トップページ - 間食指導、私の場合 - 第5回食品の炭水化物量をチェック

 今回は、“カーボカウント”でも著名な佐野喜子先生を訪ねました。間食(おやつ)は、炭水化物(カーボ)の量で見てみると、目から鱗な事も多いとか。血糖コントロールの極意として、「食べた炭水化物の種類ではなく、食事に含まれている炭水化物の総量に注目していくことが有効」と語ります。
貴院の栄養指導状況について教えて下さい。
佐野:いま、私が担当しているのは1型糖尿病の専門外来で、150名ほどの1型糖尿病患者さんが中心です。通常の外来では、診察をしてから療養指導という流れですが、1型専門外来は逆です。患者さんのSMBGのデータをグラフ化し、それをもとに医療スタッフが問診を行い、患者さんの状態を把握してから、ドクターのいる診察室に一緒に入いります。患者さんにとっては、少し時間がかかりますが、1時間に3名枠なので恵まれている環境だと思います。また、診療間隔は強化インスリン療法の患者さんは1〜2ヵ月、インスリンポンプの患者さんは1ヵ月となっています。
まず、糖尿病患者さんの間食については、どのようにお考えですか?
佐野:基本的には、お酒も間食も大丈夫で、間食は良いけれどアルコールはダメ、またはその逆、といったことはありません。自分で管理できる範囲であるならば、間食はかまわないと思います。よく、肥満がある場合とない場合という分け方をしますが、いま自分自身の体が抱えている課題と突き合わせながら自分で管理することができるならば、「やめなさい」という問題ではないと私は考えています。
では、コントロールが上手くいかない患者さんは?
佐野:「なぜ、コントロールがよくないのか?」というのがポイントですが、「こうやればできますよ」という情報提供よりも、まずはうまくいかない原因を一緒に考えてみないといけないと思います。生活習慣を意識するというのは“受け身”では続かないと思うんです。“説得”ではなくて“納得”してもらうためには、「こういう理由でうまくいかないんだ」と、患者さんにご自分なりに納得できる根拠をみつけてもらうことが大切ではないかと思っています。
初診の患者さんにはどのように指導をスタートしていますか?
佐野: まず、現状を理解するために食事全般について伺います。自分の食事をどう評価しているかということよりも、食べることは自分の生活の中で楽しみなのか、制限されたら嫌なのか、今後どうしていきたいか、ということ。次に、ふだん意識していることやうまくいっていること、自信があることなどを尋ねます。自分が頑張っていることを最初に話す方もいれば、「こうやっているのに、なかなか上手くいかないんですよね」と言い訳的なところから話される方、いろいろです。やはり、第一声で出ることは、日常的に意識していることだと思います。そうでない患者さんもいますが、こちらから的を絞って聞いてしまうと、患者さんはそれ以外の話をしたくてもできないものです。
指導の中では、間食の話はどのあたりから入っていくのでしょうか?
佐野: 例えば、「私は、そんなに食べていません」と、患者さんはよく言いますが、患者さんには「こんなに量を抑えて努力しているのに、何でA1cが高いの?」「指示カロリーを守って食べているのに、どうして?」という疑問があります。それを「少なくても食べてれば太るわよ」と指導者が思ってしまったら、信頼関係は築けません。

 近年、こうした食材はさまざまな変化をしています。病院で出されるビスケットは堅いかもしれませんが、一般的によく食べられているのはパイやクッキー、サブレなど、口の中に入れれば溶けるような、油脂分が多く含まれているものです。昔に比べて食べる量は少なくなっても、摂取するカロリーや脂肪は変化しています。

 「多くの人が、子どもの頃にはコンデンスミルクと一緒に食べていた苺を、いまはそのままのほうがおいしいと言います。大人になったからでしょうか・・・。りんごを“すっぱい”、“固い”とイメージする私のような年代でも、購入時には“甘い? 蜜が入っている?”と聞くようになりました。酸っぱさに口をすぼめるみかんに出会うこともなくなりました。糖度の高い果物に嗜好が動いています。

 患者さんにこんな話をすると、「甘いからたくさん食べると血糖が上がりますよ」と言うより、「食べ過ぎないようにしないといけませんね」との言葉をいただきます。講演会と違い病院での指導は1回限りではないのが強みです。1回の指導で全て話をする必要がないので、患者さんのニーズに合ったタイムリーな話題を提供できます。

貴院で“カーボカウント”を取り入れたのはいつ頃からですか?
佐野: 当院で1型糖尿病外来を立ち上げた約5年前からです。欧米では一般的に活用されているカーボカウントが、日本でも少しずつ活用されてきた頃でしょうか。最初は、私自身が1型糖尿病の指導経験がなかったので、患者さんに質問ばかりしていました(笑)。
学会でもカーボカウントに関する発表が少し出始めた時期でしょうか
佐野: はい、カーボカウントを取り入れた成果の発表も多くなりました。困った事例などは連携を摂りながら情報交換できたら有意義なことだと思っています。カーボカウントを用いた糖尿病食事療法の有効性については、日本糖尿病学会で検討していただきたいと考えます。なお現在,食品交換表編集委員会の作業部会としてカーボカウント小委員会が設置され、カーボカウントについて検討されていると伺っております。

 日本は欧米とは違って米の消費量が多いので、カーボカウントは日本食にはそぐわないとよく言われますが、逆にたくさん食べているからこそ、指示カロリーに合わせてよくみる必要があると思います。食後高血糖に影響を及ぼすのは、炭水化物の過剰摂取です。摂取量の明らかに多い人の炭水化物エネルギー比率を55〜60%に調整することでA1cの是正がみられます。

よく低炭水化物ダイエットと間違えられると言いますよね
佐野: そうですね、肥満を是正するために炭水化物摂取量を減らすと、体重は減ります。しかし、カーボカウントの目的はダイエットではなく、血糖コントロールです。それに炭水化物は必要量を摂取することが大切です。

 例えば、指示エネルギー量1600kcal/炭水化物エネルギー比60%とした場合、960kcalの炭水化物量、グラムに直すと240gを1日に摂取するようにします。この240gを毎食に配分するのですが、この1食分の炭水化物量が多すぎると食後高血糖を招きます。

 キツネうどん(400kcal/炭水化物量63g)といなり寿司2個(260kcal/炭水化物量33g)という食事(660kcal/炭水化物量96g)は、一見ヘルシーといった印象があります。一方で、ステーキ200gとつけ合わせ(800kcal/炭水化物量7g)、パン2個(190kcal/炭水化物量30g)という食事(990kcal/炭水化物量37g)は、カロリーは高いのですが炭水化物量は逆転しています。カロリーを抑えたようにみえても、炭水化物の重ね食いがあると注意が必要なのです。

どのような患者さんにカーボカウントを勧めているのでしょうか。食品交換表を用いることもありますか?
佐野: 食品交換表でコントロールできている人は、そのまま継続してもらっています。うまくいっているのに変えることはないと思いますから。体重管理が良好で、指示カロリーはうまく守れているのに、HbA1cが高いという人には、カーボカウントを勧めます。もちろんその前に、現状の炭水化物の摂取量を精査してから決めます。
初診の患者さんにはどのような事から指導していますか?
佐野: まったく情報のない、初めて糖尿病と言われた患者さんには、カーボカウントから始めます。炭水化物を含むものと含まないものといった意味でシンプルですから。実際に理解は早いですね。また、1型の患者さんですとSMBGで確かめられるという納得材料があるので、導入もスムーズです。実践が結果として現れるので、患者さんも自信につながっていくのだと思います。
カーボカウントは、簡単に言えばどういうものですか?
佐野: “カーボカウント”は、“炭水化物(カーボハイドレイト)を数える(カウント)”の略で、血糖値を最も上昇させる炭水化物の総量を計算することで血糖コントロールする食事療法です。欧米では、すでに広くこの方法が食事療法に取り入れられています。すでにご存知だと思いますが、炭水化物は摂取後、ブドウ糖に100%変換され食後の血糖値の上昇に大きく影響します。その摂取量をコントロールすれば、血糖値もコントロールできるというわけです。

 例えば、朝食におにぎり1個100g(炭水化物量40g)をとって、食後の血糖値を測定してみます。翌朝、同じ量の炭水化物としてパン6枚切1枚+イチゴジャム大さじ1(炭水化物量40g)をとって食後の血糖値を測定してみると、血糖の上昇幅は前日とほとんど同じになることがわかります。

 すなわち、血糖値は、摂取した“炭水化物の量”によって変動することを身をもって実感することができるわけです。カーボカウントでは、さまざまな食品がどのくらいの炭水化物量があることを知ってもらい、患者さんの食生活に合わせて、上手に指示エネルギー量の範囲内でとってもらうことによって、安定した血糖コントロールが維持できるようになります。

 食事・運動療法のみの2型糖尿病の患者さんをはじめ、薬物療法、インスリン療法を行っている2型糖尿病患者さん、そして1型糖尿病患者さんやインスリンポンプ療法を行っている患者さんなどに、広く活用していただけます。

とても理にかなった方法ですね
佐野: 例えば、指示エネルギー量が1800kcalの方の場合、その方の1日の炭水化物量は、1800kcal×0.6(摂取エネルギーの60%)=1080kcal、換算すると約270gになり、炭水化物15g=1カーボで計算しますと18カーボです。それを3食+間食に割り振るわけです。
カーボカウントでは、おやつ(甘い食品)の扱いはどうなのですか?
佐野: 糖尿病といえば、間食は避けるよう長年教えられてきましたが、カーボカウントでは血糖への影響で重視されるのは“食品に含まれる炭水化物の総量”であり、種類ではないのです。ですから、基本的に甘い物は指示エネルギーの範囲内(想定のカーボ内)であれば、とることができます。もちろん、食べる際には他の食事からとる炭水化物量を減らすなど、食事バランスには配慮します。やはり太らないようにすることが基本で、太っていない人もそれを維持することが重要です。

 よく、カーボカウントに対して無制限に交換できると解釈されるのですが、これは間違いです。適正量の範囲内であれば交換が可能だということです。そこは、指導者の提案の仕方にかかってくるのではないかと思っています。

患者さんへは、どのように提案されるのですか?
佐野: 最初に炭水化物はどんな食品に含まれているかを確認します。次に、食事記録を記入してきてもらい、自分が食べている炭水化物量を確認します。患者さんにしてみれば、そうでもないと思っていたりします。「カロリーを控えるためにノンアルコールビールにしている」「野菜をとるために肉ジャガをよく食べる」「間食は甘くないせんべいにしている」「ジュースではなくてスポーツ飲料にしている」と、気をつかっていたところに落とし穴があることに気づきます。

 例えば、患者さんの摂取カロリーが先ほどのように、1800kcalで1日の炭水化物量が18カーボ(約270g÷15g)、朝5、昼6、夕6、間食1と割り振っていたとします。実際の食事をみてみると、朝はけっこう良かった。でも、昼は倍に近い数字で、間食はお煎餅を食べている。夕食もご飯に味噌汁とちゃんとした和食だけど、炭水化物量は多いですね〜等々、患者さんと確認しながら、問題点を探していきます。

 間食において、いままで糖尿病の患者さんにとってポテトチップやシュークリームは、高カロリー・高脂肪ですから、厳禁でした。糖尿病の患者さんのおやつといえば、甘くないおせんべいや、食品交換表にあるバナナなどが、おやつのイメージだったのではないでしょうか。

 カロリーで比較してみるとしてみるとあまり変わらないと思いますけれど、炭水化物量ではこれが逆転します。だから、2型の患者さんでも、エネルギーの調整はうまくいっていても、変わらないという患者さんには、炭水化物を数えてもらうと、落とし穴がみえてくることがあるんです。

 シュークリームと大福餅では、このサンプルではほぼ同じカロリーですが、炭水化物量は大福餅の方がはるかに高いんです。患者さんは「お彼岸などに“おはぎ”を食べると血糖値がものすごく上がるんだけど・・・」という経験のある方がけっこういらっしゃいますので、そのことに薄々気がついていています。なぜだろうと、検証していくと、おはぎは小豆、砂糖、餅米と全部が炭水化物。このような、納得できる材料を探していくことは非常に重要で、表や数を覚えるよりも、“そうなのか”と考え方として納得・理解してもらうことがたいへん重要だと思っています。

 例えば、受験勉強をしている高校生の場合、夜食なども考慮しなければなりません。そういうケースでは、まずは間食指導から入ります。この世代は食事より間食に関心が高いのです。実は、1型の患者さんがカーボの考え方をまだ知らない時に、夜食にシュークリームを食べて低血糖になった事がありました。カロリーが高そうだから、2単位を投与してしまったことが原因でした。「試験勉強のときには、おやつを食べて気持ちを切り替えることも大切。でも低血糖にならないようにこれだけは覚えておいてね」と提案すると、真剣になって耳を傾けていただけました。
他に注意点はありますか?
 α- グルコシダーゼ阻害薬を服用している患者さんは、腸にガスが溜まることがよくあります。良く聞いてみたら、炭水化物の摂取過多が原因の場合があることもわかりました。2型糖尿病患者さんでは、そういうところもチェックする必要があります。
指導に使っている資料などはありますか?
佐野: こういうものを患者さんに渡して、何もかもを覚えてもらわないと始まらないというものではなくて、好きな食べものやよく食べるものリストを患者さん自身に作ってもらいます。指導の時は、その人が好きな食べ物を例にして話をします。「ワッフルなんていままで無理だと思っていたけど、お煎餅にするとたったこれだけで同じ炭水化物量だ!」などと驚かれますよ。患者さんに、自分の食生活のスタイルを知ってもらった上でコントロールしていただければと思っています。

 あとは、カーボカウントのカロリーブックなどが市販されていますので、参考にしてもらったりします。そういうものをみると、ご飯をはじめとする主食の量がどれだけ多いかということが改めて認識できると思います。その上で、自分がふだん食べている量がどれだけオーバーしていることがわかると、だいぶ違うと思います。

こういう資料をみながらだと、血糖値上昇の原因が一目瞭然ですね。上手な間食コントロールに対しても応用できそうです。わかりやすく解説いただき、有難うございました。
<今日のまとめ> 間食指導「私の3ヵ条」

  1. 会話が最も重要。コミュニケーションの中から着実に信頼関係を築いていきたい
  2. 患者さんが必要としている情報を、事例を使ってわかりやすく伝えること
  3. 簡単に患者さんを評価しない、まずは認めることが大切!

【 Profile 】
佐野喜子(さのよしこ)さん
女子栄養大学栄養学部卒。(独)京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室研究員、糖尿病センターで栄養指導を行うとともに、(学)古屋学園 二葉栄養専門学校 管理栄養士科教授、帝京大学医学部特別講師、(株)ニュートリート代表取締役、著書執筆多数、講演会講師など、幅広く活動中。2010年4月より順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士後期課程。平成22年度科研費「日本人向けカーボカウントの有用性と指導者養成に関する研究」主任研究員。
 著書「すぐわかる!すぐできる!糖尿病の食事療法 カロリーつきカーボカウントナビ」(エクスナレッジ)、編著「糖尿病医療スタッフのための実践!カーボカウント」(医歯薬出版)、編著「はじめてのカーボカウント」(中外医学社)、共著「エビデンスを活かす糖尿病療養指導」(中外医学社)、編著「質問力でみがく保健指導」(中央法規出版)、共著「ヘルスケアプロフェッショナルのためのメタボリック・シンドロームQ&A」(医歯薬出版)、共著「医師と栄養士と患者のためのカーボカウンティング実践ガイド」(医薬ジャーナル社)ほか多数

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