ニュース

2013年05月23日

「カーボカウント」は誤解されている 極端な糖質制限に注意

第56回日本糖尿病学会年次学術集会
 短期間に体重が減少し、食後高血糖を改善するとされる「糖質制限食」は危険がともなう。また、「カーボカウント」と混同して理解されているおそれがある――第56回日本糖尿病学会年次学術集会(5月16〜18日、熊本市)のシンポジウム「糖尿病医療における食事療法の課題」では、「糖質制限食」の問題点と、糖質をコントロールする具体的指針といえる「カーボカウント」の功罪をめぐり議論が行われた。
カーボカウントと糖質制限食の違い
 糖尿病治療のための食事療法は、体重管理を目的とした「エネルギーコントロール」と、各種栄養素の補給を目的とした「栄養バランス」が柱となり、『糖尿病食事療法のための食品交換表』が活用されている。

 一方で、血糖コントロールに視点をおいた食事療法として注目されているものに「カーボカウント」がある。この食事管理方法は、1型糖尿病患者を対象とした大規模介入研究「DCCT」に用いられ、治療効果が実証されている。

 食物にはさまざまな栄養素が含まれているが、食後の血糖上昇の9割は炭水化物(糖質)の量に影響される。炭水化物は消化・吸収が早く、血糖値を大きく上昇する因子となる。摂取する炭水化物の量を把握し調整することは、食後の血糖管理に有用であるというのが、「カーボカウント」の基本的な考え方だ。

 「食事中の糖質量に応じたインスリン分泌促進を生じることで、食後の血糖値上昇を生理的に抑制するインクレチンの作用は、体の内因性に備わったカーボカウントの機構とみることもできる。多くの糖尿病患者ではこの作用が減弱しており、食事中の糖質による血糖値の影響を受けやすくなっている」と杏林大学糖尿病・内分泌・代謝内科の石田均教授は指摘する。

 どのような食品に炭水化物が含まれているかを理解し、食品に含まれる炭水化物の量を把握し、それに応じた血糖変動パターンを理解するというカーボカウントは合理的な考え方といえる。

 ただし、カーボカウントの重要なポイントは、必要な炭水化物を血糖コントロールを乱すことなく上手に摂取することで、「炭水化物を制限する」という意味ではない。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、炭水化物の1日摂取量は「総エネルギーのエネルギー比率で少なくとも50%以上であることが望ましい」とされている。

 栄養素のうち糖質のみを制限する「糖質制限食」が関心を集めており、「低糖質食」、「ローカーボダイエット」「低インスリンダイエット」など、さまざまな呼称がある。しかし、今年3月に日本糖尿病学会は「現時点では糖尿病患者に糖質制限食は勧められない」とする見解を発表した。「安全性などを担保する証拠が不足している」というのが理由だ。極端な糖質制限は、全死亡率、心筋梗塞などのリスク上昇につながるという報告も発表された。

 「現状では、炭水化物摂取量の下限に関するコンセンサスは十分に得られていない。極端な糖質制限に走ることのいなよう留意すべきだ。それによる悪影響に関する報告が相次いでいる」と、石田教授は強調する。食事に含まれる炭水化物だけを管理するのではなく、タンパク質と脂質の量や質にも配慮することが必要だという。

極端な糖質制限は危険がともなう
 村上文代・安田女子大学家政学部管理栄養学科教授は、いくつかの海外の検討を紹介し、糖質制限食の全身への影響について考察した。多くの肥満をともなう2型糖尿病症例を対象とした臨床試験や長期にわたる疫学調査の結果では、炭水化物を制限する食事を長期間続けると、心筋梗塞や脳卒中のリスクはむしろ高まるという。

 糖質制限食で必要なエネルギーを確保しようとすると、必然的に蛋白質・脂質の摂取量が増加する。飽和脂肪酸や塩分の摂取量が増えるだけでなく、食物繊維の不足、炭水化物を多く含む食品に含まれるビタミンやミネラルが不足しやすくなる。タンパク質分解産物は尿素となり、腎臓を経て尿中に排出される。タンパク質の過剰摂取は腎臓に負担をかけ、腎機能の低下につながるおそれがあるという。

 篁俊成・金沢大学医薬保健研究域医学系准教授は、糖質制限食により生じる「ケトン体」の産生増加(ケトーシス)について言及した。ケトン体とは、脂肪を分解して肝臓で作られ、血液中に放出されるアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸などのこと。ケトン体は骨格筋、心臓、腎臓などでエネルギー源となるが、蓄積すると体液が酸性に傾く「ケトアシドーシス」という危険な病態におちいる。

 エネルギー補給のためにブドウ糖よりも脂質を利用しているときにケトアシドーシスは起こりやすくなる。極端な糖質制限を行うとケトン体が増えるおそれがあるが、どの程度増えると危険なのかはっきりとわかっていない。篁准教授は糖質制限食によってもケトン体産生のリスクが高まらないレベルは、糖質150g/日が一応の目安になるだろうという見解を示した。

 本田佳子・女子栄養大学栄養学部医療栄養学科教授は「カーボカウントは、炭水化物に絞って管理する方法なので、理解しやすいメリットがある反面、市販されている食品の栄養成分表示を考えると、炭水化物量を把握する条件に課題が残る」との考えを示した。

 カーボカウントを『食品交換表』と連携させて管理を行うことには多くのメリットがあり、「何をどれだけ食べると血糖値がどれだけ上昇するか」を考えて、食後血糖値を予測した食事管理を行う必要があるという。

 高橋和眞・岩手医科大学医学部糖尿病代謝内科准教授は、カーボカウントの功罪について発表。カーボカウントの利点は、制限されてきた食品の選択自由度が増すことや、患者が熟練することで「自己管理ができている」と感じられるようになることだが、一方で「1型糖尿病における炭水化物摂取量と追加インスリン量とのマッチングのみに着眼し、多く食べただけ多くインスリンを注射する治療法」と誤解されることが少なくないと指摘。

 カーボカウントでは、食事中の炭水化物量をはかり、許容範囲ないの炭水化物を規則正しく摂取することをトレーニングする(レベル1)、食品、薬物、身体活動度が血糖値にどのように影響するかを学び、これらの要因をコントロールすることで血糖値を適正化することを学ぶ(レベル2)という手順を踏む必要があるという。

第56回日本糖尿病学会年次学術集会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲