トップページ - 間食指導、私の場合 - 第7回患者さんと一緒に考え、楽しく取り組める工夫を!(後編)

間食指導を行い、改善がみられた患者さんの症例をご紹介ください。
加藤: 30代後半女性で、過体重、高血糖あり。毎日の帰宅が21時で遅い食事になってしまう上、食後の菓子摂取が止められないという方がおられました。多い時でBMI41(98kg)HbA1c 9%(JDS値)に悪化。

 2010年当初の治療はSU薬(グリメピリド)+ビグアナイド(メトホルミン)+チアゾリジン(ピオグリタゾン)でした。血糖値は下がりましたが体重が増加してしまったため、ピオグリタゾンを中止。その結果、体重は減ったのですが、血糖コントロールは再度悪化してしまいました。2011年3月にDPP-4阻害薬(シタグリプチン)を加え、体重も減少しましたが、まだ血糖コントロールは不十分でした。患者さんと医師は話し合い、2011年7月GLP-1受容体作動薬であるエキセナチドとSU薬併用に挑戦しました。

 そのときの指導録によれば、間食を止めようと思ったが、その代わりに夜、菓子を食べてしまうので、食べたいものは昼に食べ、夜は止めるようにしたとあります。通勤の時もできるだけ階段を使うようにしたら、最高体重より約20kg減らすことができたと喜んでいました。彼女にとって何より嬉しかったのは、姉と同じくらいの体重まで減ったことでした。さらに、朝食前の血糖値は200mg/dL台だったのが、105mg/dLまで下がってきたと、血糖を測る喜びも感じ始めてきたそうです。

 次に、3日間の連続血糖測定(後述の「ACCU-CHEK 360°Viewシート」)を勧めたところ、食事量をさらに減らすようになりました。間食は次の食事の血糖値を上げてしまうこと、食後の運動が血糖値を下げることも実感できたようです。

 GLP-1受容体作動薬はリラグリチド(ビクトーザ)よりさらにエキセナチド(バイエッタ)の方が体重減少の可能性があると期待されていました。当院では高度肥満の2型糖尿病患者さん達で使用しましたが、体重減少の効果は少ないか、使用当初だけ減少したという症例が多かったのです。彼女の場合は食事量の減少・運動の増加・間食を止めるといった3拍子がそろい、効果が高かったと思われます。2012年2月にお聞きしたときは間食がありませんでした。相変わらず、偏食あり、野菜摂取も少ないのですが、自分なりの努力を重ねていらっしゃることが伺えました。「塩分診断ソフト」で栄養診断をしたところ、最も注意したい不足する栄養素はビタミンC。飽和脂肪酸が多めと診断され、できる範囲で野菜を増やし、適量の果物を摂るよう、アドバイスを続けています。

◎指導方法
 間食がやめられなかった頃は、「間食したくなったら、シュガーレスガム・酢昆布・干梅にするよう頑張ってみる」という本人を応援。甘い紅茶ペットボトルをダイエットコーラ、無糖、お茶にする機会を増やす。食べられる野菜料理であるツナサラダ・サラダスパゲティを(マヨネーズでエネルギー量は多いが)OKとし、食事改善に取り組む姿勢を応援。
 体重を測りたがらない、体重記録をつけたがらないが、測る回数を増やすことを応援。

◎患者さんの取り組み
 アクチェック360°Viewシートによると、昼・夕食後に歩いた。(普段より非常に良い、努力あり)。ご飯量もぐっと減らした。昼食後におやつ(シフォンケーキ・せんべい・ポテトチップス・シャーベット等)を3日間とも食べていたが夜は食べなかった。努力すれば食前血糖値が下がることを実感した。(間食は止めようと思ったけど、そうすると夜食べちゃうので、昼に食べて夜は止めたとご本人の話)。駅の階段もできるだけ歩くように気持ちが変化し、体重が78kg(BMI32)に改善。

 当院では、ステップスタディ(「ACCU-CHEK 360°View」)という血糖測定分析システムの研究を行い、その後も外来で実践使用しています。1日7回のSMBGを3日間集中して実施してもらい、血糖日内変動をみるというものです。集中的に自分の生活を振り返ってもらうのがポイントです。当院でも使用しているCGM(持続血糖測定モニター)でみると顕著にわかりますが、使える医療機関は限られていますので、このように集中的に測定すれば、ポイントをつかみやすくなります。

 どの時間にどんなものを食べたかということ、どの位の炭水化物量でどの位の血糖が上がるかということが、お互いにわかることが重要です。カーボカウントでもそうですが、食品の糖質量を知ること、血糖値を下げる役割を持つ食物繊維の摂取にも意識するなど、血糖上昇を意識(配慮)した食品選びについて学ぶことも大切だと考えています。口から食物が入って、胃を通って、小腸に入った時に血糖が上がるから、腸に入るのをゆっくりにすればいいというようなイメージも持っておくとなお良いですね。また、ゆっくり噛んだり、お酢や脂など一緒に摂取する食品の作用など、食べ方の知恵も、できるだけ患者さんへアドバイスします。

本当に、さまざまな取り組みにチャレンジされていますね。
加藤: 効果的と思われるものは、なるべく活用していきたいと考えています。他にも、最近非常に良かったのが、当院患者会や外来で行った「スモールチェンジ」というプログラムです。"変えようと思っているけど変えられないあなたに"をメインテーマにしています。これは、早稲田大学大学院人間科学学術院の竹中晃二教授が提唱しているプログラムを勉強させていただき、自分なりにアレンジしてみたものです。

 健康づくりの中で、何かやらなくちゃと思っていたけどできていなかったことがある、その、できていなかった理由を書いていただきます。「汗をかくのが嫌だった、面倒臭い、忙しくて時間がない」などいろいろあります。次に、実行できたら得られるメリットは何か?を記入してもらいます。血糖が下がる、体重が減るなどが考えられますね。そして、最初の行動として、できることを何か書いてもらいます。例えば、エスカレーターを階段に変えるとか、駅までを自転車ではなく歩くことにするとか。そして、それを実行に導くための仕掛けやご褒美を何か考えてもらいます。玄関にウォーキングシューズを置くことにしたとか、荷物が重くて歩けなかったのだとしたら、この日は荷物を少なくしようとか。
 これを見守る役として、私たち医療スタッフが立ち会い署名。この紙を家の目につく場所に貼っておき、実行に励んでもらうというものです。

 何でもいい、本当に小さいことでかまわないんです。それをやり遂げ、少しずつ目標を増やしたり、ハードルを上げたりして、続けていく。大事なのは、日頃から感じていた改善点を見つけて、それを公言することによって、ほんの少しでもいいから今、スモールチェンジしてみましょうというプログラムです。小さなことでも実践できたら、自分への自信にもつながりますよね。これをやって、すごく肥満だった方が上手にダイエットできたという例もあります。この状態を変えようという動機が働かないと、上手くいかないんですね。そのきっかけ作りとして、こういった取り組みも行っているんです。

改善を促すアイディア〜こんな方法もある!
  • スモールチェンジによって変えられない自分に、行動変容を促す。

  • 100円のお菓子と薬を比べてみましょう。今食べたいからと買ったお菓子が血糖コントロールを悪くするならば、医療費はより高くなります。薬一錠100円以上するものも多いのです。必要な食品を食べ、歩いて、医療費を減らしましょう!エコですね!

  • 食事の後は必ず歯を磨く。たとえ間食しても歯を磨く。「歯科を受診して歯石(歯垢)を取ってもらうとすっきりするので効果的」と勧める。

お口の健康も意識しての食事指導
齋藤杏子(管理栄養士): 私はもともと歯科で食事指導などをしていた関係で、口腔内の健康を意識したお話を取り入れながら、指導を行っています。継続的にエネルギーや糖分の入った飲み物、食べ物を断続的に摂取する、いわゆるちょこちょこダラダラ食いを止める、正しい噛み方など、"食べ方"を知ることは、とても重要です。糖尿病患者さんは歯周病対策も必要ですから。

 患者さんの中には、菓子パンを食事代わりにしている方は多いですね。例えば、ランチにあまり時間を取れない方だとコーヒーショップで済ませるとか、コンビニでパンを買うとか。例えば、シナモンロールをランチに毎日召し上がっていた方がいて、サンドイッチに変えるよう提案したところ、食後に歯を磨かず営業へ行かなくてはならないので、歯に挟まるような野菜入りのものは食べたくないとのことでした。その食べ物を選んだ、その方なりの理由というのがあって、それを伺わないと的確なアドバイスができないということを実感しています。 初診の患者さんですと、間食は大抵の方が行っていますが、患者さんの生活環境や問題点を把握し、きちんと説明すれば、意外と簡単に間食を乗り越えられることが多いと思います。

<今日のまとめ> 間食指導「私の3カ条」

  1. にこやかに指導、否定はしない
    患者さんの気持ちに立ってお話をうかがう。間食習慣を把握し、食べる理由を知るこ とが大切。

  2. よりカロリーの少ない、血糖値の上がりにくい代替食品を提案する
    自分に足りない栄養素を意識してチョイス。できるだけナチュラルなもの、食物繊維 の多いものがお勧め

  3. 経過を観察する。(見守る)

【Profile】
加藤則子(かとうのりこ)さん

加藤内科クリニック http://www.katoclinic.ne.jp/
日本女子大学 家政学部食物学科管理栄養士専攻課程卒業、
日本糖尿病療養指導士、病態栄養専門師、
日本臨床栄養協会サプリメントアドバイザー、葛飾糖尿病医会世話人、
東京都糖尿病対策推進会議委員、NSTコーディネーター、
東京都糖尿病協会医療スタッフ部会世話人、
東京東部CDEJネットワーク代表世話人、
糖Q会3県合同会代表世話人、茶道裏千家準教授

所属学会等:日本糖尿病学会(評議員)、日本糖尿病妊娠学会、日本肥満学会、
日本病態栄養学会(評議員)、日本臨床栄養協会、日本肥満症治療学会、日本栄養士会、
日本マグネシウム学会、日本食物繊維学会、東京骨を守る会、
日本糖尿病合併症学会、ヨーロッパ糖尿病学会、アメリカ糖尿病学会

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