糖尿病と妊娠

2011年08月12日

計画妊娠とは

計画妊娠とは

 糖尿病妊婦にとって最も大きな不安は生まれて来る赤ちゃんが奇形を持っていないかということではないかと思うのですが、これは「予防できます」という話を前回お伝えしました。その予防法が計画妊娠です。

 生まれてくる赤ちゃんの奇形を無くすために血糖コントロールを良くしてから、少なくともHbA1c(グリコヘモグロビン、1〜2ヵ月の血糖平均値)が7%以下になってから受胎することと、母体に糖尿病網膜症や腎症があると妊娠によってこれらは悪化するので、この2つの合併症を進行させないために糖尿病合併症を再チェックし、必要があればきちんと治療し、主治医の許可を得てから受胎するという臨床システムを計画妊娠と呼んでいます。

計画妊娠への道

 私は医師としての道理や糖尿病学を教えて頂いた恩師は、中山光重先生、小坂樹徳先生、平田幸正先生などをはじめとして先輩、友人、知人、患者さんを含め沢山いますが、「糖尿病と妊娠」を教わる恩師は日本にはいませんでした。

 それで研究のためカナダのマックギル大学に留学し、その帰国途上糖尿病と妊娠では世界の最高峰と称されているデンマークのペダセン教授を訪ね、沢山の臨床の実際を教えていただきました。その上先生が真心込めて書かれた糖尿病と妊娠の本「The Pregnant Diabetic Woman and Her Newborn」を頂きました。この本は私にとって生涯のバイブルになっていますが、このなかにplanned pregnancy(邦訳:計画妊娠)がありました。

 ペダセン教授の教えをもとに帰国してすぐ、私は「計画妊娠」と、妊婦治療のために「血糖正常化」いう臨床システムを作り上げました。1975年のことです。この時日本にはまだ計画妊娠という用語は勿論ありませんでした。

発見が遅れやすい若年2型糖尿病

 ヨーロッパやアメリカにおける妊娠可能な年代の糖尿病は1型糖尿病ですから必ず主治医がいて、良いコントロールを守っていれば奇形児の予防はできないことではありません。しかし若い10代でも2型糖尿病が主流を占める国での計画妊娠は非常に大切です。

 2型糖尿病は血糖値200mg/dL以上の高血糖がかなり長く続かなければ症状がでてきません。したがって、無症状のうちに合併症がでてくることもありますし、また妊娠して初めて糖尿病があることを診断され、しかも、網膜症や腎症の糖尿病合併症をもっていることもあるのです。

 こういう状態では奇形児が生まれるばかりでなく、進行した網膜症は妊娠によって著しく悪化します。腎臓の機能が悪くなる腎症では、赤ちゃんの発育が障害され未熟児になり易く、母親は子癇前症といって重篤な状態に陥ります。

 それゆえ、奇形を予防するために妊娠前から良い血糖コントロールを保つことと、妊娠前に網膜症や腎症のチェックを受けてから妊娠をする計画妊娠が役に立つ訳です。

計画妊娠の実情

 私が計画妊娠を始めて、今年で37年になります。計画妊娠を実施して妊娠している人は東京女子医大で1型糖尿病80%、2型糖尿病では約50%前後しか実行されていません。だから奇形が生まれる率が減らないのです。私が女子医大で糖尿病センター長を勤めていた1985年代は1型糖尿病の計画妊娠率は60%、2型糖尿病で僅か40%でした。

 多くの妊婦さんは「妊娠しました。宜しくコントロールをお願い致します」といって紹介されるのが普通でした。今もこのパターンはあまり変わっていないようです。

計画妊娠を学び実行する

 計画妊娠を学習した患者さんからこのパターンを変えていくと、妊娠にまつわる不安は無くなり、問題の無い良い赤ちゃんが生まれることになりましょう。

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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