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2012年09月18日

うつ病学会の治療ガイドライン 薬偏重から方向転換

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糖尿病合併症
 日本うつ病学会は7月に、多様化するうつ病を適切に治療するための医師向けガイドラインをまとめた。次々に開発されている抗うつ薬の有効性や副作用に関する情報を盛り込んだのが特徴。軽症の治療では薬を優先せず、カウンセリングを中心とした「支持的精神療法」や「心理教育」もしっかり行い、回復に導くことを基本としている。
うつ病の患者数は増えている
 うつ病や気分障害の患者数は、すべてのライフステージにわたって増加しているという。厚生労働省の推計では100万人を超えている。特に就業世代では、長引く不況や経済状況の悪化、失業率の上昇などを背景に、うつ病を惹起する社会・心理的要因が増加している。近年大きな社会問題となっている自殺者数の増加とも関連があると指摘されている。

 うつ病は60〜70歳代でも多い。この世代のうつ病は、「退職などにより人と会う機会が減る」「我慢強い人が多い」「他の病気と思ってしまう」「もの忘れなども年齢によるものと思ってしまう」などの理由から、治療が遅れる傾向がある。うつ病の多くは喪失体験などのストレスとなる出来事がきっかけとなって症状があらわれる。団塊世代に共通する喪失体験として「健康の喪失」、退職による「社会的役割の喪失」、配偶者の死など「大切な人の喪失」などがあげられる。

 うつ病の増加の背景として、うつ病についての啓発活動によりうつ病を疑って受診する人の数が増えたことも挙げられる。「うつ病」や「精神科」に対する患者本人や家族、周囲の人々の敷居も低くなり、比較的気軽に受診しようとする人が増えているという。

 結果として、比較的「軽症」のうつ病の人や、多様な病型の人が受診に至る割合が増えた。また、職域や地域、プライマリケア医などから、うつ病の早期発見から早期治療を求める動きがさかんになってきたことも影響している。

患者にきめ細かく対応することが治療の基本
 うつ病の治療の基本は薬物療法と休養・休職だが、うつ病の患者数の増加を抑止していくためには、現状の把握や分析にもとづく対策が必要となる。そこで、日本うつ病学会は、最新の医学的知見を盛り込み、現在の医療体制や現場の実情を考慮したガイドラインが必要と判断した。治療ガイドラインは「日本うつ病学会治療ガイドライン2・大うつ病性障害」(全61ページ)として同学会ホームページで公表されている。

 ガイドラインでは、急増している患者の多くは軽症か、うつ病の診断基準以下の「抑うつ状態」と推測されると指摘。軽症者に抗うつ薬の使用については、「大量処方や漫然とした処方は避けるべきだ」として、臨床現場では「慎重な判断が求められる」とした。

 薬物療法は「過去に抗うつ薬に良好な反応が得られたこと、罹病期間が長期であること、睡眠や食欲の障害が重い、焦燥がある、維持療法が予測される場合」と規定した上で、焦燥感や不安感の増大などの副作用に注意して、少量から始めることを原則とした。

 軽症うつ病の治療の基本は、患者の話をよく聞き、理解を示しながら回復に導く支持的精神療法であり、その前提として、患者との信頼関係の構築が欠かせないと強調した。

 推奨されるのは「個々の患者さんの所見やニーズにそって、個別のきめ細かい対応をしていくこと」として、「医師がさまざまな視点から治療選択肢を検討して患者への提示を行い、その上で患者の希望や、費用や治療へのアクセスなどの実現可能性を考慮した上で決定していく」としている。

 中等症・重症では、SSRIなどの抗うつ薬とベンゾジアゼピン系の抗不安薬が使われることが多いが、抗うつ薬を1種類使うことを基本とし、「合理的な理由のない多剤併用を行わない」とし、漫然とした使用は避けるべきだと警告した。

日本うつ病学会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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