HealthDay News

2022年10月26日

3回の脳卒中体験をユーモアと弱さを織り交ぜて表現する舞台俳優――AHAニュース

 米国ロサンゼルスで活動している、ほかの多くの舞台俳優と同じように、Michael Shuttさんにも副業があった。比較的自由な昼間はレストランで働き安定収入を得ながら、夜は劇団で演技、監督、制作、脚本などを手掛けていた。

 ある日、レストランで働いていた時、体に電気が流れて引き裂かれるように感じ、左手が動かなくなった。職場の同僚はShuttさんの様子が変だとは感じたが、そのまま働き続けていた。その後も左手にしびれが残り、頭がぼんやりしていたものの、翌日も出勤し、さらに次の日は得意のキックボールの試合に参加した。ただし、途中でリタイアした。

 次の日曜日の夕方、レストランでワインボトルの開け方が分からなくなった。一夜明けた月曜の朝、ようやく彼は受診。危険なレベルの高血圧が認められ、救急治療室に送られた。MRI検査により、虚血性脳卒中と診断された。虚血性脳卒中は、脳卒中の中で最も一般的なタイプであり、脳内の血管が塞がれて発症する。Shuttさんはその時48歳だったが、もう何年も医者にかかっていなかった。また、脳卒中の主要な原因である高血圧に気付いていなかった。入院中に降圧薬が処方され、幸いほとんど後遺症もなく退院した。退院時に看護師から、「Time is brain(時は脳なり)。もし再び脳卒中が起きたら、直ちに119番通報するように」と言われた。

 退院後、Shuttさんは食事を改善し運動も始め、数カ月で20ポンド(約9kg)減量した。しかしそれからしばらくして、ジムでトレーニングを終え廊下を歩いている時、視界がぐるぐる回り始めた。彼は手すりをたどって外に出て、自分の車のライトとクラクションを作動させてそれを頼りになんとか車にたどり着き、キーを差し込んだ。その時、看護師の「Time is brain」という言葉を思い出し、運転すべきではなく、すぐに119番すべきだと悟った。

 病院に搬送されたShuttさんは、血栓溶解薬の投与によりすぐに回復した。ところが、検査のための入院中に三度目の脳卒中が起きた。三度目は新たな現実との取り組みが必要になった。彼は複視や体の左側の麻痺に加え、失語や相貌失認の症状も現れていた。急性期リハビリテーション施設に転院となり、多くの領域の専門スタッフにより治療が行われた。Shuttさんは、「自分は最高の脳卒中患者になる」と自分に言い聞かせリハビリに励んだ。

 Brandon Carretteさんは、Shuttさんの入院中、お見舞いに訪れた多くの友人の中の1人だ。2人はキックボールで出会い、互いの絆を深めてきた。歳は20年ほど離れていて、CarretteさんにとってShuttさんは兄のような存在だった。そのCarretteさんは看護師でもあった。Shuttさんが"ニューノーマル"な現実に直面していることを知り、Shuttさんの復活を支える最強のブースターとしての働きを始めた。

 Carretteさんは、「自分の語彙から『できない』を削除して、自分ができることに集中してほしい」と彼の友に伝えた。そして、「その日できたことを、些細なことでも毎日書き留めること、そうしていれば、必ず進歩を実感できる」と助言した。例えば、Shuttさんが医師の名前を覚えていたら、それは一つの"成果"だった。1人で10フィート(約3m)歩くことも、目標のリストに追加した。

 1カ月後、Shuttさんは退院して外来治療に移った。彼の両親が介助のために引っ越してきた。最初の脳卒中から約1年後、外来リハビリが完了。結果はまちまちだった。歩けるようにはなったが、視力は回復せず、左手もほとんど使えなかった。しかし、医師から「左手が完全に使えるようになることはないだろう」と言われたとき、Shuttさんはそれが間違っていることの証明を試みようと考えた。そして連日、キーボード入力に取り組んだ。最初は、左手では数分しか打てなかったが、やがて1時間できるようになり、さらに長時間入力できるようになった。

 キーボード入力が可能になるとShuttさんは、それまで温めていたアイデアをまとめ始めた。ユーモアと愛、悲しみと弱さが入り混じった、短い一人称の物語だ。全てを書き終えると、それを演劇化することに取り組んだ。目的と情熱を感じていた。

 友人たちの助けを借りて、Shuttさん自身も出演する「A Lesson in Swimming(水泳の練習)」という90分間の作品が完成した。その作品に接したCarretteさんは、Shuttさんのことを「彼は悲しみの中にユーモアを見つけ出し、その深い感情を表現することができる。クリエイターとして成功する彼の姿を見るのは素晴らしいことだ」と語る。

 Shuttさんは今、「脳卒中は大変な体験だった」と振り返るとともに、脳卒中の発作時には時間が重要であること、つまり「Time is brain」の社会的な認知を向上したいと願っている。それが脳卒中サバイバーとして自分ができることだと考えている。「私は、脳卒中によって自分の生き方が左右されることを拒否した。その代わりに、自分の人生を切り開く機会として、脳卒中の経験を生かすことにした」。

[American Heart Association News 2022年10月26日]

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Photo courtesy: Cece Tio
[ mhlab ]

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