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2020年09月03日

果物は糖尿病の人にとって敵か味方か? 果物で糖尿病リスクを下げる3つのポイント

 野菜を意識して食べている人は多いが、果物についてはとくに気にしていないという人が多いのではないだろうか?
 果物には糖質が含まれており、「太りそう」というイメージがあるため、敬遠している人もいるかもしれない。
 だが、果物には野菜とはまた別の健康効果があることが、最近の研究で分かってきた。果物には大切な栄養素が豊富に含まれている。
日本人の60%以上で果物が不足
 果物や緑黄色野菜には、ビタミンA(βカロテン)やビタミンC、カリウムなどのミネラル、ポリフェノールが多く含まれる。これらには抗酸化作用があり、動脈硬化を予防する効果があると考えられている。

 果物や緑黄色野菜に含まれるβカロテンやリコピン、ポリフェノールの一種であるフラボノイド、ブルーベリーなどに含まれるアントシアニン、温州ミカンに含まれるβクリプトキサンチン、大豆に含まれるイソフラボン、レシチン、サポニンなどの栄養素の健康効果は注目されている。

 厚生労働省・農林水産省が作成した「食事バランスガイド」では、1日に野菜を350g、果物を200g摂取することが目標とされている。しかし、日本人は実際にはこれより少ない量しか食べていない。

 「健康日本21(第2次)」では、果物の摂取量が1日100g未満の人を30%に減らすことを目標としているが、現状は日本人の60%以上で果物が不足しており、とくに20~40代で摂取量が少ない。
果物をよく食べている日本人は虚血性心疾患のリスクが低い
 フラボノイドの豊富な果物をよく食べている人は、心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが低いことが、45~75歳の日本人8万7,177人を平均13.2年間追跡した大規模調査で明らかになった。

 「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。

 研究では、フラボノイドの量が100g当たり50mg以上含まれる果物を、フラボノイドの豊富な果物とした。リンゴ、ナシ、ミカンなどの柑橘類、イチゴ、ブドウなどが、フラボノイドの豊富な果物だ。

 研究グループは、そうした果物の摂取量によって、多い人から少ない人まで5つのグループに分けて、その後の心筋梗塞などの虚血性心疾患の発症リスクを調べた。期間中に1,156人が虚血性心疾患を発症した。
果物のフラボノイドやビタミンCに抗酸化作用が
 解析した結果、フラボノイドの豊富な果物をもっとも多く食べていたグループでは、虚血心疾患の発症リスクが0.78倍に低下し、摂取量が多いほど発症リスクが低くなることが分かった。とくに柑橘類をよく食べている人は、虚血性心疾患のリスクが低かった。

 心筋梗塞などの虚血性心疾患の、主な原因となるのは動脈硬化だ。「果物に含まれるフラボノイドやビタミンCによる抗酸化作用が、動脈硬化を抑制し、炎症を抑えることなどにより、虚血性心疾患の発症リスクを予防したことが考えられます」と、研究グループは述べている。

フラボノイドの豊富な果物の摂取量と虚血性心疾患発症との関連
出典:国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ、2020年
果物を食べている人は糖尿病リスクが低い
 ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の研究では、果物をよく食べる人は、2型糖尿病のリスクが低いことが明らかになっている。

 研究グループは、1984~2008年に18万7,382人の米国成人のデータを調べた。登録時に参加者は糖尿病、心血管疾患、がんを発症していなかった。期間中に1万2,198人(6.5%)が糖尿病を発症した。

 解析したところ、果物を毎週2サービング以上摂取していた人は、月に1サービング未満しか摂取していない人に比べ、2型糖尿病のリスクが23%低下することが明らかになった。

 「特定の果物が糖尿病リスクを下げるのに有益である可能性が示されました。ただし、果物であればどんな食べ方をしても良いというわけではありません」と、HSPH栄養学部のチー サン氏は言う。
果物で糖尿病リスクを下げるための3つのポイント
 果物を食べて糖尿病リスクを下げるために、HSPHでは以下のことをポイントとして指摘している。

(1) ホールフードを食べること

 ホールフードとは、「食べ物(Food)」を「まるごと(Whole)」食べるということ。たとえばリンゴであれば、実だけでなく皮まで食べる。
 野菜や果物の皮や切れ端は、何気なく捨ててしまいがちだが、実はビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素が多く含まれている。
 野菜や果物の皮まで食べることで、「グリセミック指数」(GI)も下げられる。GIは、ブドウ糖を摂取した後の血糖上昇率を100として、それを基準に、同量摂取したときの食品ごとの血糖上昇率をパーセントで表した指標。GI値が低いほど食後の血糖値を上げにくくなると考えられている。

(2) 糖質の多い果物は避ける

 調査では、糖尿病リスクをとくに下げやすいのは、ブルーベリー、ブドウ、リンゴなどの果物をまるごと食べた場合であることが分かった。これらの果物は、含まれている炭水化物や単糖類の量が比較的少なく、GI値も低い。

(3) フルーツジュースは飲まない

 果物や野菜のジュースは健康的なイメージがあるが、実は炭水化物(糖質)が多く含まれているものがある。
 たとえば、オレンジジュース(濃縮還元ジュース)であると、100g当たりのカロリーは42kcal、糖質は10.7g、うち吸収の速い単糖が7.9含まれる。200mLのパックであれば糖質を20g以上摂取する計算になる。
 調査でも、フルーツジュースを毎日1サービング以上の摂取していた人は、2型糖尿病のリスクが21%上昇した。さらに、週に3サービング飲んでいたフルーツジュースを、果物をまるごと食べるのに変えると、糖尿病リスクは7%減少することも分かった。

 先述した日本人を対象とした「JPHC研究」の過去の報告でも、果物を多べても2型糖尿病のリスクは上昇しないことが示されている。

 野菜と果物を十分に食べている人では2型糖尿病の発症リスクが低下した。「野菜と果物に含まれる抗酸化ビタミンやカロテノイドなどが、血糖を下げるインスリンの感受性を高めている可能性がある」としている。
健康に良いとはいっても、果物の食べ過ぎにはやはり注意が必要
 一方、果物には糖質がそこそこ含まれている。中ぐらいの温州ミカン(120g)には炭水化物が14.3g含まれていて、カロリーは54kcal。4個を食べると、コンビニのおにぎり1個のカロリーにほぼ等しい。

 果物にはブドウ糖・果糖・ショ糖という糖質が含まれている。糖質の組成は果物の種類によって異なるが、糖質は原則として「1g=4kcal」のエネルギー源になる。

 とくに最近の果物は甘いものが多い。果物に含まれる果糖は肝臓での糖新生によりブドウ糖に変換される。そのため、食べ過ぎると糖代謝の悪化や中性脂肪の増加につながるおそれもある。やはり食べ過ぎには注意が必要だ。

 シロップ漬けになっている缶詰の果物やドライフルーツはとくに糖質が多いので、なるべく控えた方が良い。フルーツジュースも果糖などを加えて甘くしたものがある。

 果物は、健康や美容にも役立つだけでなく、糖尿病のリスクを減らし、がんや動脈硬化なども抑制してくれる強い味方だ。過度に敬遠することなく、上手に食事に取り入れたい。気になる人は、果物を1日にどれだけ食べると適量かを、かかりつけの医師や管理栄養士に聞いておくと安心できる。

多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ
Consumption of flavonoid-rich fruits and risk of CHD: a prospective cohort study(British Journal of Nutrition 2020年6月9日)
Eating whole fruits linked to lower risk of type 2 diabetes(ハーバード公衆衛生大学院 2013年8月29日)
Fruit consumption and risk of type 2 diabetes: results from three prospective longitudinal cohort studies(British Medical Journal 2013年8月29日)
健康日本21(第二次)(国立健康・栄養研究所)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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