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運動処方:どんな運動を、どれくらい(1)
 糖尿病患者さん(以下、患者さん)の運動療法を安全かつ効果的に指導していくためには、本連載第2回で述べたメディカルチェックを実施し、患者さんの状態を十分に把握し、その結果を踏まえた運動を処方します。

運動処方の内容は主に、
①運動の種類・生活活動(どんな運動が良いか)
②運動強度(どれくらいの強さでするのか)
③継続時間(何分間続けるのか)と実施頻度(週何回するのが良いか)
④実施時間帯(いつ行うのが良いか)
の4点から構成されます。

 運動処方に基づいて患者さんは運動を実施していきますが、運動を実施する際には、低血糖の防止対策などをはじめ、安全に運動を行うための様々な注意点があり、事前の十分な指導が必要です。
 そこで、連載第3回では「糖尿病治療のための具体的な運動処方の内容」と、「運動を実施する際の注意点」について触れていきます。

■糖尿病治療のための運動処方
①運動の種類・生活活動(どんな運動が良いか) 
 糖尿病の運動療法では、運動不足をいかに解消するかということが、指導の基本となります。運動の種類として、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)が挙げられ、いずれも2型糖尿病の血糖コントロール状態を改善させますので、両方の運動を併わせて行うことが効果的です。

●有酸素運動
 有酸素運動は、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水中ウォーキングなど大きな筋肉群をリズミカルに収縮させ、一定時間持続する全身運動を指します。
気軽に実践できる有酸素運動は、歩くことです。安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動きを「身体活動」といい、「運動」(体力の維持と向上を目的に計画的・意図的に実施するもの)と「生活活動」(身体活動のうち運動以外のもの)との2つに分けられます。
 通勤や買い物など日常生活で歩けば「生活活動」になり、健康増進を目的として歩く場合は「運動」になります。運動習慣のない患者さんでは、まずは、日常生活で歩く時間を増やすよう指導しましょう。
ウォーキング

●レジスタンス運動(筋力トレーニング)
 レジスタンス運動は、ダンベルやチューブ、自分の体重などの負荷をかけた筋力トレーニングで、筋肉に抵抗をかけることによって、筋力の向上などを目的として行う運動のことです。運動中は、息を止めずに主要な筋肉群を動かすトレーニングを行います。ただし、強い負荷をかけた場合には、急激な血圧の上昇を招く恐れがあるため、注意が必要です。
チューブ運動

 有酸素運動とレジスタンス運動は、以下に示すようにそれぞれ異なった効果が現れるので、組み合わせて行うよう指導しましょう。
運動の効果の比較
代謝・生理面筋肉のエネルギー源
有酸素運動 ・有酸素運動能(心肺機能や持久力など)の向上
・インスリン感受性の改善
・脂質代謝の改善
・糖質(グルコース、グリコーゲン)
・脂質(遊離脂肪酸)
レジスタンス
運動
・筋力、筋量の増加
・基礎代謝の増加
・血圧上昇
※高血圧のある人は症状を悪化させるため注意
・糖質(グルコース、グリコーゲン)
※無酸素運動の場合

●NEAT (ニート)
 また、近年ではNEAT (ニート)を増やすことも勧められています。NEATとは、「Non Exercise Activity Thermogenesis」の頭文字を取った略語で、運動ではない日常生活で消費するエネルギーのことを指します。
 運動をしていない時でも、基礎代謝や日常生活の身体活動でエネルギーを消費しています。日常生活で体をこまめに動かし、NEATが増えると基礎代謝が増える傾向があり、運動をしていない時でもエネルギーを消費しやすい体になります。
 日常生活での立つ、歩く、家事をする、子どもと遊ぶといった軽めの動作でも、頻度を増やすことで、1日の消費エネルギーを増やせます。電車では座らずに立つ、テレビのリモコンは手元に置かず立って取りに行くなど、NEATを増やすための指導をしましょう。

2012年08月 

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