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2012年10月09日

中国に日本の糖尿病診療を輸出 患者の満足度は100%

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 日本の質の高い糖尿病療養指導に対し、中国で称賛の声があがっている。東京家政学院大学現代生活学部の國井大輔氏が、10月6日に東京で開催された第34回日本臨床栄養学会で発表した。
「日本式糖尿病治療クリニック」を中国で展開
 経済成長とともに医療へのニーズが高まっている中国を対象に、日本がはじめて官民一体の「病院輸出」に乗り出した。診療と医療機器をセットで提供し、日本医療の評価を高め、医療産業の柱に育てるのが狙いだ。

 「近年中国の経済発展は著しく、人々の生活習慣は大きく変化している。ところが、その影響で糖尿病の増加が新たな問題として浮上してきた。経済は発展しているものの、診断・治療する設備や技術、予防方法や知識は不足している」と國井氏は指摘する。

 中国の糖尿病患者は爆発的に増加している。国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、2010年には糖尿病有病数が9,240万人に達し、有病率は9.7%に上る。糖尿病予備群の数は1億4,820万人で、有病数とあわせると2億4,060万人を超えるとみられている。しかも、糖尿病有病者の60.7%が診断を受けておらず、早期に効果的な治療を受けられないことが問題視されている。

 そこで「日本式糖尿病診療サービス」を中国に導入する動きが始まった。このプロジェクトは経済産業省が主導する「医療サービス国際化推進事業」の一環として推進されているもので、東京大学医学部付属病院糖尿病・代謝内科の医師と看護師、日本アミタス健康科学統合研究センターの管理栄養士などで構成される医療チームを中国に派遣し、日本の医療サービスを提供する仕組みだ。

 第1回の派遣は2011年10月に行われた。「日本式糖尿病治療クリニック」を上海交通大学付属病院内に設置し、中国人糖尿病外来患者に対し、日本の医師による診察と治療、看護師による糖尿病教室、管理栄養士による食事・栄養指導を実施した。

 上海交通大学付属病院は1,766床、33診療科からなる国内では規模の大きい病院で、入院患者数は年間7万5,000人に上る。國井氏ら栄養指導チームは、2011年9月から翌年2月にかけて、糖尿病外来で栄養指導を実施した。

 日本で使用されている患者教育用の資料を中国語に翻訳し、日本製の食品模型などを活用した。きめ細やかな指導は中国人患者の好評を得て、当初は少人数の個別指導を予定していたが、参加希望者が多かったので集団指導に切り換えたという。対象となったのは個別指導が416人、集団指導が311人だった。

 対象者の平均体重は65.5kgから64.8kgに、食後血糖値は8.8mmol/Lから7.7mmol/L、尿中微量アルブミン値は79uAlb/Creから24uAlb/Cre、総コレステロール値は5.3mmol/Lから4.9mmol/Lに改善した。提供した医療サービスへの患者の満足度はきわめて高く、日本製の特定保健用食品のサンプル配布とアンケート調査も実施したが、患者から高い関心が示されたという。

 日本の医療機関の海外展開を促すことで、日本の医療に対する国際的な認知度が高まり、海外の医療機関間の交流が促進されることも想定される。その結果、海外の症例をはじめとするさまざまな医療データが国内に蓄積されるため、日本の医療そのものの質が向上するという期待もある。さらに、日本企業の医療機器や医薬品などを日本の医療サービスと連携し海外で展開し、国際競争力の強化にも貢猷できる。

 「日本側にとっては、中国の臨床現場の視察・調査、今後の海外展開のきっかけとなるだけでなく、医療機器のマーケティングや未承認医療機器の認知向上からの申請促進なども考えられる。また、管理栄養士を導入した予防医療の普及により、現在年間推定約2兆円である中国国内の糖尿病医療費を削減することにもつながる」と國井氏は述べている。

 これまで海外において日本は自動車や電気機器というイメージが主だったが、このプロジェクトにより高度な医療技術を世界にアピールすれば、将来的に医療産業が日本の代名詞となる日が近づく。「医療技術はインフラの整備が整ってきた発展途上国で必要とされている。各国の医療格差が埋まることに期待したい」と國井氏は期待を込める。

日本アミタス
メディカルエクセレンスジャパン

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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