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海外の糖尿病事情 5 [ キューバ ]

2005年01月

DITN 2005年1月5日発行号掲載:「海外糖尿病事情」より

医療スタッフ向けの情報紙『DITN(DIABETES IN THE NEWS)』(発行所:メディカル・ジャーナル社)に連載された「海外糖尿病事情」よりご紹介します。
 キューバというと多くの日本人は、カストロ首相に率いられて達成されたキューバ革命、今なお革命家として影響力のあるチェ・ゲバラ、キューバ危機、野球を初めとするスポーツ大国、マンボなどリズミカルな音楽、美しいカリブの海といったことを思い浮かべると思います。
 キューバは、多くの国々で共産主義体制が崩壊した中、現在でも共産主義体制を維持している数少ない国の一つです。

 カストロ首相の事実上独裁体制の下、共産主義体制を採る同国では教育・医療について、すべて公的負担でカバーされ、無料で受けられることが基本となっています。医療費について自己負担が無く無料というのは、定期健診、インスリンや血糖降下薬を始めとする薬代、血糖測定に必要な器材など保険でカバーされるものの、月々の治療費用を自己負担しなければならない日本の糖尿病患者にとって羨ましく感じられるかもしれません。

 しかしながら、同国のある糖尿病専門医によれば、共産主義の理想とは裏腹に、また米国による経済制裁の影響もあり、多くの物資が不足状態にあり、インスリンも血糖自己測定機器類も常に不足状態にあります。無料で医療サービスをうけることが保証されてはいるものの、受けることのできるサービスの質という点からすると、決して羨ましく思えるレベルでは無いと思われます。事実、不足しているインスリン・血糖測定器類を補うためにオーストラリアの糖尿病支援団体であるIFL(Insulin For Life)にも支援要請が来ている状態です。

 因みに入手可能なデータでは、キューバの糖尿病有病率は、1型で0.0193%、2型(成人糖尿病有病率)8.6%で、糖尿病患者の存在を無視できないことが伺えます。

 仮に日本の糖尿病患者に「どちらが良いか」と尋ねれば、たとえ月々の保険料を支払い、3割自己負担しなければならない日本の糖尿病治療であっても、インスリンも血糖自己測定機器及びそのテストチップも常に手に入れることができる日本の医療システムを選択すると思われます。

 少年時代にキューバから米国へ移住したアメリカ人の友人の話では、共産主義前と現在では、国民性も大きく異なってしまったということです。彼が移住したころのキューバ系住民は、共産主義体制が始まってまだ間も無く自由を求め米国へ亡命し、いわゆる移民として、いわゆる日本で言う3K労働・単純不熟練労働に従事し、一生懸命米国で生きるために頑張ったということですが、共産主義体制が続いた後の亡命者達は、共産主義体制の下で全てのものは国から与えられるという感覚が染み付いてしまい、仕事をしなくても米国のような豊かな生活が国から保証されるものと思い込んでしまっているため、彼が米国へ移住したころのキューバ系米国人とここ数年に米国へ移住したキューバ系米国人との間には、思想の違いから摩擦が生じているということです。

 あまり政治的な話題に言及すると、主旨から脱線してしまいますが、今、イラクを初めとする国々で反米感情が高まりつつあります。反米政策による経済制裁を受けているがために苦しまなければならない弱い立場の人々が出てくる事実を示しているのがキューバと言えるでしょう。そして共産主義の理想と現実。人間の性質ということまで、考えさせられる問題となります。

 医療の完全な平等を目指して公的負担とすべきか、格差が生じる問題は残る個人負担と競争原理の導入も含めて、質の良い医療を受けることの出来る可能性を残すべきかを考えさせられる問題だと思われます。\\n


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