HealthDay News

2025年06月05日

ブタ由来腎臓を移植されていた米国人女性の移植腎を摘出

 遺伝子操作により拒絶反応が起こらないようにした動物の臓器を人に移植する「異種移植」は、移植のための臓器の不足を解決する方法として期待されている。「異種移植」は海外では臨床試験の準備が進められており、日本でも開発が進められている。日本では、臓器移植を希望している人は約1万6,000人に上るのに対し、実際に移植を受けられる人の数は1年間で1,000人未満で、深刻な臓器不足の状況にある。(糖尿病ネットワーク事務局)
孫のOliviaさんとLisa Pisanoさん
(Pisano family/NYU Langone)

 遺伝子編集されたブタ腎臓の移植治療を受けた史上2人目の女性に対して、心臓の合併症が原因による移植腎の摘出手術が実施された。

 この米国人女性、Lisa Pisanoさん(54歳)は現在も入院中で、移植腎摘出後に再び透析治療を受けている。

 47日前に移植された腎臓は拒絶反応を起こしていなかった。しかし移植治療を行った米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン移植研究所の医師らによると、彼女は腎不全のほかに心不全も併発しており、術後に新しい腎臓へ十分な血液を供給できない状態だったという。

 同研究所のRobert Montgomery氏は、「Lisaさんの容態は安定している。彼女が早く家族のもとに帰れることを願っている」と語っている。また同氏はニューヨークタイムズ紙に対して、「Lisaさんは臓器移植の新たな選択肢を生み出す取り組みの先駆者であり英雄だ」とコメントしている。

より良い人生を

 ブタの腎臓移植を受ける前、Pisanoさんは人生の終わりを覚悟していた。心不全や腎不全と、ほかのいくつかの合併症のため、彼女は移植を受ける対象から外されていた。

 「より良い人生を送るチャンスが欲しい」と語っていた彼女は、ついに人工心臓と遺伝子編集されたブタの腎臓の異種移植(動物の臓器を人に使用する移植)によって、新たな命を得た。

 これらの異なる2種類の医療処置が、1人の患者に施行されたのははじめてのケースだという。さらに、遺伝子編集されたブタの腎臓を生きた人間に移植したケースとしては2例目とのことだ。

 Montgomery氏は、「彼女の命を救うことができたのは科学の成果のたまものだ。臓器を必要としている全ての患者のために、信じられないほど多くの人々が取り組んでいる」と話している。

ユニークなアプローチ

 今回の治療では、Pisanoさんの体内にまず人工心臓を植え込み、その数日後、拒絶反応を防ぐため遺伝子編集されたブタの腎臓と胸腺を移植した。

 医師たちは、人工心臓を移植しなければPisanoさんの余命は数日か数週間だったと考えている。しかし一般的に、腎機能低下が慢性的である場合、人工心臓の植え込みの適応とならない。

 NYUグロスマン医学部のNader Moazami氏は、「腎臓移植の可能性がなければ、彼女に人工心臓の植え込みはなされなかっただろう。透析治療を必要とする患者は、人工心臓植え込み後の死亡率が高いからだ」と解説する。

 Pisanoさんへの人工心臓植え込みは4月4日、ブタ腎臓の移植は4月12日のことだった。

臓器不足の解決策

 医師たちは、Pisanoさんは高レベルの抗体を有していたため、人からの臓器移植を受けた場合に拒絶反応が起こる可能性が高く、適合する腎臓がみつかるまでに何年もかかっていただろうと考えている。

 しかし、遺伝子編集されたブタの腎臓を用いることで、Pisanoさんの拒絶反応を回避することが可能となった。また、Pisanoさんにはドナーブタの胸腺も移植された。胸腺は免疫系の教育係のような役割を担っており、その移植によって拒絶反応のリスクがより低下する。

 Montgomery氏は一連の治療を振り返り、「このような遺伝子編集されたブタを繁殖させることも可能だ。より複雑なクローン作成などの操作を必要としないため、臓器不足に対する持続可能かつ適用の拡張も可能な解決策となり得る」と話している。

[HealthDay News 2025年6月5日]

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[ Terahata ]

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