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2017年11月02日

自分の足を知ろう 「足潰瘍」は合併症 足切断の5分の4は防げる

 糖尿病のある人の3分の1以上が、「足潰瘍」が糖尿病の重大な合併症であることに気づいていない――。糖尿病足病変により足を切断する人が増えているが、その5分の4が予防可能だ。英国糖尿病学会(Diabetes UK)は「足について知ろう」キャンペーンを展開している。
足切断の5分の4は予防できる
 「足潰瘍」とは、足の皮膚の表面が炎症を起こしてくずれ、できた傷がえぐれたようになった状態を指す。足潰瘍の増加の背景には、足の指や足の裏のしびれ・痛み・感覚まひ(神経障害)、動脈硬化による血液の流れの悪化(血流障害)といった合併症をもった人が増加していることが挙げられる。

 足潰瘍は糖尿病による足切断の主要原因であるにもかかわらず、英国の3分の1以上の糖尿病患者が糖尿病の重大な合併症であることを知らないことが、英国糖尿病学会(Diabetes UK)の調査で明らかになった。

 英国の糖尿病患者2,055人を対象とした調査によると、79%の人が「糖尿病足病変」が糖尿病の重大な合併症であり、症状が進行すると足切断を強いられることがあると知っているが、「足潰瘍」が合併症のひとつであることを知らない人は36%に上った。実際には糖尿病のある人の足切断の80%は、足潰瘍を治療しないでいることが原因になっている。

 糖尿病のある人は、そうでない人に比べ、足を切断する治療を受ける危険性が15倍高い。英国では、足の切断などの深刻な障害が、年間に8,500件以上で発生している。これらは適切な治療を行っていれば5分の4が予防が可能だという。
足のことを知ろう キャンペーンを展開
 英国糖尿病学会(Diabetes UK)は、糖尿病による足切断をなくすことを目的に、「足のことを知りましょう」(Putting Feet First)キャンペーンを展開している。今回の調査はキャンペーンの一環として実施したものだ。

 同学会はキャンペーンを通じて、地域の糖尿病治療体制の改善を呼びかけている。潰瘍や感染症などの足のトラブルがあると、急速に悪化し、壊滅的な結果をまねく可能性がある。糖尿病の人は、足病医や足の医療チームを定期的に受診し、足の問題を早期にみつけ治療を受けることが推奨されている。実際には英国の4分の1の医療機関には糖尿病フットケアの専門のチームがないという。

 足切断は、その人の人生に破壊的な影響をもたらし、生命を脅かすこともある。足切断の5年以内に死亡する患者が80%に上るという報告がある。足潰瘍により切断に至った場合の医療費の上昇も深刻だ。

 「糖尿病による足切断は破壊的なダメージをもたらしますが、その多くは予防が可能です。糖尿病のある人は、自分の足を守る方法を知り、毎日チェックすることが必要です。少しでも足の異変に気が付いたら医療機関で速やかに治療を受けることが大切です」と、Diabetes UKのダン ハワード氏は言う。
足を毎日チェック 5つの簡単なステップ
 英国糖尿病学会はビデオを公開し、糖尿病のある人は自宅で毎日足のチェックすることを勧めている。毎日の足の健康チェックを行うための5つの簡単なステップを紹介している。

(1)靴と靴下を脱ぐ
(2)足を手で触り温度をチェックする
(3)足を観察し、皮膚が固くなっていたり色が変わっていないかを確認する
(4)足の指の間や爪をチェックする
(5)足に感染症や潰瘍が起きている場合は、速やかに診察を受け治療を開始する
 糖尿病のある人は、血糖コントロールが不良であると足に関するトラブルを抱えやすい。英国糖尿病学会(Diabetes UK)は、自宅で足を毎日チェックし、少しでも問題があれば医療機関に相談することを勧めている。
足切断を防ぐ新たな治療法の開発
 足潰瘍を治療し足切断を防ぐ新たな治療法の開発も進められている。英国のエクセター大学とバースの大学の研究チームは、足の新たな血管をつくりだす遺伝子を活性化する分子を発見したと発表した。

 足潰瘍などの合併症が起こる原因は、高血糖による代謝異常や血流の障害だと考えられているが、合併症の起こりやすい末梢神経などの組織では、ブドウ糖の取り込みによる糖濃度が深く関わっている。つまり血糖値が高いと、それに応じて細胞内へのブドウ糖流入が増え、細胞や組織にダメージを与え機能障害を引き起こしやすいと考えられている。

 細胞内に取り込まれたブドウ糖は、エネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)の産生に利用される。高血糖によりブドウ糖の量が増えると、この経路だけでは処理しきれなくなり、迂回経路に使われるようになる。そのひとつが「ポリオール代謝経路」で、ブドウ糖はアルドース還元酵素(AR)によってソルビトールへと変換される。

 ソルビトールは細胞内の浸透圧を上昇させ、細胞内の情報伝達に必要な物質の取り込みを阻害する。またARが活性化することで、酵素である「NADPH」(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド燐酸)が大量に消費される。NADPHの減少により、一酸化窒素(NO)や還元型グルタチオンを合成する働きが阻害される。NOの低下は血流の異常や虚血を、還元型グルタチオンの減少は酸化ストレスの亢進をまねく。

 エクセター大学とバースの大学の研究チームは、「デオキシリボース-1-リン酸」と呼ばれる分子がNADPHを活性化、新たな血管をつくりだす遺伝子を活性化させることを発見した。この知見は糖尿病で損傷した足の組織の再生に役立つと考えられている。

 研究チームは今後、癒合していない潰瘍や、傷の血管新生を増やすことにより皮膚修復を刺激するこの分子に焦点を当て研究を続けるという。「この重要な分子が足の血管の形成を刺激することが分かりました。糖尿病による足切断を防ぐ新たな治療法につながる成果です」としている。

More than a third unaware of the dangers of diabetes-related foot ulcers(Diabetes UK 2017年9月28日)
Putting Feet First(Diabetes UK)
Healing molecule discovery could reduce limb amputations for diabetes patients(エクセター大学 2017年10月2日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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