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2019年12月20日

見逃したくない検査値「non-HDLコレステロール」 糖尿病の治療は脂質管理も大切

 健診で「non(ノン)-HDLコレステロール」という値をご覧になったことがあるだろうか?
 実はこのnon-HDLコレステロール値は、動脈硬化の進行を抑えるために重要な意味をもつ。
 40歳を過ぎた人が、この値を下げる対策をすると、年齢を重ねてから大きな恩恵を受けられることが分かってきた。
健診では「non-HDLコレステロール」にも注目
 脂質異常症は、コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)などが異常な値になる病気だ。

 悪玉のLDLコレステロールが増え過ぎると、動脈硬化が進行しやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが上昇する。善玉のHDLコレステロールが低かったり、中性脂肪が高い場合にも、動脈硬化性疾患の発症リスクが高まる。

 日本動脈硬化学会は、LDLコレステロール値が140mg/dL以上である場合、HDLコレステロール値が40mg/dL未満、中性脂肪(トリグリセライド)値が150mg/dL以上である場合に、脂質異常症が疑われるとしている。

 さらに、現在は「non(ノン)-HDLコレステロール」という値が特定健診の項目に加えられている。non-HDLコレステロールの値は脂質異常症の診断基準にも含まれている。

 日本動脈硬化学会のガイドラインでは、170mg/dL以上であれば「高non-HDL-C血症」、150~169mg/dLは「境界域高non-HDL-C血症」と診断される。

 特定健診にもnon-HDLコレステロールの項目が導入され、動脈硬化の指標となる血中コレステロールのバランスがより正確に調べられるようになった。検査でコレステロールが正常だった人も、non-HDLコレステロールでは異常となる場合がある。いまいちど健診結果を見直してみよう。

関連情報
動脈硬化を進行させるnon-HDLコレステロール
 non-HDLコレステロールは、総コレステロールから善玉のHDLコレステロールを引いたもの。血液中にはLDLコレステロールとは別の悪玉がひそんでおり、それらを含めたすべての悪玉の量をあらわすのが、non-HDLコレステロールの値だ。

 non-HDLコレステロールは、悪玉のLDLコレステロール以外に、中性脂肪が含まれるリポタンパク、脂質異常によりあらわれるレムナントなどを含んだ、動脈硬化のリスクを総合的に知ることのできる指標として注目されている。

式であらわすと――
non-HDLコレステロール =[総コレステロール]-[HDLコレステロール]
となる。

 とくに中性脂肪が高い人では、LDLコレステロールだけではなく、non-HDLコレステロールの値もチェックすることが望ましい。

 LDLコレステロールとnon-HDLコレステロールの両方の目標値を達成すると、動脈硬化性疾患のリスクがもっとも低くなるという報告がある。

 また、LDLコレステロールは空腹時に測らないと正確な値が出ない場合があるが、non-HDLコレステロールは空腹時かどうかに左右されずに測定できるという利点もある。

 糖尿病の人のnon-HDLコレステロールの管理目標は150mg/dL未満で、心筋梗塞などのリスクのある場合は130mg/dLと厳しくなる。
40歳を過ぎたらコレステロール値に注意
 コレステロール値の異常は、男性は40~50歳くらいから、女性は閉経を迎える頃から増えはじめる。放置していると、動脈硬化が進みやすくなる。

 動脈硬化が進展すると、心筋梗塞や心不全、脳梗塞、慢性腎臓病(CKD)、足などの血管がつまる疾患(閉塞性動脈硬化症)などのリスクが上昇する。

 動脈硬化のリスクの高いのは、高血圧や脂質異常症の人、血糖値が高い糖尿病や耐糖能異常のある人、喫煙者などだ。

 とくに糖尿病のある人では、動脈硬化を防ぐために、糖尿病の発症早期から、血糖値に加えて脂質値と血圧値を包括的にコントロールする必要がある。

 糖尿病で高血糖の状態が続くと、血管の壁が損傷されコレステロールが蓄積しやすくなる。この蓄積したコレステロールは血管内にプラークという塊をつくり、動脈の壁が固くなる。プラークが蓄積することで動脈の血液の流れる部分が狭くなり、血液が流れにくくなったり塞がれたりする。

 動脈硬化を予防するために必要なのは食事改善だ。年齢や性別、身体活動量、体重などの条件によって必要なカロリー・栄養はさまざまだが、個々に合った長続きする食事法が望ましい。また、運動を習慣として行うと、善玉のHDLコレステロールが血液中に増え、動脈硬化を進みにくくなる。

 体重コントロールも効果的だ。内臓まわりに脂肪がたまると、肥大化した内臓の脂肪細胞から血管を傷つける物質が分泌される。すると、血管に炎症が起こり、動脈硬化が進行する。3~6ヵ月で体重を3%減らすだけで、血圧や血糖値の低下などさまざまな効果を期待できる。

 食事や運動だけで十分な効果を得られない場合は、薬物療法が始められる。スタチンと呼ばれる薬は、肝臓で作られるコレステロールの量を少なくしたり、血管に起こっている炎症を抑える作用があり、動脈硬化に対してよく使われている。
45歳未満から治療を始めることが重要
 最近の研究で、コレステロール値が高い人は、若いうちから治療を始めると、齢を重ねてからの心筋梗塞や脳卒中のリスクが下がることが明らかになった。

 ドイツのハンブルグ大学心臓・血管センターのフェビアン ブルンネル氏らの研究チームは、19ヵ国の40万人近くの男女を1970~2013年に追跡調査したデータを解析した。

 その結果、年齢を重ねるにつれnon-HDL-C値が高くなると、心血管疾患(CVD)のリスクが上昇することが明らかになった。

 30年間でnon-HDL-C値が100mg/dL未満から220mg/dL以上に上昇すると、心血管イベント発生率は女性では7.7%から33.7%へ、男性では12.8%から43.6%へと増加することが分かった。

 さらに、non-HDL-C値の高い人が治療を受けて半分に下げると、心疾患リスクが低下することも明らかになった。45歳未満で、開始値が143〜186mg/dLで、心血管のリスク因子がある場合、non-HDL-C値を半分に低下することで、心疾患リスクは男性で29%から6%に、女性で16%から4%に、それぞれ低下するという。

 「年齢を重ねてから心筋梗塞や脳卒中などを発症するリスクを減らすために、コレステロール値が高くなっていると分かったら、45歳未満から治療を始めることが重要です」と、ブルンネル氏は指摘している。

'Bad' cholesterol can be deadly in otherwise healthy people(米国心臓学会 2018年8月20日)
生活習慣病と動脈硬化との関係(日本動脈硬化学会)
冠動脈疾患発症予測ツール「これりすくん」(日本動脈硬化学会)
The Lancet: First long-term estimates suggest link between cholesterol levels and risk of heart disease and stroke(Lancet 2019年12月5日)
Application of non-HDL cholesterol for population-based cardiovascular risk stratification: results from the Multinational Cardiovascular Risk Consortium(Lancet 2019年12月3日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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