診断からその裏にある糖尿病診断がつくと言われます。40〜50歳代で早朝勃起自覚が無くなるということは、男性更年期障害や糖尿病などで早くから出現しやすいものとして、男性外来診断上重要な臨床所見と言えるので、ぜひ臨床医の方々に銘記していただきたいと願っています。

 前に説明した“男の人生の活力と性”の項で、詳しく解説してありますが、中高年男性にとって、性交渉の有無とは関係なく、早朝勃起の喪失の裏にさらに勃起障害のあることもあり、あまりはっきりと自覚はしていなくとも、自然と生き物・男としてのとしての自信・意気込みにかげりが出てくることは間違いない事実と言えます。

 そのような観点から、糖尿病の臨床診断上、早朝勃起の背景にある睡眠関連勃起を検討する前述の Electiometer(図6)の臨床応用を、内科系の医師にも、ぜひ行って欲しいものです。

 古い教科書には、この睡眠関連勃起の有無のチェックに、郵便切手法などが記載されていますが、それは使用上局所の痛みなどもあり、すでに昔物語となっております。今や Electiometer のような苦痛のない、しかも患者にも説得力のある検査法があり、これを実行していただきたいものです。生き物・男の生存の確認のためなのです。

[ DM-NET ]

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