糖尿病セミナー
4. 高齢者の糖尿病
2016年11月 改訂
高齢者糖尿病の治療の目的と目標
糖尿病治療の目的は、「糖尿病であっても健康な人と変わらない寿命とQOL〈キューオーエル〉※を達成すること」で、そのために血糖値や血圧、血清脂質などをコントロールしていきます。この糖尿病治療の目的を見失わないことが、高齢の患者さんの場合とくに重要です。つまり、糖尿病を治療することにより何年か先に合併症が発症・悪化するかもしれないという'将来の危険性の低下'を期待できますが、一方で治療を強化することにより'現在のQOLの低下'というマイナスの影響が生じ得ますので、そのバランスを判断する必要があります。そのマイナス面を小さくするポイントの一つは「低血糖を起こさない」ことです。※QOL:クオリティー・オブ・ライフ=生活の質。人生を享受しているか、生活に充実感があるかという水準。
★低血糖が危険です
高齢になると低血糖の症状がはっきり現れにくくなり、対処が遅れがちになります。また最近の研究で、夜間睡眠中に低血糖が頻発している患者さんが少なくないことがわかってきました。そして低血糖が、認知機能の低下やうつ傾向を招くことが示されていて、重度の低血糖では死亡の危険性まで高くなります。こうしたこととは反対に、低血糖の症状を認知症やうつによるものと周囲の人が思い込み、誤った対処をしているケースもあります。
このようなことから、高齢者の低血糖は極力避ける必要があり、そのためには血糖コントロールの治療目標をやや甘くしHbA1cの下限を設定することも少なくありません。最近、日本糖尿病学会と日本老年医学会が話し合って、患者さん一人一人の病態に応じた血糖コントロール目標値を定めましたので、主治医の先生によく相談してください。
おわりに
患者さんへの意識調査によると、健康維持の体操や趣味、社会活動などを積極的にしている人ほど、病気に対する負担感が軽減する、健康に長生きできるという結果が出ています。「高齢者だから」「病気があるから」と、縮こまっているよりも、好きな趣味に没頭したり社会活動に参加するなど、積極的な生き方のほうが、よりよい人生になるということでしょう。また、高齢であっても、前に述べた適切なコントロールの維持に努めれば、合併症の進展や低血糖を防げるだけでなく、気分も快適になって生活しやすくなるなど、精神的にもよい効果があることがわかっています。高齢であることを理由に何かとあきらめず、まだたくさんある可能性に向かって楽しく暮らしましょう。
糖尿病のある人生を楽しむ方法
―東京都健康長寿医療センター 実施調査結果を改編―
(1) 血糖のみならず、血圧や血清脂質、体重のコントロールに努め、合併症の発症を防ぐ(2) 積極的に身体を動かす、余暇活動を楽しむ(散歩、体操、民謡、読書、旅行、園芸、親睦会の世話役などに挑戦)
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