HealthDay News

2022年07月12日

ウォーキング中に心停止に陥った男性をサイクリストがCPRで救命――AHAニュース

 昨年8月の土曜日、米国メリーランド州に住む、元ユースフットボールのコーチで52歳の男性、Christopher Holtonさんは、樹木が生い茂る小道を早足で歩いていた。彼は健康診断後に医師から勧められて、毎日のようにトレイルウォークを続けていた。ふだんは友人と一緒に歩くのだが、その日はたまたま1人だった。

 そこは、散歩をする人やサイクリングを楽しむ人、ランナーなどに人気のコースだった。Bryan Buckleyさんと友人のIsang Isangさんもその日、その道をサイクリングしていた。すると、1人の男性がよろめきながら倒れこむ姿が目に入った。Holtonさんだった。

 「われわれはスピードを上げ、男性のもとにたどり着くと自転車から飛び降りた」と語るのは、公衆衛生学の研究者で心肺蘇生(CPR)のトレーニングを受けていたBuckleyさんだ。倒れていた男性は唇から血を流し、手先が震えていた。BuckleyさんはIsangさんに911番通報を指示する一方で、男性の手首で脈拍を把握し続けた。

 救急車を待つ間、男性の呼吸が荒くなり、あたかも最後の瞬間を迎えるかのように思えた。Buckleyさんは男性の脈拍が感知できなくなりそうになった時、スマホのストップウォッチ機能をスタートさせ、胸骨圧迫を開始した。

 やがて周囲に人だかりができた。その中にCPRを知っているという女性がいたため、Buckleyさんはその女性に対してCPRの方法をほかの人々へ教えるように指示。Buckleyさんが疲れると、やり方を習った人のうちの1人に交替し、救急車が到着するまでの20分間、代わるがわるCPRを続けた。

 「救急車の到着は安堵の瞬間だった。私は『生き延びろ!』と、名前も知らない男性に向かって心の中で叫んだ」とBuckleyさんは語る。救急隊は自動体外式除細動器(AED)を作動させた後、病院へと走り去った。その男性の心臓の鼓動が再開したのかどうか、Buckleyさんたちには分からなかった。二人は黙ったまま自転車を漕ぎ始めた。Buckleyさんには、男性が生き延びることができたと思えず、その夜、妻と母親に「見知らぬ人が亡くなる瞬間を目の当たりにした」と話した。「本当に悲しい夜だった」。

 翌週になり、救急隊員からBuckleyさんのもとに電話がかかってきた。あの日の男性は生きていた。「私は心底うれしかった」と彼は言う。

 一方、Holtonさんはその頃まだ入院中で、自分に何が起きたのかを頭の中で整理しようとしていた。覚えていたのは家を出て歩き始めたことまでで、目が覚めたのはICUのベッドの中だった。Holtonさんの冠動脈に閉塞部位はなく、心停止の原因は不明だった。2週間の入院中に植込み型除細動器が留置され、その後さらに2週間、別の病院で経過が観察された。「あの日、自分に何が起こったのか、いまだに思い出せない。しかしBuckleyさんとIsangさんには本当に、本当に感謝している。私にはまだたくさんの享受すべき人生があるように感じた」。

 Holtonさんは10月の第1週に帰宅。今年1月、救急隊の計らいで、HoltonさんとBuckleyさんのビデオ通話の機会が設けられた。その時の感想をBuckleyさんは、「素晴らしい体験だった。人生で安心して冗談を言い合える人はあまり多くないものだが、Holtonさんはその1人だ。私たちはすぐに絆を深めた。かけがえのない時間だった」と語る。その後、2月にはBuckleyさんとIsangさんがボランティア救助隊救命賞を受賞したのを機に、直接会うことができた。

 現在、Holtonさんは以前のトレイルウォークを再開している。アクティブなライフスタイルのおかげで、回復が速いのではないかと感じている。もちろん心臓専門医の受診を続けているし、Buckleyさん、Isangさんとの音信も欠かさない。

 Buckleyさんは、米国心臓協会(AHA)の地域担当理事でもある。あの日以来、「誰もがCPRを学ぶべきだ」と人々に言い、トレーニング受講を勧めている。人生を新たな視点で見るようにもなった。「何かを始めるのをためらったり恐れたりすることがあったが、人生は短いということに気付いた。また、Holtonさんの救命にかかわった経験から、ある瞬間に人々が団結し、素晴らしいパワーを発揮するということを学んだ。あの時の体験は、多くの点でチームスポーツと同じだった」。

[American Heart Association News 2022年7月12日]

American Heart Association News covers heart and brain health. Not all views expressed in this story reflect the official position of the American Heart Association. Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
Photo Credit: トレイルウォーク中に心停止に陥ったChristopher Holtonさん(中央)と、それを救ったBryan Buckleyさん(左)、Isang Isangさん(右)。(Bryan Buckleyさん提供)
[ mhlab ]

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