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DPPDiabetes Prevention Program
生活習慣への介入や薬剤の投与により糖尿病発症を予防または遅延させることができるかどうかを調べるために行なわれた研究です
解説:加藤 昌之  財団法人 国際協力医学研究振興財団 室長・主任研究員*
    *執筆当時(現在の所属:一般財団法人 東京社会保健協会 フィオーレ健診クリニック)
監修:野田 光彦  国立国際医療研究センター病院 糖尿病・代謝症候群診療部長*
    *執筆当時(現在の所属:埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科 教授)
2007年07月
研究目的
 血糖値が高いことや肥満、運動不足などが糖尿病発症の危険因子として知られているが、生活習慣の改善や薬剤(メトホルミン)の投与によりこれらの危険因子に介入することで糖尿病発症を予防または遅延させることができるかどうかを調べること。

研究の対象
 25歳以上でBMIが24以上、さらに空腹時血糖値が95〜125mg/dLで75gOGTT(経口糖負荷試験)の2時間値が140〜199mg/dLの人たち。

研究の方法
 対象者を生活習慣介入群、メトホルミン群、プラセボ群の3群にランダムに割り振り、各群での糖尿病の発症について比較しました。生活習慣介入群では最低でも7%の減量と週150分の運動を目標としました。

研究期間
 1996〜2001年。

結果の概要
 平均2.8年の追跡期間で糖尿病の発症率はプラセボ群で11.0%、メトホルミン群で7.8%、生活習慣介入群で4.8%でした。プラセボ群と比較すると生活習慣介入群では58%(95%信頼区間 48〜66%)、メトホルミン群では31%(同 17〜43%)糖尿病発症率が低下していました。また生活習慣介入とメトホルミンの比較では、生活習慣介入のほうが有意に効果がありました。

 この研究についてもう少し細かくみてみましょう。

研究の対象:25歳以上でBMIが24以上、さらに空腹時血糖値が95〜125mg/dLで75gOGTTの2時間値が140〜199mg/dLの人たちを対象に米国の27の施設で実施されました。

研究の方法:対象者を生活習慣介入群、メトホルミン群、プラセボ群の3群にランダムに割り振りました。
 生活習慣介入群は、低カロリー低脂肪の食事、週150分以上の中等度の強度の運動(速歩など)で最低でも7%減量しそれを維持することを目標としました。そのために16課からなるカリキュラムが作成され、最初の24週間はケースマネージャーと1対1での指導が行なわれ、その後も月1度の個別指導やグループ指導が行なわれました。
 メトホルミン(プラセボ)群は、メトホルミン850mg(プラセボ)を1日1回服用から開始し、消化器症状がなければ1カ月後に850mg(プラセボ)を1日2回服用に増量しました。また、パンフレットと年1度の個別指導により健康な生活習慣についての指導が行なわれました。

エンドポイント
 年1回のOGTTと半年に1回の空腹時血糖検査により糖尿病を判定しました。空腹時血糖値が126mg/dL以上か75gOGTTの2時間値が200mg/dL以上の場合は6週間以内に再検査を行ない、再検査でもこの基準を超えたときに糖尿病と判定しました。
 検査日の朝はメトホルミン(プラセボ)を服用しないこと以外には、検査により介入は中断しませんでした。

結果
 1996年から1999年の間に計3234人が割り付けられました(プラセボ群1082人、メトホルミン群1073人、生活習慣介入群1079人)。ベースラインでは糖尿病の危険因子などついてこの3群はほぼ同等でした(表1)。追跡期間は平均2.8年(1.8〜4.6年)で研究終了時に対象者の99.6%が生存していました。

表1 ベースラインでの対象者の背景

対象者の背景単位 全体
(N=3234)
 プラセボ群
(N=1082)
 メトホルミン群
(N=1073)
 生活習慣介入群
(N=1079)
性別人(%)
 男性1043(32.3)335(31.0)363(33.8)345(32.0)
女性2191(67.7)747(69.0)710(66.2)734(68.0)
人種・民族人(%)
 白人1768(54.7)586(54.2)602(56.1)580(53.8)
黒人645(19.9)220(20.3)221(20.6)204(18.9)
ヒスパニック508(15.7)168(15.5)162(15.1)178(16.5)
アメリカインディアン171(5.3)59(5.5)52(4.8)60(5.6)
アジア人142(4.4)49(4.5)36(3.4)57(5.3)
糖尿病の家族歴人(%)2243(69.4)758(70.1)733(68.3)752(69.8)
妊娠糖尿病の既往人(%)353(16.1)122(16.3)111(15.7)120(16.3)
年齢50.6±10.750.3±10.450.9±10.350.6±11.3
体重kg94.2±20.394.3±20.294.3±19.994.1±20.8
BMI34.0±6.734.2±6.733.9±6.633.9±6.8
ウェストcm105.1±14.5105.2±14.3104.9±14.4105.1±14.8
ウェスト-ヒップ比0.92±0.090.93±0.090.93±0.090.92±0.08
血糖値mg/dL
 空腹時106.5±8.3106.7±8.4106.5±8.5106.3±8.1
負荷後2時間値164.6±17.0164.5±17.1165.1±17.2164.4±16.8
グリコヘモグロビン5.91±0.505.91±0.505.91±0.505.91±0.51
余暇時間の運動MET-時/週16.3±25.817.0±29.016.4±23.915.5±22.1

* MET-時は各運動のMET値にその運動をした時間をかけて算出した。

 生活習慣介入群のうち、カリキュラム終了時(24週目)に7%以上の減量を達成していたのは半数で、研究終了時では38%でした。週150分以上の運動ができていたのは、カリキュラム終了時(24週目)で74%、研究終了時では58%でした。食事調査は1年後にだけ行なわれました。摂取エネルギーはプラセボ群で249±27kcal、メトホルミン群で296±23kcalの減少だったのに対して生活習慣介入群では450±26kcalの減少でした。ベースラインでは総カロリーの34.1%だった脂肪摂取もプラセボ群、メトホルミン群で0.8±0.2%の減少だったのに対して生活習慣介入群では6.6±0.2%の減少でした。
 メトホルミン群、プラセボ群に比べて、生活習慣介入群では体重がより減少し、運動量もより増加していました。平均の体重減少はプラセボ群で0.1kg、メトホルミン群で2.1kgだったのに対して生活習慣介入群では5.6kgでした(図1)

図1 体重、運動量の変化

糖尿病の発症  研究期間を通じての糖尿病の累積発症率はプラセボ群に比べて、メトホルミン群、生活習慣介入群とも低下していました。粗発症率はプラセボ群で11.0%、メトホルミン群で7.8%、生活習慣介入群で4.8%でした(図2)。プラセボ群と比較すると、生活習慣介入群では58%(95%信頼区間 48〜66%)、メトホルミン群では31%(同 17〜43%)糖尿病発症率が低下していました。生活習慣介入群ではメトホルミン群と比較しても39%(同 24〜51%)糖尿病発症率が低下していました。この結果はベースラインの因子で調整しても大きくは変わりませんでした。3年間の推定累積発症率はプラセボ群で28.9%、メトホルミン群で21.7%、生活習慣介入群で14.4%でした。これらをもとに計算すると、3年間で1人の糖尿病発症を予防するために介入が必要な人数は、生活習慣介入では6.9人、メトホルミンでは13.9人となりました。

図2 糖尿病の累積発症率

*発症率は3群間で有意に異なる(各群間の比較でp<0.001)

サブグループでの結果  サブグループでの解析結果を示したものが表2です。生活習慣介入、メトホルミンの糖尿病発症抑制効果は性別や人種・民族に関わらず認められました。生活習慣介入はすべてのサブグループで有効でしたが、ベースラインでのOGTT 2時間値が低い群でより効果がありました。メトホルミンは、BMIの大きい群、空腹時血糖値の高い群でより効果がありました。生活習慣介入とメトホルミンとの比較では、高齢者とBMIの低い群で生活習慣介入のほうが有効でした。

表2 糖尿病発症率



血糖値の変化  はじめの1年では、プラセボ群で空腹時血糖値が上昇したのに対して、生活習慣介入群とメトホルミン群では両群とも同じように低下しました。その後は3群ともほぼ同じように空腹時血糖値が上昇しました(図3上)。メトホルミン群での値が生活習慣介入群とプラセボ群の間であったこと以外はグリコヘモグロビン値も同じように変動しました(図3下)
 年ごとに、空腹時やOGTT 2時間での血糖値が正常な人の割合を示したのが図4です。空腹時血糖値に関しては生活習慣介入群とメトホルミン群の効果は同様でしたが、OGTT 2時間値については生活習慣介入のほうがより効果がありました。

図3 空腹時血糖値、グリコヘモグロビンの変化
 

図4 正常血糖値の人の割合

 

有害事象 消化器症状はメトホルミン群で多く、筋骨格系の症状(ほとんどが筋肉痛、関節痛、関節炎)は生活習慣介入群で多く発生しました(表3)。入院や死亡はどの群でも同様で、この研究のために死亡したと考えられるものはありませんでした。

表3 有害事象


 プラセボ群 メトホルミン群 生活習慣介入群
消化器症状(100人・年あたり)30.777.812.9
筋骨格系の症状(100人・年あたり)21.120.024.1
入院 
 1回以上入院した人の割合(%)16.115.915.6
入院受療率(100人・年あたり)7.98.48.0
入院期間(日数)333
死亡(100人・年あたり)0.160.200.10

* プラセボ群との比較で p<0.0167

研究結果がもたらしたもの
 本研究により、生活習慣改善、メトホルミンともに糖尿病発症を予防または遅延させる効果があることがわかりました。またその効果は性別、人種・民族によらずほぼ一定でした。
 本研究の結果を基にして糖尿病発症予防を行なうに当たっては、以下のように、監修者は若干の問題点もあると考えます。
 血糖値が高いことが糖尿病発症の危険因子であると考え、本研究ではメトホルミンで血糖値を下げることによる糖尿病発症予防効果を調べました*1。しかしメトホルミンのウォッシュアウト期間を設けられなかったため、本当に糖尿病発症が予防できたのか、それとも単に薬で血糖値が低下しているのを見ていただけなのかははっきりしません。メトホルミンは主に空腹時血糖値に効果がある薬であり、図4で1〜3年目では負荷後の血糖値が正常な人の割合がプラセボ群とメトホルミン群とであまり差がないことからも後者の可性もありうると思われます*2
 また、生活習慣改善によりプラセボと比較して58%、メトホルミンと比較しても39%の糖尿病発症率の低下が認められましたが、本研究での生活習慣改善プログラムは1対1での対面指導を中心とした相当に強力なものであり、多数の人を対象に行なうことは困難だと考えられます。
 しかし、生活習慣改善や薬物により糖尿病発症が抑えられたことは、今後さらに増え続けると予想されている糖尿病に対して一つの有効な対策を示すものです。また、生活習慣改善により糖尿病発症が予防でき、その効果は薬剤によるものよりも大きかったことは、糖尿病予防における生活習慣の重要性を示しています。

*1 薬物による糖尿病発症予防の大規模研究としては他にSTOP-NIDDM〔Lancet. 2002;359:2072-7〕というものがあります。こちらはアカルボースという主として食後血糖に効く薬剤による試験で、やはり糖尿病発症予防効果が認められました。
*2 DPP終了後に行われたウォッシュアウト試験〔Diabetes Care 2003;26:977-980〕では、単なる薬の効果(内服中止とともに消えてしまう効果)はメトホルミンの糖尿病予防効果のうちの26%と報告されています。


文献
Knowler WC, Barrett-Connor E, Fowler SE, Hamman RF, Lachin JM, Walker EA, Nathan DM; Diabetes Prevention Program Research Group.
Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin.
The New England Journal of Medicine. 2002;346:393-403.Abstract(PubMed)
 

参考サイト http://www.bsc.gwu.edu/dpp/index.htmlvdoc
生活習慣介入に使用したテキストなどの各種資料を見ることができます。


※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。

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