一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会

糖尿病と妊娠に関する研究会の歩み
—疾患概念の変化に対応して—

東京都済生会糖尿病臨床研究センター
松岡 健平

目 次

はじめに

 1型糖尿病が多い欧米における糖尿病合併妊娠の研究は、インスリン療法の発達と普及と相まって進歩した。Joslin Clinic の P. White 女史が糖尿病女性の安全な妊娠・出産を目指して臨床研究を始めたのは、第2次大戦以前である。わが国には1950年代まで糖尿病患者が少なかったこと、とくに妊娠可能年齢の糖尿病女性がきわめて少なかったこと、さらに糖尿病女性は妊娠できないものとする考えが広く一般国民のみならず医師の間にも流布されていたことなどが、こうした研究会の発足が欧米に対し遅れをとらせた原因となったようである。「糖尿病と妊娠に関する研究会」が発足したのは1985年。すでに15年の歳月が流れた。その間、糖尿病学の進歩とともに各種糖尿病の成因解明、診断技術は進歩し、1999年、日本糖尿病学会は新しい分類と診断基準とそれに関する見解を発表した。また、技術革新とともに、治療方法と患者管理の考え方も大きな変化を示した。本稿では、糖尿病と妊娠に関する研究会の歩みを振り返ってみたい。

1. 研究会の誕生

 妊娠中は胎盤からの Estrogen、Progesterone、Human placental lactogen、Human placental chorionic gonagotropin などの産生が増加し、代謝の異常亢進が起こり、糖代謝異常をきたしやすい。そのために糖尿病が誘発されたり、既存の糖尿病が増悪することが知られている。しかし、妊娠糖尿病(以下 GDM:Gestational Diabetes Mellitus)は、妊娠中に限定される軽度の糖代謝異常であり、糖尿病を有する例の妊娠、つまり糖尿病合併妊娠と臨床的に区別すべきであることは、意外に知られていない。 GDM は糖尿病の前段階であり、糖尿病の診断基準を満たすものではない1)。現実には、GDM と診断された例が糖尿病合併妊娠であることの方が多い。その糖尿病合併妊娠からくる母児の周産期合併症が問題である。大森は、長年母性に対する限りない愛情からこのような糖代謝異常および糖尿病をもつ女性の幸福のためにはどのようにすればよいか、個々の症例はもとより、システマティックに管理する手だてはないか、考え続けていた。この精神は、今日も変わるところはなく、本研究会の基本理念になっている。

 一方、産婦人科医からは、妊娠中の糖代謝異常に無関心な内科医が多いことから、貴重な妊娠を不首尾な結果に終わらせる例が後を絶たないことが指摘されていた。1985年の発足当時、医師・コメディカル向けの出版物には、すでに多くの「妊娠中の糖尿病管理」に関する記事や論文が出ていた。しかし、内科系学会と産婦人科系学会とはそれぞれ別に研究を行い、診断基準は定まったものはなかった。アメリカ人医師から、日本において GDM で人工中絶される症例はどれくらいいるか、と聞かれたことがあった。当時、GDM なのに中絶される例が多いのではないか、と思っての質問だったらしい。

 大森は、糖尿病と妊娠に関する研究の重要性を訴え、1984年春、第1回研究会開催に向けて、在京世話人会を組織して準備に入った。メンバーは、大森(女子医)、浜田[宏](聖マ)、池田(慈恵)、松岡(済生会)であった。 本会発足の時、名称をどうするか話し合った。新しい学術を表す用語も見あたらないし、Diabetes Pregnancy Study Group of Japan にも名訳がない。そこで、常識的な「糖尿病と妊娠に関する研究会」となった。

2. 日本人の2型糖尿病の特異性

 わが国の糖尿病患者のうち、1型糖尿病の発症頻度は14歳以下の年齢では人口10万対約2.5であり、欧米の1/5−10である。今日、遺伝子異常が明らかにされている HNF1α(Hepatocyte Nucleic Factor 1α)、ミトコンドリア異常、グルコキナーゼ異常、などを含めても患者全体の約2%程度であろう。すると95%以上は2型糖尿病である。厚生省の調査(1998)によると、糖尿病が強く疑われる人の数は約690万人、糖尿病の可能性を否定できない人まで含めると約1370万人になるとされている2)。1950年頃まで、糖尿病はきわめてまれであった。その後、一次産業に従事する人口が減少するにつれて糖尿病患者数は増加した。

 1997年アメリカ糖尿病協会(ADA:American Diabetes Association)のワークグループが示した新しい糖尿病の分類では、Type 2 diabetes は「インスリン抵抗性を主たる基盤とし」とはじめに記載されているが3)、1999年の日本糖尿病学会の病型分類では「インスリン分泌不全がある」ことが先になっている4)。これは、コーカサス系欧米白人の膵β細胞のインスリン分泌能が、モンゴル系の東アジアに住む民族のそれに比べて著しく大きいという遺伝的な人種差に基づくものである。一般論であるが欧米人には肥満の2型糖尿病患者が多く、日本人には非肥満の例が多い。すなわち、日本人はインスリン分泌不全という遺伝素因をもつ個体が多いうえ、わずかな内臓脂肪の増加に対してインスリン抵抗性を帯びやすく5)、2型糖尿病になりやすい宿命をもつ人種である。

 インスリン感受性は、インスリン抵抗性の消長とともに常に変化する。加齢は肥満や運動不足とともに、その代表的因子の1つである。ここに鍵がある。欧米の妊娠可能年齢人口の糖尿病は1型糖尿病が圧倒的に多いのに比べ、日本人では2型あるいはその候補者が多い。つまり、日本人が2型糖尿病を発症しているとき、欧米では糖代謝異常(IGT:Impared Glucose Tolerance)に留まっているのである。近年、出産年齢が高くなる傾向があることから、糖尿病の素因をもつ例の妊娠が、2型発症後である確率がしだいに上がりつつあることは容易に想像できる1)。大森によると図1に示すとおり、10歳未満は1型糖尿病例が多いが、10歳を過ぎると2型例が増加しはじめる。欧米における妊婦の管理が、以前から糖尿病であった例(Prepregnant Diabetes)と IGT に比較的画然と分類できるのとは大きな差があるとみてよい。

図1 東京女子医大糖尿病センターにおける30歳以下に発症した糖尿病2177例の病型(1960−1995)

図1 東京女子医大糖尿病センターにおける30歳以下に発症した糖尿病2177例の病型(1960−1995)

 さらに、ハワイやシアトルにおける日系アメリカ人における疫学調査で2型糖尿病の有病率が20%に迫っていることから、日本人は環境因子によって変化していることをうかがい知ることができる6)。日本人女性の BMI(Body Mass Index)は10歳代が19〜20であるが、30歳代から上昇する。食生活の変化から中年太りの若年化があり、2型発症の危険率を高めている。また、義務教育学齢期の糖尿病患者における2型糖尿病の有病率は、1型とほぼ同じくらいになる深刻な現実があることを忘れてはならないであろう。

3. 糖尿病と妊娠に関する研究会の動向

 (本研究会の2000年第16回研究会までのあらましは表1に示す)

表1 糖尿病と妊娠に関する研究会

回 数 開催年月日 開催地 会 長 講演等
第1回 1985.12.7 東 京 大森 安恵 J. Hoet「胎児に及ぼす糖尿病の影響」
第2回 1986.12.6 東 京 浜田 宏 安田峯生「糖尿病と奇形」
〈一般演題の募集開始、網膜症の悪化についての演題が多数〉
第3回 1987.12.5 東 京 松岡 健平 鈴木秋悦「生殖医学」
野中共平「糖尿病のインスリン療怯」
第4回 1988.12.3 東 京 杉山 陽一 M. Pedersen「Diabetes diagnosed during pregnancy-screening, treatment and follow up」
〈一般演題の数が増え、午前中から開催〉
第5回 1989.12.2 東 京 北川 照男 C. Hellerstrom「糖尿病母体から生まれた児の膵ラ氏島機能および構造」
ワークショップ「糖尿病母体から生まれた児の管理と予後」
〈会場は第5回まで山之内ホールが使われた〉
第6回 1990.12.8 東 京 池田 義雄 C.Lowy「The practical management of diabetes and pregnancy」
第7回 1991.11.30 福 岡 浜田 悌二 D.Coustan「Does gestational diabetes exist-the north American view」
第8回 1992.12.5 仙 台 豊田 隆謙 J.Kitzmiller「Guidelines for the care of the pregnant diabetic woman」
第9回 1993.12.4 東 京 仁志田 博司 R. Shwartz「Carbohydrate Metabolism of the Fetus and Neonate」
〈助産婦などコメディカルが参加〉
第10回(記念大会) 1994.12.3 東 京 大森 安恵 特別講演1 Sebastiano Grasso(イタリア)「Maternal diabetes mellitus.Effect on the fetus. Histologic and immunohistochemical studies」
特別講演2 兼子俊男「糖尿病物語」
シンポジウム「糖尿病妊婦の治療−世界はいま−」
Jeremy N. Oats(オーストラリア)「診断基準」
Lois Jovanovic-Peterson(アメリカ)「食後血糖の重要性と肥満妊婦の食事療法」
Bengt Persson(スウェーデン)「1型糖尿病母体から生まれた児の予後」
Hamish W. Sutherland(イギリス)の代りに大森安恵「わが国の NIDDM 妊婦の特徴」
〈初めてポスターセッションが設けられた〉中林正雄「糖尿病合併妊婦の周産期管理」
第11回 1995.12.9 神 戸 望月 眞人 塩田浩平「母体環境と先天異常」
芳野 原「糖尿病における脂質代謝異常」
第12回 1996.11.30 大 阪 星  充 村田雄二「胎児成長に関する最近の知見−糖尿病合併妊娠管理における超音波の役割−」
第13回 1997.11.29 久留米 野中 共平 B. Metzger「Pregnancy and Diabetes: Implications for Mother and Child」
第14回 1998.11.28 東 京 松浦 信夫 倉智博久「レプチンの話」
友田昭二「肥満妊婦治療の実際」
小崎健次郎「Diabetic embryopathy の症候論と病因論」
大森安恵「糖尿病の新しい診断基準をめぐって−妊娠糖尿病を中心に−」
第15回 1999.11.27 豊田 長康 教育講演 平松祐司「腎症合併妊婦」
ワークショップ「妊婦で見逃されていた糖代謝異常をめぐって」
第16回 2000.12.2 長 崎 赤澤 昭一 特別講演 武田 純「遺伝子異常による糖尿病と妊娠」
赤澤昭一「糖尿病における奇形の発生機序」
教育講演 安日一郎「妊娠とインスリン抵抗性をめぐる最近の研究の進歩」

(1)妊娠糖尿病の診断基準

 第1回(1985)は研究会誕生のお祝いムードであったが、特別講演に来日したベルギーの Catholic 大学 J. Hoet 教授はこの時すでにアメリカの実用的な GDM の考え方に真っ向から対峙する観点を示したことで印象に残る。妊娠中に糖代謝異常を発見したとき、それが GDM か以前からもっていた糖尿病か、の診断は実際上困難なことが多い。また、血糖値による診断基準でたとえ境界域にあっても、それを糖尿病の前段階として代謝コントロールを行えば同じではないか、という見解は多く聞かれた。第4回(1988)の話題の中心は、パネル「妊娠中発症した糖尿病」であった。わが国の2型糖尿病例は無症候性に発症することから、発症時期の同定がきわめて難しいことから「いつから糖尿病なのか」が議論になった。

 第7回(1991)ははじめて東京を離れて福岡市で開催されたが、話題は GDM に集中し、定義論、診断基準が EBM より検討された。浜田悌二久留米大学教授(当時)が主として産婦人科系医師からまとめた多数例の統計をもとに、GDM の診断基準を論じられた。この議論が、のちに日本糖尿病学会の診断基準を検討する基本材料になった。現在、わが国における GDM の定義は「妊娠中に発症あるいは、はじめて発見された耐糖能異常」とされているが、糖尿病の診断基準が主として血糖値に置かれていることから、糖尿病とは区別すべきである。 GDM の75g 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の適応は、妊娠中の初診時、随時血糖値>100mg/dL の場合であり、診断基準は表2に示すとおりである。この成績が糖尿病型であれば、その症例は GDM ではなく糖尿病であり、網膜症など糖尿病に特徴的所見があれば OGTT の診断基準を満たしていなくても糖尿病である。

表2 75g経ロブトウ糖負荷試験による妊娠糖尿病の診断基準(静脈血漿)

空腹時値 1時間値 2時間値
血糖値(mg/dL) ≧100 ≧180 ≧150

以上のうち2つ以上を満たすものを妊娠糖尿病とする。
(日本産科婦人科学会栄養代謝問題委員会報告,1984)

 先に述べたとおり、わが国の2型糖尿病患者の若年発症例が増加していることから、肥満(BMI≧25)、2型糖尿病の家族歴、35歳以上、経産婦、糖代謝異常の既往(空腹時血糖110〜126)、(随時血糖140〜199)、すべての尿糖陽性者、巨大児出産歴、異常妊娠・分娩歴、などリスクファクターがある例(リスクグループ) には積極的に OGTT を実施すべきである。日本人2型例の膵β細胞のインスリン分泌不全は遅延型となっている例が多い。負荷後60分値が180mg/dL 以上の例における糖尿病への移行率は高い。アメリカでは空腹時血糖値110〜125mg/dL を空腹時血糖異常(Impaired Fasting Glucose)として耐糖能異常に区分しているが、日本の境界型と一致しない例が多く、見直しを迫られることは必至であろう。

 第8回(1992)には本研究会へのコメディカルの参加が検討され、GDM に関するミーティングでは、妊娠糖尿病患者管理のガイドラインの必要性が認識された。翌、第9回(1993)から母性保護医協会の後援を得ており、助産婦などコメディカルの参加があった。 パネルは「一般診療における妊娠糖尿病の管理と問題点」で、かつてない盛況であった。

(2)糖尿病合併妊娠の管理

 妊娠糖尿病は、糖尿病合併妊娠ではない。すでに糖尿病の診断を受けている例に、厳格な血糖コントロールを行って計画妊娠にするよう指導することは、会の発足当時から明らかなことであった。しかし、両者を同一視したことが、CDM への誤解に繋がったことは否定できない。疫学研究で GDM の周産期成績や児の予後に統計上重大な欠陥がみつかったのである。自己の施設における GDM の成績不振に悩んだ医師も少なくないのではないかと思うほどである。おそらく、それらの調査結果は対象をリコールして調べ直す必要がある。

 第1回(1985)、「糖尿病妊婦の治療」のパネルがあった。第2回(1986)、早くも奇形の問題が取り上げられ、一般演題では網膜症の悪化についての演題が多く提示された。パネルは「糖尿病妊婦の監視」で眼科(福田雅俊)と腎臓専門医(柴田昌雄)の見解を聴いた。第3回(1987)では、この頃から一般的になってきた強化インスリン療法についての解説(野中共平)は、産科系の医師にインスリン療法の新しい展開を伝えるものとして受け容れられた。第5回(1989)は糖尿病母体児について、ワークショップは「糖尿病母体から生まれた児の管理と予後」ではじめて児の側にスポットがあてられた。第13回(1997)では公募ワークショップがはじめて設けられ、テーマは「糖尿病合併妊婦管理の最適指標は何か?」であった。

 第10回記念研究会(1994)には、イタリア、オーストラリア、アメリカ、スウェーデンから糖尿病と妊娠の専門家を招待し特別講演とシンポジウムを開催し、糖尿病妊婦の管理技術に多くの情報を得た。このときイギリスの演者が突如キャンセルになり日本の大森と中林両教授が代講を行った。

(3)脂質代謝異常に注目

 第11回(1995)は、阪神大震災の後で神戸での開催が危ぶまれたが、予定どおり開催された。

 特別講演、教育講演、ワークショップ(糖代謝異常合併妊娠の管理について)など多くのプログラムで脂質代謝異常にスポットがあてられ、望月眞人世話人のこの分野における意気込みを感じさせられた。脂質代謝の妊娠に及ぼす影響の重要性については、第6回(1990)動物モデルがテーマであったが、特別講演のロンドン大学 St. Thomas Hospital の Clara Lowy による「妊娠時における生理的変化」においても触れられたところであり、出席者の共感を得た。

 ここで、もう一度日本人の糖尿病について考えてみるべきことがある。わが国の糖尿病の患者数は自動車の登録台数に象徴される近代生活の指標に比例して増加した。ところが、近年、国民の総エネルギー摂取量は減少しているにもかかわらず、脂肪摂取量の増加を追いかけるように増え続けている1)。母体内環境から始まり、成長期における生活習慣の変化からくる脂肪摂取の増加の影響を強く受けているものと思われる。日本人の40%が夕食を8時以後に摂っており1)、しかも脂肪摂取量が夕食に傾いているとすれば、「夜どか食い」の都市型食習慣は妊娠可能年齢に至る以前の成長期からインスリンの夜間の過剰分泌、睡眠中の脂質代謝の変化をもたらす環境因子がすでに整っている。2型糖尿病の一次予防に生活習慣の改善への介入を強化すべきであることはいうまでもないが、若年肥満が妊娠の予後を左右する。第14回(1998)では、公募演題のテーマが「増えつつある肥満妊婦の扱い」であったが、生下時体重が小さい児が2型糖尿病発症のリスクグループとされていることから8)、母体の糖尿病管理と産科の児の発育という視点の優先のどちらが大事なのかが議論の対象となった。

 節約遺伝子(Thrifty Gene)とは何か、まだ同定されていないが、われわれの祖先である縄文人や弥生人が採集狩猟時代に何万年かかけて獲得した省エネ型への進化であったに違いない。日本人にはβアドレナリン受容体、PPARγ、レプチンとその受容体など、脂質代謝に関係する遺伝子の変異の頻度が欧米人より多いとされている。変異というよりむしろ多形性の結果であり、東アジアの人々とポリネシア人とアメリカインディアンの節約遺伝子はそれぞれの環境因子により異なったものになっているであろう。このようなことから妊娠時の脂質代謝の奥は深く、膵β細胞機能についてもう一度東西の差を吟味しなければならないであろう。

おわりに

 以上述べたとおり、改めてまとめてみると本研究会の足跡は非常に大きくなっていることがわかる。また、教育的役割も大きかった。第1回、平田幸正東京女子医科大学教授の講話は糖尿病管理における患者・医師関係を重視したものであった。また、第12回(1996)の超音波検査の進歩に関する講演は聴衆に大きなインパクトを与えた。一般演題に出てくる「特異な経過を辿った症例報告」もよかった。議論を重ねて、妊娠糖尿病の診断基準が定まり、広く同じ基準で妊娠糖尿病を眺められるようになった意義は大きい。このようなガイドラインの設定により、周産期における母子の安全は飛躍的に向上するであろう。問題は、これからガイドラインをどのようにして、実地医家と非専門医の間に運用させるかにある。本研究会は研究発表の場であると同時に、知見を交換し、コンセンサスを得、Evidence となる事実の蓄積を図る場である。さらに、2型糖尿病症例が増加の一途をたどり、しかも若年発症例の頻度が増しているわが国において、新知見を取り入れながらカイドラインを常に更新し啓発普及する役割を担っている9)

 妊娠糖尿病については、妊娠前から未発見の糖尿病があり、妊娠中の検査ではじめて発見された例や妊娠前から糖尿病の素因があり、妊娠中の検査ではじめて糖尿病型に至った例を GDM というべきでない。わが国では、糖尿病のリスクグループにある女性は、妊娠を計画した時点で糖尿病のスクリーニングを受けることが勧められる。妊娠糖尿病は糖尿病の前段階とみることができるが、既存の糖尿病を有する例とはまったく異なり、安易に流れることなく取り扱いには十分注意する必要がある。

参考文献

  1. Omori Y, Satomi M, Yanagisawa K, Sanaka M: Diabetes in pregnancy, in Diabetes in the New Millenium. eds J. Turtle et al, University of Sydney, Australia, p475-484, 1999.
  2. 厚生の指標, 国民衛生の動向, 1999.
  3. The Expert Committee on the Diagnosis and Classification of Diabetes Mellitus: Report of the Expert Committee on Diagnosis and Classification of Diabetes Mellitus. Diabetes Care, 20: 1183-1197, 1997.
  4. 糖尿病診断基準検討委員会(委員長 葛谷 健):糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.糖尿病, 385-401, 1999.
  5. Tanaka Y, Atsumi Y, Matsuoka K, Kawamori R, et al: Usefulness of revised Fasting plasma glucose criterion and characteristics of the insulin response to an oral glucose load in newly diagnosed Japanese diabetic subjects. Diabetes Care, 21: 1133-1137, 1998.
  6. Fujimoto WY, Bergstrom RW, Boyko EJ, Leonetti DL, Newell-Morris LL, Wahl PW: Coronary heart disease and NIDDM in Japanese-Americans. Diabetes, 45(Suppl): S17-18, 1996.
  7. Tajima N: The epidemiology of diabetes in Japan, in Diabetes in the New Millenium. eds J. Turtle et al, University of Sydney, Australia, p23-28, 1999.
  8. Linsay RS, Hanson RL, Bennet PH, Knowler, WC: Secular trends in birth weight, BMI, and diabetes in the offspring of diabetic mothers. Diabetes Care, 23: 1249-1254, 2000.
  9. SDM 研究会: Staged Diabetes Management−臨床病期に応じた糖尿病診療マニュアル.SDM 研究会事務局(済生会中央病院内), 東京, 2000.

2015年10月 更新

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