トップページ - 間食指導、私の場合 - 第1回患者さんはみな違う


 糖尿病患者さんの間食(ここでは嗜好品・おやつ)指導をどのように行っているか、毎月1人ずつ管理栄養士さんに現場の状況や指導のコツなどを語っていただきます。
 第1回目は、東京女子医科大学病院栄養管理部の柴崎千絵里さんにお話をうかがいました。
貴院は、どのような患者さんがいらっしゃいますか?
柴崎:大学病院ということもあり、多岐の疾病に渡っています。なかでも、血糖コントロールがうまくいっていない患者さんが、栄養指導に来てくださることが多いです。生活習慣や食事の是正が必要な方たちで、個々にいろいろと問題を持っていることが多いので、管理栄養士は、治療法やご本人の生活環境や性格など、多くの情報を総合的に検討しながらケースバイケースで患者さんにアドバイスする必要があります。
食事指導を行う上で、間食の問題が出てくることはありますか?
柴崎:もちろんです。担当する糖尿病患者さん(月に約 180名)の8割位は間食(おやつ)を食べているのが現実ですから、間食やおやつの指導・対策は欠かせません。初回栄養指導で間食対策をきちんと行えば、約半数は血糖コントロール改善につなげることができると実感しています。
おやつについて、基本的にはどうお考えですか?
柴崎:まず、ここで言う“間食”とは、甘いものを中心とするいわゆる“嗜好品”、“おやつ”と定義します。糖尿病患者さんにとって、おやつは基本的には食べないほうがよいのですが、一生避けていくわけにはいかないでしょうし、食べたいと思うものをすべて奪ってしまうのは、QOLとしても良くありません。指導者側がやめたほうが良いと思っても、最初から完全否定すると食事療法全体、さらに信頼関係を築く上でも、上手くいかなくなることがあります。

 私の相談の基本は、よく話をすることです。短い時間ではありますが、会話のキャッチボールから、上手に話を聞き取ることが栄養士の腕の見せどころだと考えています。話をしやすい雰囲気を作り、思っていること、悩み、不安など、正直に現状を語っていただける信頼関係を徐々に作ってゆくことは非常に重要です。私の所に来る患者さんは、食事の話だけでなく、生活全体、人生相談にまで、話が及ぶことも。おやつについても、‘今月はこんなに食べちゃった!’と、きちんと報告してくれますよ(笑)。となると1度の相談では食事療法のすべては改善できませんので定期的に数回おこなったり血糖コントロールが改善されても年に1−2回程度におやつも含めた食事内容の食事記録を拝見したり、おしゃべりしながらチェックすることもあります。

どのような指導方針で、間食指導を行っていますか?
柴崎:統一したものはありません。患者さんによって内容は皆違います。どんなことも、否定から入らず、患者さんが“こうしたい”という意志があれば、“ならどうしようか”、を一緒に考えるのが私のポリシーですね。おやつも、“禁止ありき”ではなく、“もし食べるなら、どうしても食べたいなら、こうする”という解決法を伝授することにしています。難しくて、面倒で、(欲望や喜びを否定するような)“できない条件”は掲げず、簡単で、憶えやすくて、すぐに取り組める「実行可能な約束ごと」を提案して、患者さんと一緒に取り組んでいきます。

 約束ごとは、たくさんあると守れなくなるので、まずはできそうなことを、期間を決めて1つ実行してもらいます。無期限だとゴールが見えないので、例えば、“次回来院日までの2ヵ月”など期間を決めれば、“頑張れるかも”と思っていただけます。そして、1つでも守れれば、体重減少など、何らかの実感を覚えますから、患者さんは食事療法に取り組む“自信”を持ってくる。そして、次のハードルをまた一緒に考えます。必要に応じて、軌道修正しながら、課題→実行→結果を、時間をかけて、それこそ一生、患者さんと助走していく気持ちで取り組んでいきます。

具体的には、どのように指導を行っていますか?
柴崎:治療方法によって、どのように摂るか、という基本があります。例えば、インスリン療法で1日朝夕2回法の場合は、食べるなら午前中に食べて、とか、強化療法なら、食べるならインスリンを追加打ちして、とか(回数や使っているインスリンの種類などによって、アドバイスは異なる)。経口糖尿病薬を服用中の患者さんは、薬が効いているうちに食べる(薬の種類や服用時間などによって異なる)、食事療法のみの方は、食べる内容(低カロリーなもの等)で調節する、など。こういったことは医師の指導の下で、検討が行われます。ただし、HbA1cが8%以上の方は、改善傾向が見えるまで1〜3ヵ月間は、おやつ禁止ときっぱり言わせてもらいますよ(苦笑)。
食べるタイミングが重要のようですね。
柴崎:もちろん、食べる種類や量も考慮する必要がありますが、タイミングを工夫して、さらにその負荷を和らげるよう努力したほうが良いと思います。私が指導する際にポイントにしているのは、“もし食べるなら、活動や運動の前に食べて”という工夫です。ただし、食べた分のエネルギーを、すべて運動で消費するのは難しいのですが、せめて、少しでも、そういう意識を持ってもらいたいと思うのです。

おやつを食べるタイミングの例
  • 食事とは別の時間に間食として食べるおやつ

    1. 1型糖尿病の場合:
    食べるおやつに合わせてインスリンを追加する。但し肥満を伴う場合にはカロリーコントロールは行うべき。

    2. 薬物療法、食事療法の場合:

    • おやつを食べた後に、買い物にでかけるなど運動を行う。→出かけた後ではなく、出かける前に食べる習慣
    • 朝食から昼食に比べて、昼食から夕食の時間は長いもの。夕食時間前ともなると、朝食時もしくは昼食時に服薬した経口糖尿病薬の作用も薄れてきているので、夕食直前の間食は避けたい。結果的におやつを食べてしまうのであれば、ギリギリまで我慢して夕食前に食べるよりも、午後の運動前、夕食の準備前、仕事が終わり会社を出る時など、食後に少しでも動けるようなタイミングで食べる。
    • 夜のおやつはカロリー消費がされにくいので、できれば午前中のおやつの方が日常の動きでもカロリー消費が期待できるため、おやつは午後より午前中が理想。

  • 食後に食べるおやつ
    肥満を伴うインスリン療法、薬物療法、食事慮法の場合:
    食品交換表で言う表1・3・5の、おやつ分相当の表1・5に多く含まれる炭水化物・脂質)の摂取量の単位(カロリー)は減らしておく。 できれば野菜、きのこ、海藻などをしっかりと食べ、少しでも食後高血糖にならないような努力を。
  • 好きな時間帯に好きなだけ食べたい
    “ストレス解消に!”こんな思いにかられるときもあると思います。血糖コントロールが比較的良好な場合には、月に1回ぐらいであれば、息抜きのおやつタイムがあっても良いのでは。但し、せめてものフォローとして食後にカロリーのない水、お茶などはいつもより多めに摂るようにする。
いろいろな考え方があるんですね。
柴崎:空腹時に分食の代わりに食べるよりも、食後のほうが高血糖になりにくい場合もあります。食べる量によっては主食を減らして野菜を増やすなどの工夫を行ってもらいます。専業主婦、就業リタイア後の方、仕事を持つ方なら休日などの日中に時間ができた場合、なんとなく際限なく食べてしまうこともありますよね。昼食の代わりにおやつを食べている方は、けっこう多いんです。一人分の昼食を毎日料理するのが億劫になってしまう気持ちもわかります。その患者さんの、生活スタイルや家族構成、性格など、様々なものが影響して食生活に表れます。だから、“聞き取り”が大変重要なのです。
いろいろな患者さんがいらっしゃるんでしょうね。
柴崎:本当に、十人十色です。性差や年齢、性格、育ってきた環境など千差万別ですから、一概にこんな傾向が多いと言えません。一例を下記に示しますが、おやつをどうするか?ひとつで、食事療法全体、ひいては、生活全体の見直しにまで及んできます。逆に、おやつ対策を見逃すと、全体が上手くいかなくなる。上手くいけば、血糖コントロールも改善し、ストレスも少し解消して、生活がより楽しくなってくると思うのです。

さまざまな患者さんの傾向(一部)
  • 一定期間は頑張れるけれど、その後、反動で食べてしまう。
  • 家族やまわりの環境のせいにして(言い訳が多く)、実行に結びつかない。
  • 食事記録などのデータ分析は熱心だけど、実を結ばない。(分析して満足する)
  • 管理栄養士の話は熱心に聞くが、実行、努力は苦手。
  • ほめられると頑張れる。
  • 細かいことを守るより、すべて禁止にしたほうが、うまくいく。
  • 食べることが、なによりの生き甲斐。
よい症例はありますか?
柴崎:間食対策を行って血糖コントロールが改善された患者さんの例をひとつ、ご紹介します。おやつの内容を変えるなどしてダイエットを始めた患者さんです。
42歳・女性。2002年、近所の開業医で HbA1c7.2%で糖尿病と診断され治療。
 出産などのストレスから間食が増え、2005年より女子医大に転院した時は、身長 150cm、体重99.5kg、BMI44.2で、高度肥満の状態でした。
 まずは減量が必要なので、食事を減らさない代わりにおやつを減らしましょうと説得。でも、食事以外に間食をしてはいけないのは辛いと仰るので、甘い菓子類は、HbA1cが6%台になるまではやめて、その代わりに分食として食品交換表の表1(炭水化物)の食品を紹介。芋類、おにぎりのみで飽きがこないように、たまには、お煎餅も食べても良いこととしました。
 また、それまでは1日に2千歩程度しかなかった歩数を、なるべく歩くよう(とくに食後)促し、現在は1日6〜8千歩になりました。
 2年間かけて10kg減量に成功。その後さらに2年間で9kg減量、現在 HbA1c5.7%、体重80kgで、ゆっくりではありますがリバウンドをすることなくダイエットを継続中です。

 ポイントは、おやつを甘いお菓子から、ふかし芋、おにぎり、お煎餅に変えたこと。最近でも甘いお菓子を食べることはあっても週に1回程度で、お菓子をだらだらと食べ続けることはなくなりました。

おやつの内容も重要なのですね。おやつを選ぶ時のポイントはありますか?
柴崎:そうですね。まず、砂糖たっぷりの清涼飲料水はやめていただきます。また、アイスクリームなどの氷菓は焼き菓子に比べて大量の砂糖が入っていることが多いので、選ぶ際にはカロリーチェックをしてください。また、おやつは、洋菓子よりも和菓子の方がよいというイメージもあると思いますが、一概にそうでもないので注意が必要です。

 どんなおやつでも、可能であれば、カロリーをチェックすること。最近では、カロリーゼロの飲み物や、食物繊維などを多く含んだもの、低カロリーに調整したおやつも多いですから、そういうものを活用することも一考だと思います。そして味も見た目の量も同じようなものであれば少しでもカロリーの低いものを選ぶ。小袋のものにする。個別包装のものにして一度に食べ過ぎてしまうのを防止する。以上は月一度程度のお楽しみで食べるおやつとはちがい、日常的にちょっとだけ食べたいおやつのときの選び方のコツになります。
非常に実践的なお話を伺うことができました。有難うございました!

<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. 患者さんは十人十色。1人として同じ食事療法はない。
  2. 食べながらでも、やせるような打開策(妥協策)を一緒に考える。
  3. 糖尿病は付き合っていく病気。患者さんとは一生のお付き合いをするつもりで。

【 Profile 】
柴崎千絵里(しばさき ちえり)さん
平成3年:佐伯栄養専門学校卒業
平成7年:女子栄養大学卒業
平成8年:東京女子医科大学大学院看護学研究科
      食看護学専攻 博士前期課程修了
平成13年:東京女子医科大学病院 栄養課(現栄養管理部)
平成15年:同・総合外来センター医療サービス相談室、
       栄養食事指導担当
平成17年:東京女子医科大学附属女性生涯健康センター、
       栄養食事指導兼務

管理栄養士
日本病態栄養学会認定病態栄養専門師
日本糖尿病療養指導士

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