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2016年06月03日

「サルコペニア」「骨粗鬆症」に食事と運動で対策 筋肉と骨を鍛えよう

第59回日本糖尿病学会年次学術集会
 「サルコペニア肥満」は高齢者に多い病態だが、早ければ40歳代でも起きるという。若いうちから筋肉量を落とさないように注意することが大切だ。また、糖尿病患者は骨質が劣化しやすく、「骨粗鬆症」の発症リスクも高くなる。
 5月に京都で開催された日本糖尿病学会の第59回年次学術集会では、糖尿病患者の「サルコペニア」と「骨粗鬆症」対策の必要性が話し合われた。
高齢の糖尿病患者の3割がサルコペニア
 「最近、階段を上がるのがつらくなってきた、ついエレベーターを使っしまう」という経験はないだろうか。そうした心配に運動不足が重なる場合は、「サルコペニア」のリスクが高いので注意が必要だ。

 インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性も「サルコペニア肥満」の原因になる。2型糖尿病の人では、内臓や筋肉に脂肪が蓄積すると、インスリン抵抗性が引き起こされる。筋肉でのインスリン抵抗性は筋力低下をもたらす。インスリン抵抗性のある人は握力が低下するという報告がある。また、高齢の糖尿病患者では、下肢の筋力が低下し、歩行が困難になることが知られている。

 「サルコペニア」とは、加齢とともに筋肉の量が減少し、機能が低下した状態。筋肉量が一定以下まで低下すると、食事や排泄、移動、入浴などの日常生活動作(ADL)が制限されるようになり、寝たきりや転倒骨折などを起こすリスクが非常に高まる。

 一方、肥満は糖尿病や高血圧、脂質異常症などを悪化させる原因となる。実は近年、サルコペニア(筋肉の減少)と、肥満(体脂肪の増加)が重なって起きる「サルコペニア肥満」が問題になっている。

 サルコペニア肥満は年齢が上がるほど増えるが、早い人は40歳代で発症し、70歳代では通常の肥満より増える傾向がある。

 サルコペニアは高齢者の10%以上で認められるが、糖尿病患者ではその割合は3倍に上昇するという調査報告がある。さらに、1割はサルコペニア肥満であり、日常生活動作(ADL)の低下や、死亡リスクの上昇につながると懸念されている。サルコペニア肥満の人はそうでない人に比べ、介護が必要となる割合が10倍に上昇するという。
サルコペニア肥満は、通常の肥満より怖い
 高齢の糖尿病患者がレジスタンス運動を行うと、インスリン抵抗性が改善し、除脂肪量が増加し筋肉が改善し、日常生活動作(ADL)が向上する。

 運動をする習慣がないと、筋肉は20〜30歳代から少しずつ減っていく。筋肉はエネルギーを多く使うところなので、筋肉が減れば、使われずに余ったエネルギーは、脂肪に変えられて体に溜まりやすくなる。

 筋肉量が少ないため、外見的にはさほど太って見えないこともある。しかし、MRIの断層写真で太ももを見ると、サルコペニア肥満の人は筋肉が少なく、脂肪が非常に多いことが分かる。

 体形や体重が若いころとあまり変わらない人でも例外ではない。BMI(体格指数)が標準であっても、筋肉だった部分が脂肪に置き換わっている人が少なくない。

 ただでさえ加齢とともに筋肉が減りやすいうえに、体を動かさない運動不足の生活が続くと、サルコペニアが進行しやすくなる。そうなると動くのがますますおっくうになり、脂肪が溜まって「サルコペニア肥満」が進行するという悪循環に陥ってしまう。
もっとも効果的なサルコペニア対策は運動
 日常生活で取り組めるサルコペニア対策として、運動はもっとも手軽で効果的な方法となる。運動により必要な筋肉を取り戻し、余分な脂肪を落とすことができる。

 レジスタンス運動と有酸素運動を組み合わせることで、サルコペニアによる筋肉の委縮の程度をおおむね3分の1に抑えることができることを示した研究が発表されている。

 運動でサルコペニアに対策するために、筋肉に負荷をかけて行う「レジスタンス運動」が効果的だ。筋肉を鍛えると、何歳になってからでも強く大きく発達させることができる。筋肉が増えると基礎代謝もアップするので、血糖コントロールも改善する。

 レジスタンス運動とは、スクワットや腹筋運動など、筋肉に負荷をかけた動作を繰り返し行う運動のことだが、高齢者が運動するときは、負荷量は若年者ほど高くなくてもよいと考えられている。

 特にふくらはぎと太ももの筋肉は、使わないと特に衰えやすい。立ち上がる動作で一番重要なのが、太ももの筋肉、そして立ち上がった時にバランスを維持するために働くのがふくらはぎの筋肉だ。

 全身の7割の筋肉は下半身にあるので、筋肉を効率よく増やすには、下半身の筋肉を刺激することがポイント。筋肉は激しく動かすより、ゆっくりしっかり動かした方が成長ホルモンを多く出て、筋肉を増やして代謝を上げられる。

 ウォーキングを中心とした有酸素性運動やスクワットなどレジスタンス運動で、インスリン抵抗性を取り除けるのに加え、筋肉の量を増やし、筋力を向上する効果を得られる。スクワットはやり方によって負荷を変えられるので、体力に合わせて無理のない運動を続けられる。

 下記は日本整形外科学会が推奨するロコモ対策の「片脚立ち」「スクワット」――
 高齢者の健康管理を促進するために「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」「フレイル」という新たな概念が提唱されている。
良質のタンパク質をとり筋肉をつくる
 筋肉を育て、脂肪を減らすためには、食生活の工夫が大切だ。カロリーは控えめに、栄養をバランス良く摂ることが基本だが、筋肉をつくるために大切な良質のタンパク質を積極的にとる必要がある。

 体重をコントロールするための食事制限中心のダイエットは、体脂肪だけでなく筋肉量も減らしてしまうおそれがあるので、栄養バランスに注意することが必要だ。

 特に動物性タンパク質に含まれるアミノ酸は筋肉の材料になり、高齢になると摂取量が少なくなる傾向がある。運動の直後にタンパク質を摂取すると、サルコペニア肥満の予防効果はいっそう高まるという研究報告がある。

 また、ビタミンDによる筋力増加効果も報告されている。筋力を増強させるためだけでなく、骨を強くするためにも、ビタミンDは効果的だ。ビタミンDは魚類などに多く含まれる。

 ビタミンDは日光浴により活性化される。家に閉じこもらずに、日光を浴びながらウォーキングをすると運動不足の解消にもなる。
糖尿病の人は骨粗鬆症にも注意
 糖尿病の人は骨粗鬆症にもなりやすいことが分かっている。デンマークで行われた研究によると、糖尿病でない人と比べ、1型糖尿病患者は6〜7倍、2型糖尿病患者は1.5〜2倍、骨折リスクが高いという。

 原因のひとつは、インスリンの分泌低下や作用低下だ。インスリンには血糖値を下げる働きのほかに、骨芽細胞に作用して骨の形成を促す働きがある。

 1型糖尿病はインスリンがほとんど分泌されないため、骨形成が低下して骨粗鬆症になりやすい。一方、2型糖尿病ではインスリンを分泌する能力は保たれており骨量は減少しないが、終末糖化産物(AGE)などの悪影響を及ぼす要因が増え骨の質が悪化し、骨粗鬆症になりやすい。

 血糖値が高いほど、体の中で糖とタンパク質が結びついて多くの終末糖化産物(AGE)が発生する。そして高血糖にさらされる時間が5年、10年と長くなればなるほど体内でAGEは溜まり続ける。良好な血糖コントロールを続けることで、AGEがつくられるのを防ぎ、骨を丈夫に保てる。

 日本では、骨粗鬆症全体での薬物治療率が20〜30%と低いことが問題視されている。骨粗鬆症自体は、症状がない病気だが、骨折を予防するためには、薬の服用をきちんと継続することが重要だ。

 2型糖尿病治療薬として広く用いられているチアゾリジン系薬剤は、インスリン抵抗性を改善する作用をもつが、骨形成を抑制する副作用があり、特に女性の骨折の頻度を高めるおそれがあると報告されている。

 一方で、インスリン抵抗性を改善する作用のあるメトホルミンは、骨を作る骨芽細胞に作用して骨形成を促進する可能性が指摘されている。DPP-4阻害薬にも骨折のリスクを低下する作用があるという知見が発表されている。
骨粗鬆症予防のための運動と食事
 運動には血糖値を下げるだけでなく、骨粗鬆症を予防し、転倒を防ぐ重要な役割がある。筋肉は転倒したときに骨が折れないよう保護するが、運動不足は筋肉の低下を引き起こし、転倒リスクを高める。

 ウォーキングや階段昇降を続ければ、筋肉を鍛えられる。主治医や理学療法士に相談して、無理のない運動を継続して行おう。

 また、ビタミンDは日光が皮膚に当たることで活性化する。手や足に1日30分から1時間程度、日光を浴びるようにすると効果的だ。

 カルシウムは乳製品、小魚、大豆製品、青菜などに豊富に含まれる。不足しやすいので、朝食に必ず牛乳やヨーグルトなどの乳製品を加えれば、必要な量のカルシウムを摂取できる。

 カルシウムの吸収を助けるビタミンDや骨の形成を促すビタミンKも重要だ。ビタミンDは魚介類やきのこなどから摂れる。ビタミンKは青菜や納豆などに多く含まれる。

 エネルギーは少ないほどよいと誤解して食事を極端に減らす人がいるが、それでは必要な栄養素が不足してしまう。1日1,600kcalと指示されたなら、それ以下でなく1,600kcalを摂る必要がある。

第59回日本糖尿病学会年次学術集会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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