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2011年05月01日

特定健診・保健指導の見直しを開始 厚労省検討会が初会合

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保険者による健診・保健指導に関する検討会
 厚生労働省は4月25日に「保険者による健診・保健指導に関する検討会」の第1回会合を開催し、40〜74歳を対象とした特定健診・保健指導の見直し作業をスタートした。
受診者を増やす方策を検討する検討会
 特定健診・保健指導は、生活習慣病の予防・早期治療を促し、増え続ける医療費を抑制するために導入された。政府が2008年度に5年計画で始めた医療費適正化計画の中心となる施策だったが、実施率の高い「上位保険者」と実施率の低い保険者とで差が出ている。

 これを受けて厚生労働省は、有識者や医師などが参加して、受診者を増やすための方策を検討する検討会を設置し、会合を開いた。今後1年間をめどに検討を重ね、2013年度からの医療費適正化計画に反映させる方針。座長には、多田羅浩三・日本公衆衛生協会理事長が選出された。

 主な論点は次の通り――

  • 腹囲が基準に満たない非肥満者への対策
  • 75歳以上の高齢者における特定健診や特定保健指導の在り方
  • 特定健診の検査項目と基準値について学会などから意見を聞き再検討
    (6月からの会合で日本糖尿病学会からHbA1cについて聴取する予定)
  • 服薬中などの患者に対する特定保健指導の実施方法
  • 特定健診などの実施を促す支援策(受診促進の制度的な手当て、特に被扶養者に対する受診促進、市町村への委託、市町村がん検診との連携)
  • 健保組合の積極的な実施を促すため、受診率が低い組合には負担金を増やす等を検討
  • 特定健診・保健指導の円滑な実施についての実務的課題
実施率の高い上位保険者の取組みはここが違う
 上位保険者では、積極的な取組みを行っている割合が、その他の保険者よりも高かった。例えば、健保組合では個別契約を締結している割合は上位保険者では83.9%(その他は70.7%)、市町村国保では集団健診の実施している割合は上位保険者では47.4%(その他は22.8%)となっている。

 保険者の取組状況の評価から上位保険者の行っている取組みをまとめると以下の通りになる。

  1. がん検診等との同時実施(健保組合・市町村国保共通)
     がん検診と特定健診を同時実施を行っている保険者の受診率が高い傾向にある。

  2. 健診の実施を一定期間に限定(健保組合・市町村国保共通)
     健保組合(被扶養者分)では、健診期間を1年を通して設定せず、一定期間に限定している保険者の受診率が高い傾向にある。また、市町村国保では、上位被保険者の多くは3ヵ月未満の一定期間で実施している。

  3. 被扶養者へのきめ細かい対応(健保組合)
     健保組合では、被扶養者に対して「特定健診では受診期間を定めて集中的に勧奨を実施する」、「受診率向上のために独自の取組みを行っている」といった、きめ細かい対応をとっている保険者の受診率が高い傾向にある。

  4. 保険者毎の独自の取組み(市町村国保)
     市町村国保では、地域人材(保健指導員、食生活改善推進員など)の活用、服薬治療中の者への保健指導などの独自の取組みを行っている保険者の受診率が高い傾向にある。
高齢者の特定健診も重要なポイントに
 高齢者の特定健診も重要なポイントになっている。75歳以上の人への健診実施は、2008年度以降に後期高齢者医療広域連合の努力義務となったが、結果とし受診率は低下した。新たな高齢者医療制度では各保険者の義務となる。これをふまえ同検討会では、具体的な健診項目や特定保健指導のプログラムなどについて検討する方針。

 高齢者では、生活習慣の改善による疾病予防よりも介護予防が重要となるが、検討会では「糖尿病などの生活習慣病の早期発見のための健診は重要」、「75歳以上の方々への健診では積極的な減量などを行わず、腹囲判定は医師の判断で行うべき」、「高齢者では身体・運動能力や生活能力に個人差が大きいので、保健指導を一律に行わない」との意見が出された。

用語解説

医療費適正化計画
 医療制度改革の関連法案が2006年6月に成立、政府は08年度から5年計画で実施開始した。12年度までに特定健診の実施率を70%、特定保健指導の実施率を45%にそれぞれ引き上げ、メタボ該当者と予備群を45%に引き下げることを目標に掲げた。
 2009年度は特定健診の実施率が40.5%、特定保健指導が13.0%だった。
 特定健診・保健指導の実施率向上のための取組みとして、がん検診などとの同時実施、未受診者への受診勧奨、電話や個別訪問による通知、地域人材の活用などを促している。
 計画には、地域連携パスの普及や在宅医療の推進、かかりつけ医・薬局などの普及啓発をはかり、平均在院日数を縮減することも盛り込まれた。都道府県が数値目標を定めて計画し、関係者の調整役を果たしていく。

国民医療費
 病気やけがの治療で医療機関に支払われた患者負担を含む医療費の総額は「国民医療費」と呼ばれる。2008年度の国民医療費は34兆8,000億円で、2006年度の33兆1,276億円と比べ1兆6,808億円(5.1%)の増加となった。国民医療費が国民所得に占める割合は9.9%。
 2008年度の1人当たり国民医療費は、65歳未満では年間15万8900円だが、65歳以上では年間67万3400円、75歳以上では年間83万円となっており、約4倍から5倍の開きがある。日本では75歳以上の人口が増加しており、医療費も増加傾向にある。
 経済協力開発機構(OECD)によると、国民1人当たりの医療支出(2010年)は、日本は2729ドルで、OECD平均の3060ドルを下回った。また、医療支出の増加率も、日本は2.2%(2000〜2007年)で、OECD平均の4.2%(2000〜2008年)を下回っている。先進7ヵ国の中で一番高いのは米国で、1人当たり7538ドル(約61.5万円)。

生活習慣病
 長年の生活習慣や高齢化などを要因として発症する慢性疾患の総称。2型糖尿病や脂質異常症、高血圧症、肥満なども含まれる。複数の危険因子を重ねもっている患者も多く、最近の研究では予備群の段階から動脈硬化の進展がともなうことが指摘されている。適切な予防・治療を行わず放置すると、心筋梗塞や脳卒中の危険性が数倍に高まる。予防・治療には、禁煙や食事、運動など生活習慣の改善が欠かせない。

関連情報
協会けんぽの業績評価 健診やメタボ対策は「改善が必要」(日本生活習慣病予防協会)
健保:11年度予算は6090億円の赤字 4割が保険料率上げ(日本生活習慣病予防協会)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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