一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

会報 2012 October Vol.14 No.2

【巻頭言】
耐糖能障害妊産婦を支える環境整備
—チーム医療のさらなる質的・量的充実を—

難波 光義
兵庫医科大学内科学 主任教授

 妊娠糖尿病の診断基準改定後、各地で同耐糖能障害妊婦の増加が危惧されている。より厳しいスクリーニングで症例を捕捉して、より早期から生活指導や 血糖・体重コントロールを図ることは、児の予後改善のみならず、母体の出産後の耐糖能障害進展を予防する見地からして極めて重要である。 また、すでに糖尿病患者として治療を行ってきた症例が妊娠・出産を経過する際、我々はより厳格な生活指導と治療内容を提供しなければならない。 しかしながら、この領域における我が国のチーム医療の現状を見る限り、さらに増加しうる症例を受け入れるだけの質的・量的な充実度はいまだ不十分なのではないかと思われる。

 本学会(誌)において発表や報告を行っている施設は、年間の取り扱い症例数からしても、医師とチームを形成する関連医療職のモチベーションからしても、 一定以上のレベルの診療内容と満足度を患者さんたちに提供しているべきであるが、果たして現状はそう言い切れるのであろうか?

 小職が所属する大学病院で、病棟看護師および妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠の入院例を対象に行ったアンケート調査の結果を見る限り、その環境整備はいまだ不十分と 言わざるを得なかった(当院看護部の窪岡由佑子が第55回日本糖尿病学会総会において発表)。

 成績の一端を述べると、産科病棟看護師からは当然のことながら、妊娠・出産・育児に関する指導面では十分な対応ができているという自負を感じさせる回答が得られるとともに 、産科病棟への入院症例からもこの点の指導に関しては、看護師に対する高い信頼を伺わせる回答が寄せられていた。しかしながらその一方で、インスリン治療をはじめ 糖尿病の病態や今後の合併症への取り組みに対する指導力では、産科病棟における看護師と入院症例の両者が不満や不安を感じるという回答が多く見られた。 この問題点はとくに初妊・初産婦に対する指導の場面で大きく、症例に対する傾聴あるいは不安の払拭などの力量においても浮き彫りとなっていた。 たとえば、1型糖尿病妊婦が産科病棟に入院した際には、産科病棟スタッフの1型糖尿病自体に関する学習不足のためか、インスリン注射のノウハウや血糖自己測定値あるいは カーボカウントなどを巡って軋轢が生まれたりするケースも多く経験されていた。

 他方、妊娠経過の前半期に糖尿病科病棟に入院した耐糖能障害妊婦からは、妊娠と糖尿病の関係や分娩・産褥などに関する指導内容のレベルに対する不満が多く見られた。 当然のことながら、すべての回答患者はいずれの病棟スタッフであれ、彼女たちによる精神面でのサポートを含めた指導力に大きく期待しており、他の耐糖能障害妊産婦との 交流や情報交換も望んでいた。この点は多数の耐糖能障害妊産婦を扱う本学会員の所属する施設への大きなヒントになると思われる。 すなわち、自らが糖尿病あるいは妊娠・出産経験を有する医師やチーム医療従事者が常に患者さんに接して指導することは不可能であり、次善の策として産科・糖尿病 両病棟における比較的世代の近い経妊・経産症例との合同学習や指導、あるいは患者交流の機会を作っていくことも有益なのではないかと考えられる。 また、複数の科や複数の病棟を経験する機会の多い耐糖能障害妊産婦症例に接する医療者にとって重要なことは、統一されたプラットフォームで患者指導を行うこと、 すなわち専門用語や診断基準、治療方針、妊娠経過と産後の観察マニュアルなどを施設内で一定のレベルに擦り合わせておくことである。 また、いつでも必要に応じて科間・病棟間での迅速な情報交換が行え、その結果を患者や家族にフィードバックできるシステムを構築することである。

 今日、少子化と糖尿病増加という二つの国難に直面する我が国において、児と母体の予後を大きく左右する耐糖能障害妊産婦にかかわる医療者の責任は極めて重い。 しかし、医療者個々のモチベーションと努力にのみ期待するのではなく、彼(女)らがその大役を果たしやすい環境整備を行っていくことこそが、この領域の医療が 目指すゴールへの最も近道であり、本学会がこの点でのイニシアティブもとるべきではないかと考えるのである。

【チャンレンジ最前線】
新しい栄養指導教材の開発

大友 崇
群馬大学医学部附属病院 栄養管理部 副部長

 糖尿病の栄養指導には、一般的に体重管理を目的として、エネルギー量中心の『食品交換表』が用いられています。私たちは、食後血糖値の上昇を抑えることが 大きな目的となる、妊婦の糖代謝異常に関する栄養指導に用いるための新しい教材を開発中です。

 この教材は、従来の食品交換表における食品単位の掲載から、料理単位の表示に変更し、さらにエネルギー量を〇単位から〇Kcalに変更しました。 また、料理の総エネルギー量に対する炭水化物、脂質、たんぱく質のエネルギー比較を円グラフで表示することで、料理中の炭水化物の割合がわかるように工夫しています。 炭水化物の割合を知ることで、良好な血糖値の推移に貢献できることが期待されます。

 今後は実際の栄養指導に用いて、教材としての効果と問題点を明らかにし、さらに改良を加えて妊婦の栄養指導に活用できるものにしていきたいと考えています。 ご意見を頂けましたら幸いです。

編集長訪問インタビュー

菊池 透
新潟大学医学部小児科准教授

 連日猛暑が続く8月6日、新潟大学医学部小児科に菊池透先生をお尋ねしました。

小 浜 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、貴院の糖尿病治療の歴史と、現在、小児科にかかっている糖尿病患者数をお教えください。

菊 池 新潟では、1982年からサマーキャンプを行っています。糖尿病を専門とする外来ができたのは、内山聖先生が教授になられた1992年からです。 現在の患者数は、1型糖尿病60名程度、2型は50名程度です。

小 浜 特色をお聞かせください。

菊 池 新潟市では1982年から学校検尿を実施しております。新潟大学医学部小児科は、そこで発見された2型糖尿病患者の受け皿となっています。 また、1999年から、新潟県内の小児期発症1型糖尿病患者のコホート調査もしています。5年間で18歳未満の患児は約55名です。

小 浜 過去、小児科から妊娠分娩した例は何人でしょうか。

菊 池 小児科から内科に移っての妊娠出産例は多くあります。そのうち、私が直接妊娠分娩にまでかかわったのは5例です

小 浜 菊池先生が小児科を志した理由は何でしょうか。

菊 池 小児の成長に興味を持ったからでしょうか。無限の可能性を持った子どもたちの心と身体を支援することは魅力的であり、小児科医の使命と思っています。

小 浜 今後、日本糖尿病・妊娠学会の活動に期待することをお教えください。

菊 池 DOHaD(developmental origins of health and disease:胎児期成人病発症説)に関する研究の支援をお願いしたいです。 小児かは将来、結婚・妊娠にかかわる重要な時期です。サマーキャンプや糖尿病教室で積極的に啓蒙する必要があると思います。 内科へのスムーズな診療移行のために、サマーキャンプやヤングの会に糖尿病内科の先生方にも参加していただき、患者さんの情報を共有していきたいと考えています。

小 浜 本日はありがとうございました。

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