がんばりすぎない糖尿病ライフ
糖尿病をもつ人へ贈る「住宅ローンの現実と対応法」
糖尿病と付き合っていると、血糖値や薬のことだけでなく、思わぬところで病気の存在を意識することがあります。
その一つが、住宅ローンです。
家を買おうと思ったとき、多くの人はまず物件価格、頭金、金利、返済期間、毎月の返済額などを考えます。ここまでは、糖尿病があってもなくても同じです。
ところが、住宅ローンの話が進んでいくと、「団体信用生命保険」、いわゆる団信というものが出てきます。そして、この団信が、糖尿病のある人にとって大きなハードルになることがあります。
住宅ローンと団信
住宅ローンには、大きく分けて二つの審査があります。
一つは、お金を返していけるかを見るローンの審査です。年収、勤務先、勤続年数、借入額、他の借金、物件の価値などが見られます。
もう一つは、団信に加入できるかを見る保険の審査です。こちらでは、糖尿病、高血圧、脂質異常症、心臓病、腎臓病、がん、精神疾患などの健康状態が関係してきます。
団信とは、住宅ローンを借りた人が亡くなったり、所定の高度障害状態になったりしたときに、ローン残高が保険で返済される仕組みです。いわば、住宅ローンに付いてくる生命保険のようなものです。
家族にとっては、とても大きな保障です。もしものことがあったときに、住宅ローンだけが残ってしまうリスクを減らしてくれます。そのため、多くの住宅ローンでは、団信への加入が重要になります。
ただし、団信は保険です。そのため、加入にあたっては健康状態の告知が必要になります。
糖尿病の場合、多くは、現在糖尿病で治療中であること、治療内容が食事・運動療法のみなのか、内服薬を使っているのか、インスリンを使っているのか、直近の血糖値やHbA1c、合併症の有無、入院歴などを記載することになります。
団信の審査基準がよくわからない問題
ここで問題になるのが、団信の審査基準がわかりにくいことです。
糖尿病がある、あるいはインスリンを使用している、と申告しただけで加入を断られるケースもあります。もちろん、最終的な判断は保険会社や金融機関、個別の病状によって変わりますが、申請する側からすると「何が理由でだめだったのか」がはっきりわからないことが大半です。
これが、余計に不安を大きくします。
せっかく貴重な平日日中に有休をとって銀行を回っているのに、いくつかの銀行で断られてしまう。すると、だんだん気持ちが沈んできます。
- 「糖尿病だと住宅ローンは組めないのか」
- 「薬を飲んでいると団信に入れないのか」
- 「インスリンを使っていたら無理なのか」
- 「合併症があるとだめなのか」
- 「正直に告知したら落とされるのではないか」
など・・・。
こうした不安が積み重なって、家の購入そのものをあきらめてしまう人もいます。
でも、住宅ローンや団信の審査に落ちたとしても、それは人格を否定されたわけではありません。
病気のある人にとって、保険やローンの審査はときに冷たく感じられます。数字や病名だけで判断されたように感じて、落ち込むこともあると思います。ただ、それはあくまで審査上の判断です。その金融機関や保険会社の基準に合わなかった、というだけです。
そこで全部終わりにしてしまうのは、少しもったいないと思います。
決してあきらめない
もし通常の団信が難しい場合でも、選択肢がすべてなくなるわけではありません。
まず一つ目は、同じような状況の糖尿病をもつ先輩に、住宅ローンについて話を聞いてみることです。
筆者自身、大手メガバンクを中心に実に10行ほど銀行を回りました。しかし、いくつも病状告知の段階で断られ、ワイド団信なども検討していました。そんな中で、糖尿病をもつ知人から「この銀行がよかった」という情報を聞きました。そして、実際にその銀行で通常の団信に加入することができました。
この経験からも、自分と近い立場の人とつながっておくことは、こういう場面で意外と役に立つと感じています。
地域の患者友の会でもよいですし、SNSなどを通じて、信頼できる知り合いを作っておくのも一つの方法です。
二つ目の選択肢は、ワイド団信です。ワイド団信は、健康上の理由で通常の団信に入りにくい人向けに、引受基準を広げた団信です。糖尿病や高血圧などの慢性疾患がある人でも、条件によっては加入できる場合があります。
ただし、ワイド団信にも審査はあります。誰でも必ず入れるわけではありません。また、一般的には金利が上乗せされることがあります。つまり、「ワイド団信に入れるかどうか」だけでなく、「金利上乗せを含めても無理なく返済できるか」を考える必要があります。
三つ目は、団信への加入が必須ではない住宅ローンを検討することです。ただし、団信に入らないということは、亡くなったときなどにローンが自動的に消える保障がない、ということでもあります。これはかなり大事なポイントです。
団信なしで借りられるから安心、という話ではありません。むしろ、団信なしで借りる場合には、生命保険、貯蓄、配偶者の収入、家を売却した場合の見込みなど、別の形で家族を守る方法を考えておく必要があります。
普段から対応しておくことも大事
今すぐ住宅の購入を考えていない人でも、将来こうした場面で困らないように、普段から糖尿病の治療をきちんと続けておくことはとても大切です。
血糖値やHbA1cを定期的に確認する。血圧を管理する。LDLコレステロールを確認する。腎機能や尿アルブミンをチェックする。眼底検査を受ける。必要な薬を使う。合併症の確認を定期的に行う。
こうしたことは、単に検査値をよくするためだけではなくて、将来の合併症を防ぐため、長く働くため、家族と生活するため、そして住宅ローンを含めた人生設計の選択肢を減らさないためでもあります。
その意味でも、糖尿病治療は人生設計の一部です。
糖尿病があると、住宅ローンしかり、思わぬ場面でハードルにぶつかることがあります。そのせいで不安になったり、審査に通らず落ち込んだりすることもあるかもしれません。でも、そこであきらめる必要はありません。それが、糖尿病と付き合いながら自分らしい生活を守っていくための、大事な作戦なのです。
プロフィール
田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士
10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受検し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している
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※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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