インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

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Part5 先生たちのSAP体験談 その2
~インスリンポンプの新機能(AHCL)を使って~ 前編

SAP(Sensor Augmented Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。

前編:アドバンス ハイブリッド クローズド ループ(AHCL)機能について

今回のお話は、2023年9月に座談会をおこなった3人の先生による体験談・その2です。前回は、インスリンポンプの新機能「ハイブリッド クローズド ループ(HCL)のお話でしたが、その際にも話題となった、さらに次の世代の機能「アドバンス ハイブリッド クローズド ループ(AHCL)」が2023年11月末から使用開始に。そこで糖尿病専門医であり、自ら1型糖尿病をもつ3人の先生方に再び登場いただき、使用した感想を聞きました。

前回の「先生たちのSAP体験談」はこちら
(SAPなどの用語解説もこちらをご覧ください)

ご参加いただいた先生方

高谷具純 先生
千葉大学医学部附属病院 小児科
高谷先生の座談会「Part1 子どもの成長とSAP療法

小谷紀子 先生
国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科
小谷先生の座談会「Part2 妊娠・出産とSAP療法

加藤 研 先生
国立病院機構大阪医療センター 糖尿病・内分泌内科 科長
加藤先生の座談会「Part3 仕事とSAP療法 成人発症の男性患者さん

用語解説
  • アドバンス ハイブリッド クローズド ループ(AHCL)とは

    AHCL(Advanced Hybrid Closed Loop:アドバンス ハイブリッド クローズド ループ)テクノロジーは、AID療法を支える技術のこと。2023年11月に使用開始となり、基礎インスリンの自動調整と、補正インスリンの自動注入が可能に。

    これまでのHCL(ハイブリッド クローズド ループ)機能との主な違いは、以下の3点。①目標血糖値が100、110、120mg/dlから選択可能(HCLは120mg/dlのみ)。②較正不要。③基礎インスリンだけでなく、高血糖補正のための追加インスリンも自動で注入できる。 
    なお、注意点としては、適応年齢が7歳以上(HCLは2歳以上)であることがあげられる。
  • AID療法とは

    AID(Automated Insulin Delivery)療法とは、CGMで測定されたグルコース値に連動し、自動でインスリンを増減する注入方法。生理的なインスリン分泌を模して、CGMデータを基にインスリンを増減することができる。

AHCL機能を使ってどう感じましたか?

小谷先生

AHCLは、これまでのインスリンポンプのシステムと比べて格段に使いやすくなりました。較正が不要となり、血糖測定を必要とする頻度が著明に減少したため、患者さんのQOL(生活の質)が大きく改善しました。基礎インスリンの自動注入に加えて、高血糖補正のためのインスリンも自動注入されます。目標血糖は、これまでの120mg/dlに加えて、100mg/dl、110mg/dlも選択できるようになったため、妊娠中の患者さんの血糖管理に目標血糖100mg/dlを選択して使用することが可能となり、1型糖尿病をもちながらの妊娠期間中を以前よりも楽に過ごせるようになりました。

高谷先生

AHCLとHCLでは、メーカーが規定している適用年齢に差があります。HCLは2歳以上、AHCLは7歳以上ですね。私の病院では1歳の方はいないので、HCLは全員使っていて、非常に安定しています。AHCLに関しては、今、順々に切り替えていっているところです。

患者さんだけでなく保護者の方の負担も減るという意味では、やはり較正がいらなくなったのはひとつ大きい点です。あと、夜間の血糖管理は、HCLだけでカバーできないときもあるので、AHCLがどのくらいやってくれるのかをこれからしっかり見ていきたいところです。夜間の血糖管理をポンプに任せられれば保護者も安心して夜寝られますし、小児の患者さんのQOLも非常によくなると思っています。

加藤先生

較正に関してはおふたりが言っていただいた通りですね。血糖測定を、最初にオートモード(最新モデルでは「スマートガード」)を開始するときに1回行って、その後ほぼしないでいけるのは、気持ちの面でもとても大きいです。インスリンポンプに求められるときだけ、測定した血糖値を入れたらいいということで。私と患者さんたちとの間では、もう血糖測定で血を出す時代は、ほぼ終わったという話をしています。インスリンを打つ時の針よりも、血糖測定の方が痛い時代、血を出す機械で痛い思いをして血糖値を見る時代がほぼ終わりかけているのだな、という実感を初めて得たというような変化です。

細かい人は、従来のやり方でも血糖測定をして、すり合わせをするのですよね。AHCLの値がやはりまだ信用ならないという方は、答え合わせみたいにしてくださる方がいます。ですが、それを行ってもそれほど変わらないということで、徐々に血を出す測定をしなくなっていく患者さんの変化を見て、そうした時代はほぼ終わりかけたなという実感をしているところです。その点で心理的な負担も、とても軽くなっていると思います。

小谷先生

ほかのよい点は、セーフガードが維持されやすいところです。ひとつ前のモデルは、第1世代のオートモードのため、いろいろな条件で血糖推移の異常を判断するとオートモードが終了してしまうアルゴリズムになっていました。たとえば高血糖が続くと、「要血糖値」というアラートが出て血糖値の確認を求められ、対応できないとオートモードが終了してしまいます。そのため、しばしばインスリンポンプの画面を確認して対応する必要がありました。

最新のシステムでは、セーフガードが終了しにくいアルゴリズムになっています。そのおかげでインスリンポンプをしばしば確認することがなくなりました。必要時以外は血糖を測らなくてよいですし、インスリンポンプを頻回にチェックする煩わしさもなくなりました。

1型糖尿病をもつ子供たちでは、学校での過ごし方が変わったケースもあります。学校の昼食時にインスリン量を調整するのは簡単ではないため、低血糖を起こさないことを優先し、食後の高血糖はある程度は許容しなければならない、とういう状況でした。しかし最新のモデルでは、高血糖補正のためのインスリン自動注入が食後高血糖を改善してくれるので、いい血糖値で夕方自宅に帰ってくることを経験するようになりました。ご両親からも安心と喜びの声が聞かれます。

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機能がよすぎるがゆえの注意点とは?

小谷先生

AHCLを使っていくうちに注意しなければと思ったのは、すごくよくやってくれるので、打ち忘れやすくなることです。クッキー1枚食べたぐらいでは何もしなくても大丈夫ということを知ると、食前のボーラス(追加インスリン)を忘れがちになります。今は、私自身も自分のインスリンポンプを見ることはとても減り、本当に楽になりました。ですが、低血糖をモニターすること、食事ボーラスを忘れないこと、などの注意は引き続き必要です。

機能が進化したインスリンポンプを使用している今では、インスリンポンプに頼ることが多くなりました。そうなると、なんらかの理由でポンプが使えなくなった時に、インスリンペンで何単位打てばいいのかがわからなくなってしまう、ということが起きます。

震災時などにも対応ができるように、この機会に患者さんたちには、インスリンポンプのレポートや履歴の見方を確認し、自動で注入される基礎インスリン量や、持効型インスリンの単位数を把握できるようにしていただだいています。自動注入される基礎インスリンがボーラスの不足分を補っている場合は、レポートや履歴に記録されている基礎インスリン量は本来必要な基礎インスリン量よりも多くなるので、どの程度減量するのが安全か、ということもお伝えしておく必要があります。

高谷先生

小児はインスリン効果値が成人に比べて高く、少しのインスリンの量の違いで血糖が大きく変動するため、AHCLとインスリンペンでのインスリン量の違いに、より注意する必要があります。それに、AHCLを使えていても、災害時に活動量が増え、インスリン感受性が高くなることで低血糖になる可能性もあります。

通常時でも日本の小児は、ポンプが想定している設定よりもインスリンが効きやすい子が多い印象で、実際、AHCLの補正で低血糖になる子もいます。ですから、こうした認識を含め、低血糖を放っておいて重症低血糖になるのをいかに避けるかということを、患者さんに意識付けしていく必要があると思っています。

小谷先生

災害時も困らないように、患者さん自身が何をしたらよいかを知っておいていただく必要がありますね。インスリンポンプを使っている人は、その一式全部を持ってきていない前提で考えておきたいです。インスリンポンプを使えるだけ使っても2~3日しかもたないから、そうなったらインスリンペンに切り替えなければなりません。インスリンペンについても、持効型溶解インスリンと超速効型インスリン、注射針も十分あるというわけにはいかないので、足りない前提での工夫が必要です。

持効型溶解インスリンしかなければ、持効型溶解インスリンを途切れないように打ちます。食事後に血糖が上がるのは、ある程度許容しなければなりません。速効型インスリンしか手元になければ、食べるときに打つのに加えて、基礎インスリンの代替として3時間に1回程度、身体からインスリンを切らさないように打っておきたいです。どの程度の単位数が必要か、などについても事前にシュミレーションできているとよいです。

災害時は血糖測定もできなくなるかもしれません。ある程度の高血糖は許容し、ケトアシドーシス* を起こさないようにしてこのような状況下を乗り切る必要があります。そのうちに必ずどこかでインスリンが手に入るようになるので、医師や看護師がいるような場所に目を光らせて手に入れる働きかけをすること、「手に入る場所があったら教えてください」と自ら発信すること、と患者さんにお伝えしています。

*糖尿病ケトアシドーシスは、インスリンの欠乏によって起こる急性の合併症。 喉の乾き、多尿、全身の倦怠感などが急激に発症し、悪化すると呼吸困難や嘔吐、腹痛、意識障害などに陥る。

加藤先生

インスリンペンの指導をしっかりしておくことは大事です。プラス、基本的なインスリンポンプの使い方の指導も必要だと思いました。たとえばルート交換を3日に1回するとか、同じところにカニューレ(柔らかく細いチューブ型の針)を刺していたらいずれ硬くなって刺さらなくなってしまうし、インスリンの効きが悪くなるということもあるので、刺す場所を変える指導、肌を守る指導など。インスリンポンプがこれだけよくなったので、患者さんには長く安全に使っていただくために基本的なことを振り返って、しっかり指導していく必要があります。せっかくのよい治療法も、うまく使えなくなると残念ですので。

それから私がもうひとつ気にしているのは、AHCLは血糖管理の精度も今までのインスリンポンプ療法より格段によくなっていますので、よすぎるがゆえのひとつの問題として、合併症が進んでいる患者さんにここまで急激に血糖をよくして大丈夫か、ということがあります。AHCLの導入前に、合併症が落ち着いているかどうかを非常に気にしておかないと、急速な血糖マネージメント改善のために不安定な合併症が進行することが懸念されます。

1型の人は、膵臓移植などで血糖値が非常によくなると、合併症がひどくなる場合があると言われているので、それに近い症例が今後出てくる可能性を考えておかなければいけません。ヘモグロビンA1cの値が9、10%からいきなり6、7%というような症例が出るかもしれませんので、たとえば目標血糖を100mg/dlにせずに120mg/dlにしておくとか、いきなりAHCLにせずにHCLから開始するなどして段階的に取り入れていくとか、いろいろな経験のある私たちが配慮して導入していかなければと思います。AHCLは、それだけ大変よい治療法で、血糖管理を劇的に改善する治療という認識があります。

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この座談会は2024年1月30日に実施しました。

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