糖尿病 男の悩み ―糖尿病と性機能低下―

2007年07月01日

3. 糖尿病における性機能低下

C. 性機能低下を反映しての性交頻度の低下

 そのような基本的な性機能障害を背景にして、糖尿病症例の性交頻度は健康男性に比してかなり低下してきます。図13に、札幌医大関連症例群と、虎の門病院症例での調査成績をまとめてみました。

図13 札幌医大関連施設と虎の門病院における
糖尿病症例と健康成人における性交頻度の比較

 ただ、我が国における性問題の大きな問題点は、女性パートナーの対応があります。性交頻度には、当然上述の本人の性機能のみでなく、パートナーの対応問題があります。往々にして、「病気に悪い」などとして、協力が得られない場合も少なくなく、問題はより複雑であると言えます。この点も中高年のカップルの問題点として浮かび上がっており、社会啓蒙が必要と考えます。

 筆者は、中高年者、ことにこのような疾患のある患者さんは、“生き物としての、生存の確認”としての、自信確立のための行為とさえ考えて、患者さんには、一度だけでもいいからできるという自信をもつために、積極的に行動すべしと薦めています。性的生活の活性のほか、いわゆるこの Revitalization(再活性化)で、男として、また人間として、自信が出、また生活上の活気が沸いてきてたという症例も少なくありません。

 それは糖尿病問題と別にして、そもそも中高年における性交渉は単に性欲の満足のためと言えない、生物学的意義があることが、あまり認知されてないことも、我が国の性認識の問題点とも言えます。そのため、それがまた糖尿病診療における、性問題無視の傾向を創っていると言ってよいのではないでしょうか?

 このような観点から性的活力が中年以上でもあることが、患者カップルに、ぜひ“生き物としての生存の確認”するためと考えて、一度でもいいから試してみてください、と話してみてください。実際的に患者さん方カップルの反応はよいと感じております。

 いずれにしても、糖尿病症例での性生活の低下はかなり高頻度にあり、ことに神経障害のある症例では著しいと言えます。また虎の門病院症例群より、札幌医大関連症例群の方が障害度が強いことも注目すべきことと感じています。やはり患者側の病気管理意識の徹底さや、担当医師の強力な指導方針も発症頻度に重要な影響があることが示されていると言えるでしょう。

 なお、この問題点に関して、今回の説明の中で、何回も述べてきておりますが、この問題にからんで、臨床上の大きな問題は、やはり一般的に中年になっている女性パートナーの性に対する無関心さ、さらには嫌悪感とさえ言える無理解さがあることです。性問題はQOLや男性の自信にかかわる問題と考えて、診療中の症例と話していると、かなりの男性からのそのような訴えが出てきております。これからの21世紀における中高年カップルのQ0L問題として、医学的だけでなく社会的にも注目すべき問題として検討すべき大きなテーマと言ってよいでしょう。

 ただ今日の男性糖尿病症例における性機能問題は、パートナーとの性交渉が持てるか持てないかという、他人との関係の問題ではなく、くどいようですが男性患者、個人、本人の“男性としての自信”に関する事象であることを、担当の医師も深刻しておく必要があると思っております。そのような立場から患者さんにも性機能関連の質問をすべきですし、また臨床対応していくことが、患者さんの男性としての基本的な自信につながる重要なQOL関連問題と言えます。

 よく患者方から、「性に関してはパートナーが無関心なので勃起などの問題は自分としてはあまり重要でない、どうでもよい」などとと、内心はともかく、答えることも、現状では少なくないこともあるでしょう。

 しかし、今回の説明で縷々述べてきた“男としての勃起能”の Revitalization は、くどいようですが、男の心、自信の Revitalization につながるものと信じております。しかも、その男の Revitalization に反応して女性側の意識も大きく変わってくるわけで、パートナーに積極的に対応できるようになる“女性の Renaissance(ルネッサンス) を創り出すことにも結びつくものと思います。そして図14のようなうれしい状況をもたらすことも、たびたび臨床的に経験していることです。担当医方の患者指導のうえで、このような広い意味での性問題に対する理解と意識革命が、今や強く求められております。

図14

[ DM-NET ]

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