ニュース

2018年07月09日

糖尿病・高血圧は要注意 腎臓学会「CKD診療ガイドライン2018」

 日本腎臓学会は「CKD診療ガイドライン」を改訂した。糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどと関連の深い「慢性腎臓病」(CKD)を、早い段階からくいとめるための対策が考えられている。
 治療のポイントは「病診連携」や「チーム医療」、「集約的治療」を実行することだ。
日本のCKD患者数は1,330万人
 日本腎臓学会(理事長:柏原直樹・川崎医科大学腎臓・高血圧内科学教授)は、6月に開催された第61回日本腎臓学会で、5年ぶりの改訂となる「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を発表した。

 第61回同学会では、CKD診療ガイド・ガイドライン改訂委員会委員長の岡田浩一・埼玉医科大学腎臓内科教授が改訂のポイントを解説した。

 「慢性腎臓病」(CKD)は、腎臓に障害が起こり、機能の低下が慢性化した状態をさす。糖尿病、高血圧などが原因で、メタボリックシンドロームとも関連が深い。

 腎臓病は進行すると末期腎不全に陥り、血液透析や腎臓移植を行わないと生命を維持できなくなる。日本では透析患者数は、現在33万人を超えている。透析の原因となる疾患の1位は糖尿病腎症だ。

 また、軽微な腎機能障害やアルブミン尿・蛋白尿は、末期腎不全にいたる以前であっても、脳卒中や心筋梗塞・心不全などを引き起こすことも分かってきた。

 そこで腎臓病をできるだけ簡便に、早期に発見し対処するために、「慢性腎臓病」(CKD)という概念が確立された。

 超高齢社会を迎えた日本では、「慢性腎臓病」(CKD)の病態は変化している。ガイドラインによると、日本のCKD患者数は推定で1,330万人に上り、成人の約8人に1人を占めるという。

関連情報
CKDは早いステージから治療することが肝心
 腎臓機能が失われてしまうと、治癒は難しくなる。腎臓の状態を元に戻せなくなるので、治療の目的は「進行をくいとめ、遅らせる」「症状を改善する」ことになる。

 慢性腎臓病(CKD)の治療は病気の進行度によって変わる。慢性腎臓病のステージは進行度をあらわすもので、老廃物を1分間にろ過できる量を示すeGFR(推算糸球体ろ過量)の値で分けられる。

 ステージはG1〜ステージG5の5段階に分かれ、ステージG3はG3aとG3bの2つに分かれる。eGFRの値が低いほどステージが進み、腎臓の機能が低下していることになる。

 ステージG1(eGFR90以上)では腎臓はほぼ正常といえるが、高血圧や糖尿病、肥満などのある人はその治療をきちんと行うことが重要だ。

 ステージG2(eGFR60〜89)の段階では生活習慣の改善を行うことで、慢性腎臓病の進行をくいとめたり、遅らせることができる。「喫煙」「暴飲・暴食」「運動不足」「不規則な生活」を改善し、健康診断などで腎臓病のスクリーニング検査(検尿と採血)を年に1回以上、受け続けることが必要だ。

 ステージG3a(eGFR45〜59)やステージG3b(eGFR30〜44)、の段階では、腎臓の機能がかなり低下しているため、「疲れやすい」「血圧が高くなる」「尿が泡立つ」「夜、何度もトイレに行く」「貧血」「むくみ」などの自覚症状があらわれる。生活習慣の改善に加えて、薬物療法が必要になってくる。

 ステージG4(eGFR15〜29)の場合には、腎臓機能はかなり低下している。透析治療を要する重症な腎不全になる危険性が高く、狭心症、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患にかかりやすい状態だ。

 ステージG5(eGFR15未満)の場合には、腎不全の状態に陥り、腎臓が自力でろ過することができなくなる。そのため、透析治療や腎臓の移植が必要となる。
治療では血糖と血圧のコントロールが欠かせない
 なお、糖尿病のある人では、腎症を早期発見するに、尿中アルブミン検査が有効だ。

 アルブミンはタンパクの一種で、腎症のごく早期から尿に漏れるため、この検査によって早期にみつけることができる。ステージG1からステージG3bは、尿アルブミン尿の増加によって、「第1期」(腎症前期、アルブミン/Cr比が30未満)、「第2期」(早期腎症期、同30〜299)、「第3期」(顕性腎症期、同300以上)に分けられる。

 尿中アルブミン検査の結果によっては、まだステージが進行していない段階でも、腎臓専門医・専門医療機関による治療が必要となってくる場合がある。かかりつけ医とよく相談する必要がある。

 糖尿病腎症を予防・治療するために、血糖コントロールが大切だが、血圧コントロールも欠かせない。目標は130/80mmHg未満で、通常の高血圧の治療より厳しい値だ。

 高血圧がある場合には、食事では減塩も必要で、目標は1日6g未満。腎症が進行した場合、タンパク質やカリウムを制限する場合もある。
高血圧の薬で腎臓、脳や心臓を守る
 血圧値をコントロールするために、第一選択の降圧薬である「ACE阻害薬」(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)や「ARB」(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を使う。薬物療法によって、発症初期のGFRの上昇を防ぎ、尿中アルブミンなどの増加や、腎機能の低下を抑えられる。

 高血圧の薬は、血圧を下げることだけが目的ではなく、腎臓、脳や心臓などの臓器を守ることも目的だ。

 糖尿病も腎臓病も初期の段階では自覚症状が乏しい。そのため薬をのむ意味を理解していなかったり、薬に対して誤ったイメージをもってしまうなどで、指示通りに服薬しない患者が多いという調査結果がある。薬はのみ忘れのないよう、きちんとのむことが大切だ。
「集約的治療」が腎症の進展を防ぐ
 糖尿病の治療効果を向上させ、糖尿病患者の生活の質(QOL)を改善するために、糖尿病腎症に含めて、血管合併症の発症・進行を抑える治療を行うことが重要となる。高血糖以外にも、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙習慣などが、血管合併症の発症に悪影響をもたらす。

 そのため、危険因子を1つずつコントロールするよりも、これら危険因子を包括的に管理する「集約的治療」が求められる。

 日本で実施された「J-DOIT3」研究の結果が2017年に発表され、日本の2型糖尿病患者で、集約的治療を行うことで、腎臓病の進行を抑えられることが明らかになった。集約的治療により、腎イベント(腎症の発症・進展)の発症が32%抑えられるという結果になった。

 集約的治療により血管合併症を抑制できることは、海外の研究でも確かめられている。デンマークのステノ糖尿病センターで実施された「Steno‒2」研究では、医療チームによる生活習慣の改善と、治療目標を厳格化することで、糖尿病の血管合併症を抑えられ、死亡リスクも低下することが確かめられた。

 ステージ3やステージ4まで進行したCKDでも、多職種による集約的治療によって、末期腎不全を防げることが示されている。こうした研究は、日本を含む世界中で増えている。
腎臓病の悪化を防ぐための治療目標
 ガイドラインでは、糖尿病のある人は腎臓病の悪化を防ぐために、食事の塩分の制限、運動、禁煙などの生活習慣の改善に含めて、血糖コントロール(HbA1c 7.0%未満)、血圧コントロール(130/80mmHg未満)、 血清脂質のコントロール(LDLコレステロール120mg/dL未満、HDLコレステロール40mg/dL以上、中性脂肪150mg/dL未満)といった治療目標を目指すことが推奨されている。

 なお、日本腎臓学会は今回のガイドラインの改訂に加え、患者および保健師、メディカルスタッフ向けに、平易な内容にまとめた「CKD療養ガイド2018」も準備している。

 同学会は今年2月に、NPO法人「日本腎臓病協会」を発足させた。これまで、日本透析医学会、日本小児腎臓病学会と共同で「日本慢性腎臓病対策協議会」を立ち上げ、日本腎臓財団や日本医師会などとともにCKDの疾患啓発と診療連携の推進に取り組んできた。新たに設立した同協会では、この取り組みをさらに強化するという。

 同学会は「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を、医療や保健、行政のさまざまな分野で活用し、日本の腎臓病診療の改善、腎臓病の克服、国民の健康寿命延伸につなげることを呼びかけている。

日本腎臓学会発作成の診療ガイドライン(日本腎臓学会)
腎疾患対策(厚生労働省)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲