開催報告

第41回 若い糖尿病患者さんとのグループミーティングのまとめ(2)

新潟大学医歯学総合病院 小児科 小川 洋平 先生
(運営メンバー/ファシリテーター)

きれいなお尻

 インスリンの補充法は、以前はペン型注射器を使った方法がほとんどでしたが、ここ最近はインスリンポンプを使っている(持続皮下インスリン注入療法)方も多くなってきました。この治療法は自身でインスリン注射のできない赤ちゃんや幼いお子さんにも使う頻度が増えてきています。実際、私の患者さんでも小学生未満のお子さんの多くは、この治療法を行っています。保育園・幼稚園のスタッフの方にこの治療法について丁寧に説明し密な情報交換をすることにより、園での生活も大きなトラブルなく過ごすことができます。例えば、基礎レートを昼食時や間食時に一時的に増量するプログラミングを行うことにより、ご家族が毎日お昼に園に行かずとも、ある程度の血糖コントロールを得ることができます。

 本日のグループミーティングでは、これから幼稚園への入園を控えた1型糖尿病の子どもをもつお母さんと同席でした。お子さんはインスリン注射で血糖コントロールを行っているとのことでした。その方は、同じ病気の同世代の子を持つママ友とも積極的に交流されているようでした。他の親御さんとも情報交換をしていますから、当然、インスリンポンプについては知っておられました。その上で、どうしてポンプではなく注射を選んでいるのか。その理由は、お尻、だそうです。

 そのお母さんが、顔なじみの同じ年頃の1型糖尿病の子ども何人かをお風呂に入れた時の話です。子どもたちはインスリンポンプ、加えて持続グルコース測定用センサーを使用していました。幼い子どもは体が小さいためポンプもセンサーもお尻に装着することが多いのですが、そのお母さんは子どもたちのお尻をみて、どの子もその肌が荒れていることに驚かれたとのことでした。ポンプもセンサーも何日か同じ場所に装着し続けますので、肌の弱い子どもは、テープかぶれや穿刺部(チューブやセンサーが入っていたところ)の傷が残りやすいのです。この出来事をきっかけとして、自分の子どもにはインスリンポンプを装着させず、インスリン注射にしようと決断されたとのことでした。

 私たち医療者は、自分たちが「よりよい」と思う治療法を患者さんやご家族に提案しがちです。しかし、受け手側である患者さんやご家族は、医療者の考える「よりよい」治療法が、必ずしも自分たちの「よりよい」治療法だとは思わないことがよくあります。患者さんやご家族は、私たち医療者が考え及ばない「価値観」や「こだわり」、また、医療者の知りえない「事情」を持たれているかもしれません。

 インフォームド・コンセントという言葉があります。「十分に知らされたうえでの同意」と訳されます。医療は「十分に患者さんにご理解いただいて、同意をいただき、実施する」ことが基本といえます。この根底には、医療者の良いと選択する考えと患者さんのそれが必ずしも一致しないことがある、という前提があるともいえます。

 私たちは、幅広く情報提供したうえで、患者さんやご家族の思いを十分にお聞きしその意思を尊重し、お互いの意見を素直に伝えあえる関係を作ること、が日々の診療で大切であると改めて気付かされました。
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