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2009年05月27日

血管障害の確実な抑止へ。「R3i」の活動方針等発

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  「R3i(アキュバイ)」は、糖尿病とメタボリックシンドロームにおける血管障害のより確実な抑制のために、世界41カ国から専門家が参加してスタートした国際的な取り組みだが(2月27日に既報)、このほど、その活動方針等の具体的な内容が発された。

 現行の治療法で血管障害の抑制が達成されるのは、糖尿病患者さんの2〜3割とされており、今後R3i では残りの患者さんのQOL・生命後の改善に向けて、新たな治療法の確立を目指していく。

 なお、R3i はResidual Risk Reduction Initiativeの略。アールキューブド(Rの3乗)・アイを縮めて「アキュバイ」と読む。

R3iの背景
 2型糖尿病や高血圧、高LDLコレステロール(LDL-C)血症などの生活習慣病やメタボリックシンドロームは、すべて血管障害の危険因子であり、それらの疾患の合併症は「血管病」と位置付けられる。これらの疾患に対して従来から、血糖降下薬、降圧薬、そしてスタチンを用いた治療が行われてきており、いずれも効果を上げてきた。

 しかし血管合併症が確実に抑制されているとは言い難く、心血管疾患や脳血管疾患などの大血管障害と、網膜疾患や腎疾患などの細小血管障害によって生命後・QOLが悪化することが多い。また、医療費の増大の主要原因となり、各国の財政政策に影響を及ぼし始めている。さらに生活習慣病の世界的レベルでの急増が、このような現状に拍車をかけている。

 血管障害を抑制し得る血糖、血圧、LDL-Cの閾値をめぐってこれまで多くの大規模スタディが行われた。また、J-DOIT3など現在進行中の臨床研究もある。J-DOIT3は既知の危険因子である血糖、血圧、LDL-Cのすべてを健常者の基準値と同等レベルにコントロールするという先進的なスタディだが、これらのスタディで管理項目とされていない別の危険因子が存在し、血管障害のより確実な抑制にはその管理も必要である可能性がある。

 具体的には、脂質異常症のタイプの中で従来、LDL-Cほどには研究が進んでいない高トリグリセライド(中性脂肪)血症と低HDL−C血症の対策が主要な鍵となると想定されている。2型糖尿病やメタボリックシンドロームにおいては、高LDL-C血症よりもむしろこの二つの脂質異常との関連が深く、R3i の成果が期待される。

R3iの目的・活動
脂質異常症の患者に残存している血管系のリスクの全容を定量化し、さらに介入療法の新しいターゲットを特定するための独自の研究
残存する血管系のリスクについての認識を啓発する。またプライマリケアの医師を対象に、現存する研究上の知見を治療戦略に落とし込むことを促進するための情報提供
脂質異常症の患者に残存している血管系リスクの問題が、各国および国際的ガイドラインにおいて適切な優先順位を与えられることを確かにするための支援
R3iの組織概要
者:J.C.Fruchart(フランス)
組織統制:評議理事;3名(代者を含む)
       国際運営委員会(ISC);18名
主要参加国:米国、日本、EU主要5カ国など(計41カ国)
R3i日本委員会
国際運営委員(ISC)
 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授
  門脇 孝 氏
日本運営委員(50音順)
 自治医科大学内科学講座内分泌代謝学部門教授
  石橋 俊 氏
 慶應義塾大学医学部内科学教室腎臓内分泌代謝内科教授
  伊藤 裕 氏
 熊本大学大学院循環器病態学教授
  小川 久雄 氏
 東京医科大学内科学第三講座主任教授
  小田原 雅人 氏
 千葉大学大学院医学研究院医学部生命科学分野分子代謝制御学教授
  武城 英明 氏
「脂質の改善が細小血管症の防にもつながる可能性が非常に高い」(小田原雅人氏)
プレスセミナーで講演した小田原雅人氏
 
 R3i 日本運営委員会のメンバーである小田原雅人氏(東京医科大学内科学第三講座主任教授)は、国内のプレスセミナーで講演。糖尿病と密接に関係しているのはLDL-Cではなく高トリグリセライド血症や低HDL-C血症であるとしたうえで、FIELD試験の結果を紹介した。そして「糖尿病では脂質の改善が大血管症だけでなく、細小血管症の防にもつながる可性が非常に高い」とし、横紋筋融解症の危惧から国内ではあまり行われていないスタチンとフィブラートの併用について、「スタチンの種類、フィブラートの種類によって横紋筋融解症の発生率は全く違う。現在使われている製剤ではほとんど起きておらず、欧米ではフェノフィブラートが普通にスタチンと併用されている」と現状を解説した。
「R3iは非常に高い目標を掲げた取り組み」(門脇孝氏)
プレスセミナー座長の門脇孝氏
 
 スタチンとフィブラート併用の問題については、プレスセミナー座長の門脇孝氏(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授。R3i 国際運営委員)も、「臨床で我々が痛感している問題。トリグリセライドはフィブラート以外では分に下げることができない。併用しにくいことは臨床上のジレンマ。トリグリセライドを下げHDL-Cを上げるというResidualRisk解消の意義が明らかになれば、このような状況を放置していてよいのかどうかという疑問が臨床医の間から上がってくるだろう。腎障害のある場合など併用を避けるべきケースと、併用すべきケースを明確にすることもR3i の研究・啓発活動の中心になるのではないか」と述べた。また、「R3i は血糖や血圧、LDL-Cの管理が重要であることを前提にした新しいコンセプト。患者さんの合併症を100%抑制するという非常に高い目標を掲げた取り組みだ」と解説した。

関連情報:
R3i の公式ページ(英文)
血管障害の「残された危険因子」を探る国際プログラム「R3i」がスタート(糖尿病NET)
糖尿病性血管障害のより確実な抑止のために(糖尿病NET)

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

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