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2019年01月24日

運動が糖尿病による死亡リスクを低下 座ったままの時間を減らして運動を

 1日のうちに座っている30分間を軽い運動に置き換えるだけで、死亡リスクが大きく低下することが分かった。
 ウォーキングなどの運動は、アンチエイジングの最良の手段になるという研究も発表された。
 「糖尿病のある人では、運動を続けることで健康に生きられます」と専門家は協調している。
「座る代わりに運動」で死亡リスクが低減
 座ったままの姿勢で、体を長時間動かさないでいることは、体にとって大きなダメージになる。座ったままの時間は健康上のリスクになる。

 WHO(世界保健機関)によると、運動不足は死亡リスクを高める4番目の危険因子だ。世界の成人の4人に1人が運動不足だ。

 しかし、立ち上がって体を動かすだけで、どんな運動でも、またどのような強度であっても、死亡リスクを最大で35%減少することができるという研究を、米国のコロンビア大学が発表した。

 研究の対象となったのは、地域住民を対象に心臓病や脳卒中の危険因子を調べる目的で行っているコホート試験「REGARDS研究」に2009〜2013年に参加した45歳以上の男女7,999人。

 参加者は活動量計を4日以上装着し、1日の運動量を計測された。参加者の2017年までの死亡率が追跡して集計された。

 その結果、もっとも死亡リスクが低かったのは、座ったまま過ごす時間が30分を超えず、頻繁に動き回る生活スタイルを続けている人であることが判明した。

関連情報
1分や2分でも運動の効果はある
 さらに、1日のうちに座っている30分間を軽い運動に置き換えるだけで、死亡リスクが17%下がることが分かった。さらに中程度から激しい運動に置き換えれば、運動の効果は2倍に跳ね上がり、死亡リスクは35%低減した。

 運動をする時間が1分や2分といった短い場合でも、運動の恩恵を得られることも分かりました。もっともリスクが高いのは、まったく運動をしないことです」と、コロンビア大学医療センターのキース ディアス氏は言う。

 1日に消費するエネルギーで大きな割合を占めるのは、日常生活でのこまめな動きだ。運動が苦手な人や、運動をしたくても忙しくてできない人などは、日常生活の中でこまめに動くことで、エネルギー消費を増やせる。

 たとえば、家では「掃除をする」「子どもと遊ぶ」「車を使わないで歩く」などを心がけ、会社でデスクワーク中心の人は、「階段を使う」「コピーは自分でとる」「休憩時間に体を動かす」などを習慣化すると、長期的に運動量を増やすことができるという。
運動プログラムは費用対効果が高い
 糖尿病の大半を占める2型糖尿病は、運動や食事などの生活スタイルと関連が深い。糖尿病を予防・改善するために運動療法が必要だ。

 過去1〜2ヵ月の血糖の平均的な状態を表すHbA1cが7%を超えると、糖尿病合併症のリスクが高くなる。糖尿病と診断されると、HbA1c7%未満を維持することを目標に治療が開始される。

 運動をすると、血中のブドウ糖がすぐに消費され血糖値が下がり、運動を習慣として続けると、ブドウ糖の量を調整するインスリンが効きやすい体質になる。

 運動により糖尿病のある人のHbA1cは0.5%以上下がり、運動習慣のある人は運動不足の人に比べ糖尿病になるリスクが3割近く低くなるという報告がある。

 運動を習慣化することで、糖尿病による死亡リスクが低下するという研究が、欧州心臓病予防学会(EAPC)で発表された。「糖尿病の運動プログラムは費用対効果の高い治療法です」と研究者は強調している。
運動が糖尿病による死亡リスクを低下
 心血管系の合併症を発症する2型糖尿病患者は多く、糖尿病のある人はそうでない人に比べ、死亡リスクが2倍に上昇するという報告がある。

 しかし、運動を日常生活に取り入れ、達成できそうな目標を設定し、その目標を達成するための個別の運動プログラムを実行すれば、糖尿病のある人は健康な人と同じように長生きできるという。

 「2型糖尿病のある人は、より良い血糖コントロールを実現し、心臓の健康を改善するために、運動療法の処方を受けるべきです。また、医師や医療スタッフは、患者さんのやる気を引き出すための実践的な方法を学ぶべきです」と、オランダのマキシマ医療センターの心臓病専門医であるハラルド ケンプス氏は言う。

 ケンプス氏よると、患者の生活スタイルや個人的な好み、運動に関連するリスクなどに配慮して、運動プログラムを作成することが望まれる。スマートフォンのアプリを使ったり、インターネットを使った遠隔医療も効果的で、患者と医療者が双方向的に情報を共有することも役立つという。
ウォーキングがミトコンドリアを回復
 ウォーキングなどの運動により高血圧が改善し、中性脂肪値も下げられる。心肺機能も高められる。ウォーキングには気分を高め、不安やうつを軽減し、疲労による痛みを減らす効果もある。

 米国のメイヨークリニックの研究によると、運動にはそれらに加え、老化プロセスを遅らせたり、若い頃と同じくらいに戻す働きがある。

 身体にある細胞の中にミトコンドリアという細胞小器官がある。ひとつの細胞の中にミトコンドリアは数百個程度あり、細胞が生きるのに必要なエネルギーを産生している。ミトコンドリアは全身の細胞にあり、これに問題が生じると細胞の働きが悪くなる。

 2型糖尿病の原因のひとつは、膵臓のβ細胞の働きが低下し、血糖値を下げるインスリンが出なくなることだ。運動不足、加齢、肥満などで生じるミトコンドリアの機能低下は、インスリンを分泌するためのエネルギーの不足や、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性に関わっていると考えられている。

 ウォーキングなどの運動により、加齢にともなうミトコンドリアの障害を打ち消すことができる。65〜80歳の高齢者を対象とした研究では、ミトコンドリアの機能を70%も向上でき、高血圧、高血糖、肥満も改善できることが明らかになった。
「インターバル速歩」が効果的
 「運動プロクラムは、体の老化のプロセスを遅らせる最良のものです。ウォーキングなどは、座ったままの運動不足の生活により生じた障害を打ち消す、理想的な解毒剤となります」と、メイヨークリニックのスリークマラン ナイア氏は言う。

 ナイア氏が勧めるのは、ゆっくり歩きと早歩きを数分間ずつ交互に繰り返す「インターバル速歩」だ。通常のウォーキングより効果が高く、ジョギングほどきつくないので、体力が少ない人にも向いている。

 ゆっくりとした歩行と速歩を繰り返し、合わせて1日10分以上行い、週の運動時間を150分に増やすことが勧められる。速歩の時には最大体力の70%を使うが、ゆっくりとした歩行をはさんで、休みながら行うことで、消費エネルギーと筋肉への負荷、全体の歩行時間を無理なく増やすことができる。

 「ウォーキングによる恩恵は、身体的、心理的、そして社会的な幸福を引き上げ、あらゆる健康状態を補完するものになります」と、ナイア氏は言う。

Physical Activity, Any Type or Amount, Cuts Health Risk from Sitting(コロンビア大学 2019年1月14日)
Potential Effects on Mortality of Replacing Sedentary Time With Short Sedentary Bouts or Physical Activity: A National Cohort Study(American Journal of Epidemiology 2018年12月14日)
Physical activity reduces mortality in patients with diabetes(欧州心臓学会 2019年1月15日)
Exercise training for patients with type 2 diabetes and cardiovascular disease: What to pursue and how to do it. A Position Paper of the European Association of Preventive Cardiology (EAPC)(European Journal of Preventive Cardiology 2019年1月14日)
How exercise -- interval training in particular -- helps your mitochondria stave off old age(Cell Press 2017年3月7日)
Enhanced Protein Translation Underlies Improved Metabolic and Physical Adaptations to Different Exercise Training Modes in Young and Old(Cell Metabolism 2017年3月7日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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