トップページ - 間食指導、私の場合 - 第7回患者さんと一緒に考え、楽しく取り組める工夫を!(前編)


 第7回目は、加藤内科クリニックの加藤則子さんを訪ねました。国内外の学会や講演会を飛び回り、最新情報を常に取り入れている同院の療養指導には定評があります。幅広い知識と好奇心旺盛な取り組みを活かした間食指導について、同院・管理栄養士の齋藤杏子さんも加え、たっぷりお話をお伺いしました。(今回は前編・後編の2部構成です!)

貴院は、どのような患者さんが多いですか?
加藤: 当院は、月に約700名の糖尿病患者さんが通院されています。1型患者さんはそのうちの約1割位。インスリン療法を行っている患者さんは約300名です。管理栄養士は現在2名です。患者さんの半数以上はSMBGができますから、血糖値の話を交えながら指導することも多いですね。

 また、当院には、葛飾高砂会という日本糖尿病協会の患者会があります。会員は約200名で、年に10回、勉強会を開催しています。勉強熱心な方も多く、毎回知恵を絞りながら会の企画・運営に奮闘しています。

まずは、間食指導の基本について、お考えをお聞かせください。
加藤: 以前、このコーナーの座談会では"間食禁止派"ということで、お話させていただきました。原則禁止派という姿勢は変わりません。間食はしない方がコントロールは良くなることは、誰もがわかっているわけですから。ですが、おやつが好きで食べている方に対しては、その方のお気持ちをくんだ上で、まず血糖が上がりにくいものに変えてみようということからスタートします。体重の多い方なら、こちらよりこれの方がカロリーは少ないからこれにしてみませんかといった形で段階を踏みながら、指導を行います。

 血糖コントロールを乱し、食事療法の障害になっているのは、間食だけが原因ではないかもしれませんが、とりあえず良くするために、減らす、やめてみるということをトライしてもらうことは大切です。まずは"食前の血糖値が高い状態は良くない"ことを患者さんに理解してもらいます。間食指導パネルのグラフを活用しながら、この "血糖日内変動のホップ・ステップ・ジャンプ" を説明します。

間食が血糖コントロールを乱している患者さんの例
  • 食前の血糖値がしっかり下がっていないケースは、10時・3時のおやつで血糖値が上がり、その後の食前までに血糖値が下がっていないことがよくある。

  • 夜遅くにまた食べて、翌朝の血糖値が高い場合がある。

  • 一生懸命歩いたり、運動するのだが、その後に食べたもの(アイスクリームやジュースなど)で血糖値が上がりすぎることがある。

  • 昼食前や夕食前に空腹感が強く、低血糖かもしれないと飴やチョコレート・黒砂糖を食べ、食前血糖値が高くなっていることに気づかないこともある。または実際に、低血糖を起こすのだが、ブドウ糖などを食べ、その後にさらに食事を食べ過ぎてしまい、血糖の乱高下を繰り返すことがある。

 初診の方については、ひと通りお話をすれば、間食をしなくなることも多いので、やはりそういう方達は、血糖コントロールが改善されることが多いです。当院では、苦労して間食をやめたというよりも、最初の段階でやめて、非常に改善したという方の方が多いような気がします。ただ、通院期間が長い方になると、お仕事の都合で間食をしてしまうとか、ストレスが溜まるんだよね、と仰って間食を続けていらっしゃる方も時々おられます。そういう方に対しては、否定するのではなく、あなたに今足りない栄養素はこれだから、食べるんだったらこれにしてみようとか、代替となる食品を提案してみます。

日常生活で感じる間食欲求の例
  • 職場には3時の休憩時間があり、一人だけ食べないわけにいかない雰囲気がある。

  • 仕事から帰り、食事の支度をする前に休憩したい。ちょっと何か食べたくなる。疲れているので、食べてもかまわないと思ってしまう。

  • 夜遅くに食事をするため、夕方、軽食を摂りたいのだが、時間やゆとりがなく、手軽なスナック菓子などで小腹を充たしてしまう。

  • ほっとしたいとき、食べたい気持ちがでてくる。

どのように指導を行っていますか?

加藤: 最近、私がよく活用しているのが、「Dr.今井の塩分・栄養診断ソフト」で食事内容を分析、患者さんと食生活についてお話をしながら、非常に簡単にその方の足りない栄養素などを分析し、改善点をアドバイスします。

 まずは、写真で選びながらパネルPCに入力します。その中で、間食に、例えば、バウムクーヘンやシュークリームなどを食べていた場合、どうしても脂質が増えてしまいます。間食の原因として、もし小腹がすいているのであれば、むしろおにぎりを食べた方がいいのでは?ヨーグルトはどうですか?といったアドバイスをします。夕食の量を少し減らして、小腹を充たしてもらうといった工夫を一緒に考えます。

 また、食事でも、おかずが多いと炭水化物が減り、たんぱく質や脂質が増えてバランスが崩れるといった問題もでてきます。とくに体重を減らそうとする場合は、バランスよく食べないと、どこかで反動が出てしまうんです。単に、間食をやめなさい、というお話でなく、あなたは何が足りないから、何を食べた方がいい、という話の展開の方が患者さんもスムーズに許容されるのではと考えます。その方の食事全体からみて、間食をどうコントロールするべきかを、納得していただきながら指導していくのが有効かと思われます。

指導のポイント
  • 間食を止めた場合のメリットを話す。

  • 否定はしない。

  • よりカロリーの少ない物、血糖値の上がりにくい物などの代替え品を提案する。

  • 経過を観察する。

  • 一人一人対応はその都度異なる。反応を見て対処するので、常に研修・情報収集を欠かさない。

  • 新しいツールがあったら積極的に取り入れる。 

やはり、1日の食事バランスを見ながらの指導は大切なんですね。
加藤: そう、PFCバランス(3大栄養素の摂取量の比率)が重要です。『「食品交換表」を用いる糖尿病食事指導のてびき 第2版』(日本糖尿病学会編/文光堂刊)での適正配分によると、炭水化物は50〜60%、脂質は20〜25%、たんぱく質は15〜20%程度を適正配分としていますので、私は炭水化物は55%、脂質は25%を目安にしています。糖尿病だからご飯(米)を少なくしているという方は多いのですが、むしろご飯はきちんと食べることをお勧めします。玄米や雑穀を混ぜれば、血糖の上昇が遅くなり、ミネラルも補充できるのでバランスが良くなります。このようなPFCバランスと、どんな栄養素が足りないかを見つけて、上手に補う方法を探るという方法で、間食を含めた食事指導を行っています。

 当院で、栄養指導を受けた患者さん607名の「エネルギーの栄養素別構成比」を見てみました。平均年齢58.5歳で、1日の摂取エネルギーの平均は2060kcalです。すると、炭水化物の比率は平均51%と少ないことがわかりました。これに対し、脂質は25%、たんぱく質は24%と、そのぶん高くなります。そこで、高炭水化物群と低炭水化物群に分けて分析してみました。やはり低い群は、おかずが多くなるということなので、総摂取エネルギー量はじめ、たんぱく質や脂質が総じて高くなります。これを見ると、むしろご飯をきちんと食べて、おかずの内容を考えた方が糖尿病の治療という意味では有効と言えるのかもしれません。もし低炭水化物食にするならば、より一層、飽和脂肪酸や塩分を減らし、食物繊維をしっかり摂らなくてはいけません。また食費も高くなりがちであることも知っておく必要があります。

加藤内科クリニックに通院する患者さんの「エネルギーの栄養素別構成比」
「補食」と「間食」を混同する方もおられるようですが、補食の上手な摂り方を教えてください。
加藤: 間食についてお話する際には、お腹がすいた時、低血糖になりそうな時、お仕事の最中、どんなものを利用するといいかなという目安として、コンビニで手に入る「補食の例」という形で、お勧めの製品情報を比較しながらご紹介しています。低血糖になりそうな時に食べるのは、「間食」ではなく「補食」であるということはご存知だと思います。糖尿病だと、何が何でも間食は食べちゃいけないんでしょ?と仰る方にはそのようなお話をします。

 「補食」という意味では、低血糖になることが多い時間帯というのがその方その方によってありますから、低血糖になりそうな時間帯の前にあらかじめ時間を決めて、決まった食品を食べるのが有効です。この「補食の例」には、プルーンを入れてあります。糖尿病食品交換表では、プルーンをはじめとするドライフルーツは、糖質が高いので嗜好食品の扱いになっており、お勧めできないと書いてあります。ですが、ビタミン、ミネラルの意味を考えると、むしろ食べた方がいいのではないかと考えています。低血糖の時にブドウ糖を食べるよりも、その前に補食として、栄養価の高いプルーンのようなものを食べておいたほうが良いのではということです。

 やせた患者さんで、補食をどうしたらよいか?という時は、ミックスナッツのようなもの、柿の種の小袋をお勧めすることがあります。ナッツ類は脂肪が多いので血糖値をキープできます。あられで、ある程度糖質を摂って血糖値を上げ、低血糖予防に活用する場合もあります。

第7回 患者さんと一緒に考え、楽しく取り組める工夫を!(後編)へ
↩ トップへ