糖尿病 男の悩み ―糖尿病と性機能低下―

2007年07月01日

3. 糖尿病における性機能低下

h. 勃起能の変動

 図8、図9は、前述の図4・5に示したデータと同じ症例群TおよびS群における勃起能得点分布です。TおよびS群とも低下率が高く、特に60歳以上ではその傾向は著しいことがわかります。そのうえ、神経障害のある群では、より顕著な低下があることがわかります。特に60歳以上では、S群で61%、T群で50%という成績で、臨床上かなり留意すべきでことです。

図8 糖尿病男性における「勃起」の得点推移― 札幌医大関連施設 症例―

図9 糖尿病男性における「勃起」の得点推移― 虎の門病院 症例―

 なお、この図8と9を比較して注目すべきことは、S群がT群に比し性機能低下率が高いことは、糖尿病の臨床管理・啓蒙指導の差と考えられ、臨床上極めて重要課題であることが明示されていると言えます。

 図8・9で示した勃起得点は図3のところで説明したように、質問の「陰茎硬度」と「勃起持続時間」の合計点ですので、その合計した2因子の和の得点間の関連性を詳しく分析してみると、両者がほぼ平行して下降していくことが示されています。そして神経障害のある症例にその低下が、どの年齢でも障害なしの症例より進行しており、ことに40歳代以上の群で著しいことが注目されるところです。糖尿病症例中年男性におけるかなり臨床的重要な問題点と言えるのではないでしょうか。血糖の管理さえできれば十分というのでは、あまりにも“男・人間”を無視した“ロボット人間視”した医療と考えております。

i. 性欲と勃起能の変動の関連性

 さらに、もう一つ興味深い分析資料があるのでお示しします。

 健常男性でもここのような性機能低下が、加齢とともに徐々に進むことは説明するまでもないところですが、その糖尿病による低下パターンが、健常群での加齢的変化パターンと異なるや否やが、注目されるところでしょう。

 その糖尿病による前出の性機能低下内容を、より詳しく具体的に分析してみるために、図11に「性欲と勃起の年齢群別の得点平均域」が、前出の図10に「陰茎硬度と勃起持続時間の年齢群別得点平均域」が、どのようなパターンで下降するのかをまとめてみました。

図10 「陰茎硬度」と「勃起持続時間」の関係

図11 「性欲」と「勃起」の得点分布

 図10、図11に示すように、性欲から勃起能まで男性機能全体として、健常男性での加齢性低下パターンとほとんど同じ関連性をもったパターンで低下しています。しかも得点域の広さもさして変わらぬまま、下降していることは特記すべきことです。その下降進行度のみが、健常群に比して、糖尿病症例が年齢の割りにかなり著しく進むことが、特に神経障害のある症例で、急速に進んでいることが示されています。この点が今までの内科的糖尿病臨床における“男を忘れた”対応の‘Black Box’であったと言えます。

j. 勃起能障害の頻度

 ところで、その勃起得点成績を、より具体的に検討するために、札幌医大関連施設症例S群について詳しく分析したものを、図12にまとめてみました。

図12 完全勃起障害例の年齢別頻度

 これも、性機能低下を論ずるのには年齢を抜きにして論ずべきでないことを示す資料とも言えますが、この図は、症例の性問題を論ずるために、かなりな参考になるはずのものです。健常成人と比較しながら、患者さんに性機能に関しての治療学的なアドバイス・啓蒙する際に、患者さんに提示しながら説明するのに役立つともの考えています。

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